2017年度 東京ビジネスデザインアワード 結果発表
レベルの高いビジネス提案が集う

最優秀賞は、実現性と将来性のバランスを評価

2月上旬、東京ビジネスデザインアワード(TBDA)の最終審査および結果発表が東京ミッドタウンで行われた。TBDAの目的は、都内のものづくり企業とデザイナーの協働による新ビジネスの創出。まず企業から「お題」となる技術や素材を集め、それらに対する提案をデザイナーから募集する。6回目となる今回は148件の応募があり、そのうち企業とデザイナーのマッチングが成立しテーマ賞を受賞した8チームが最終審査に進んだ。

▲最終審査会では、8チームによるプレゼンテーションとプロトタイプの展示が行われた。

最優秀賞を受賞した「ユーザーが生地をカスタマイズできるパターンシート」は、アイロンを使わない転写シールの技術を応用し、さまざまな絵柄を組み合わせて生地を自由にカスタマイズできるシートだ。利用シーンの想定だけでなく、ワークショップでユーザーの反応を見たり、販売の仕方までシミュレーションするなど、実現性の高いビジネス提案になっている点が高く評価された。廣田尚子審査委員長は、「TDBAの目標である商品開発には、よい技術、よいデザイン(モノ)、よいビジネスの三つ巴が不可欠。最優秀賞にはそれがきちんと揃っていた」と講評した。

▲最優秀賞「ユーザーが生地をカスタマイズできるパターンシート」
榊原美歩(GoodTheWhat) ☓ 株式会社扶桑

デザイナーの榊原美歩氏は、「提案二次審査の時に、審査員から次はこれをどうビジネス化していくかがポイントだと言われました」と振り返る。「最初はモノとしての面白さを追求していたが、生地をカスタマイズするという今までにない用途や文化をいかに知ってもらうかを考えた。小売店や量販店などの売り場を調査し、伝え方・広め方のデザインに力を注ぎました」。

扶桑の富田成昭氏は、榊原氏の提案について、「寄せられた案のなかで最も現実的につくり込まれていた」と話す。また、「会社として受け身体質からの脱却もテーマだったので、当社の転写技術を広く認知してもらうというコンセプトが好印象でした」。社内でも「シートを重ね貼りする発想はなかった」「おもしろそうだ」といった声が出て、活性化につながっている。今後はワークショップや展示会を通じて改善点を拾い、商品化に向けてさらにブラッシュアップしていくという。

既存の価値を見直し、転換する提案

TBDAでは、ものづくり企業がもっている素材や技術を再評価し、新たな領域に応用したり、素材や技術そのものを広く認知させていくような提案が多い。

例えば、優秀賞「新しい機能性を持たせた『光る発泡スチロール』」は、木製樽の製造・販売業からはじまり創業100周年の石山が誇る発泡スチロールの成型技術を生かす。軽量、断熱性、緩衝性、耐水性などの性質をもつこの素材に蓄光性顔料を加えることで、防災という新たな可能性を見出した。40センチ角の多機能パネルは避難所での間仕切りやマット、サインなどとして使うことができる。また簡易トイレなど他の防災製品と組み合わせることで暗い場所での使用をサポートする。既に素材の開発と蓄光性能の実験を進めており、チームは「発泡スチロールの新しいスタンダードを目指す」と意気込みを見せた。

▲優秀賞「新しい機能性を持たせた『光る発泡スチロール』」
榎本大輔、横山織恵(hitoe) ☓ 株式会社石山

「薄い、曲がる無機ELシートを応用した照明器具」は、鉄道や船舶の計器類や時計のバックライトとして使われてきた無機ELの薄さ、軽さ、しなりという性質を生かした提案だ。これまで工業用部品として裏方のような存在だった無機ELをコンシューマ向けにアピールしたいと、材料そのままのシンプルなかたちにまとめた。デザイナーの米田浩介氏は、「色、しなり、明るさなどを調整することができます。ただの置型の照明としてだけでなく、素材に触れる楽しさを提案したい」と説明した。

▲テーマ賞「薄い、曲がる無機ELシートを応用した照明器具」
米田浩介 ☓ 株式会社海光社

時代を反映したプラットフォームの提案も

審査員の服部滋樹氏が、「デザインやクリエイティブの役割が変化するなかで、今回は仕組みをつくる話や、ジャンルを超えるような提案が印象に残った」と語るように、モノだけでなくそれが流通したりサービスを提供するためのプラットフォームまで考案したチームもある。

優秀賞を受賞した「プログラミング思考 ☓ パズル。未来を広げる知育玩具。」は、2020年から小学校ではじまるプログラミング教育に着目した提案だ。ICチップを組み込んだパズルとアプリを連動させ、親子の読み聞かせを通じてプログラミングの基本的な考え方を直感的に伝える玩具は、将来的にさまざまなターゲットに向けたコンテンツの展開も考えられる。やのまんの専務取締役 矢野宙司氏は、「既存の技術にこだわるよりは、パズルという遊びの要素をいかに盛り込むか考え、新しい領域を見つけていきたい」と語る。

▲優秀賞「プログラミング思考 ☓ パズル。未来を広げる知育玩具。」
松岡湧紀、青井正仁、榛葉幸哉、西畠勇氣(電通アイソバー) ☓ 株式会社やのまん

「“バナナペーパー”製品を通じて、生産者と消費者を幸せの連鎖で繋ぐプラットフォーム」は、途上国の生産者の生活改善を目的とするフェアトレードと、婚姻証明というサービスを結びつける仕組みの提案だ。ブロックチェーン(分散型台帳)や仮想通貨を活用することで、今までできなかった個人取引や証明が可能になる。また婚姻だけでなく、LGBTのパートナー証明や出生証明、卒業証明といった横展開が考えられ、時代を反映した提案として審査員の関心を集めていた。

▲テーマ賞「“バナナペーパー”製品を通じて、生産者と消費者を幸せの連鎖で繋ぐプラットフォーム」
河井健之介、小長谷久子 ☓ 寿堂紙製品工業株式会社

このように、TBDAは単にものづくりのクオリティや発想の新しさのみを競うアワードではない。「メーカーは製品をつくるだけ」「デザイナーは絵を描くだけ」というマインドの境界を超え、両者がともに「ビジネスをデザインする覚悟があるかどうか」を見極めるアワードでもある。今回を振り返り、審査員たちは口々に「全体的にレベルが高い」「ビジネスの仕組みがよく考えられている」「企業とデザイナーの関係が良好」など成果を称えた。6回目を迎え、アワードの主旨やねらいが参加する企業やデザイナーにも浸透してきたということなのかもしれない。

▲テーマ賞受賞全8チーム、審査員とともに。