PVC DESIGN AWARD 2017
機能性と美を備えた、ガラスのお皿のような「Ripplate(リップレート)」

▲デザイナーの室伏 翼さんと三洋の鈴木伸也さん。受賞作品「Ripplate」を手に。 Photo by Kaori Nishida

PVC(塩化ビニル)の特長を生かしたデザインや製品を公募する「PVC DESIGN AWARD」は、2017年で7回目を迎えた。デザイナーとメーカーによる未発表のデザイン提案と、メーカーの試作品や販売中の製品応募による2つのラインがあり、前者には175点、後者には95点の応募があった。テーマもこれまでの安全性や機能性に加え、PVCならではの美しさが重視されるなか、ガラス皿の質感をPVCに置き換え、さらに保冷機能を持たせた「Ripplate」(室伏 翼さんと株式会社三洋)が準大賞に輝いた(大賞の該当はなし)。受賞者に作品のコンセプトや開発経緯について聞いた。

ーー三洋は2017年に創業70周年を迎えました。PVCや合成樹脂に関連する商品の加工・販売事業を展開しています。

鈴木伸也 当社は長年PVCをはじめとする合成樹脂素材の販売に加えて加工製品を手がけるところまで取り組んでいます。現在は介護、医療の分野にも力を入れています。

▲三洋の鈴木伸也さん。 Photo by Kaori Nishida

ーーPVC DESIGN AWARDには初回から参加していますね。

鈴木 当社の代表が過去東京ビニール商業協同組合の理事長を務めていたこともあり、業界を盛り上げられたらという想いで積極的に参加しています。私が所属している部署は、新しい素材を試作したり、それを製品に近いところまでもっていくのが仕事です。新しい情報も入ってきやすく、比較的自由にアワードの作品づくりに取り組んでいます。2015年に入賞したドアストッパー「Door Cube(ドアキューブ)」は三洋のオリジナル商品として販売しており、会社のピーアールにもつながっています。

▲2015年入賞作「Door Cube」(株式会社三洋)

▲2012年大賞作「PUSHION(プッション)」(株式会社三洋)

ーー室伏さんもPVC DESIGN AWARDの応募経験者ですが、仕事ではどんなデザインを手がけているのですか。

室伏 翼 私は、静岡県浜松市にある共和レザー株式会社で自動車の内外装加飾フィルムや、建材フィルム等のパターンおよびテクスチャのデザインを担当しています。こうした部材にはPVCがかなり使われており、触れる機会の多い素材です。PVC DESIGN AWARDの応募は3回目です。会社の同僚と一緒に2011年、12年と応募し、入賞もしました。同僚と共同で取り組む時間がなかなか取れず、それなら今回は1人で挑戦してみようと思い応募しました。

▲デザイナーの室伏 翼さん。 Photo by Kaori Nishida

▲室伏さんらによる2012年入賞作「ピブロ」。

PVCだからこそ可能な価値を探して

ーー2017年のテーマ「未来を拓くPVC 機能と美の創造」についてどう捉えましたか。

室伏 過去のPVC DESIGN AWARDでは安全や機能がテーマになることが多かったですが、今回は、見た目の美しさもかなり重要と考えました。

ーーそのデザイン提案に対して、三洋がマッチング相手として手を上げたわけですね。

鈴木 すべてのデザイン提案を見て、やりたいものに投票する仕組みでした。ほかの社員と一緒に検討したのですが、「Ripplate」は、私たちが得意とすることと、チャレンジしたいところのバランスがよく、「最終製品までいけるのではないか」という話になって決めました。

室伏 まさか三洋さんに選んでもらえるとは思わなかったです。過去にも受賞歴があり、素材の周知にも貢献されている。そんな会社に選んでいただいたことが、まず嬉しかったですね。

ーー「Ripplate」のコンセプトを教えてください。

室伏 作品のアイデアは私の実体験に基いています。友人たちとアウトドアを楽しむ際に、食材やデザートをクーラーボックスにしまっておかなければならないのが気になっていて、冷やしたままテーブルの上に置ける、お皿のようなものができないか考えていました。作品名は英語の「Ripple(水紋、波紋)」と「Plate(皿)」からの造語で、ものを置いたときにそこから広がる波紋をイメージしてデザインしました。

鈴木 中央のくぼみは、保冷して結露した水滴がたまるようになっています。またくぼみと縁の間をふさがないことによってゼリー状の保冷剤がなかで自在に移動し、冷却温度が伝わりやすくなっているなど機能面もこだわっています。

Photo by Kaori Nishida

ーーPVCならではの素材感で色もきれいですね。

室伏 ヴィンテージのガラス皿のようなイメージで、重厚感や鏡面を出すために厚みのあるPVCを使っています。色も、ガラスを思わせる配色を選んで三洋さんにつくっていただきました。

鈴木 室伏さんは色について特にこだわりがあり、かなりのやり取りがありました。こうして全色並べてみるとバランスがとてもよく、さすがデザイナーの力だなと思います。

▲PVCと保冷剤の両方に色をつけて混色するというアイデアもあったが、今回は保冷剤のみ着色している。

一度も会うことなく、スムーズに開発。

ーー難しい課題などはありましたか。

室伏 PVC製品というのはウェルダー加工をするとどうしても、浮き輪のようにひらひらした端部ができて、遊具感が出てしまうんです。食材を置くテーブルで使うことを考えるとそういった見え方にはしたくなかったので、端が目立たないような処理ができないかを相談しました。

鈴木 私たちにも、あまり縁を残さない加工方法について知見があったので、室伏さんの要望に応えたいなと思いました。

Photo by Kaori Nishida

室伏 できれば縁が全くないくらいツルツルにしたかったんです。鈴木さんにサンプルや加工方法の提案をしてもらいながら、試作を繰り返していきました。

ーー東京と静岡でどのようにやり取りをしていたのですか

室伏 メールと電話だけです。何度かそちらに伺おうかという話もあったのですが、その間にも鈴木さんがどんどん新しいサンプルをつくってくれたので、スピーディにやり取りが進んでいきました。

鈴木 お互いのCADソフトが同じだったのも大きかったですね。室伏さんのデータがすごくわかりやすくて、「このラインは絶対実現したい」という感覚を共有できました。限られた予算のなかで製造は一発勝負になるため、加工側の都合に合わせてデータを微調整してもらうなど、事前にディテールを詰めることができました。実は、室伏さんご本人にお会いしたのは授賞式がはじめてだったんです。今回のマッチングを通じて、こういうかたちのコラボレーションが可能なんだということを実感しました。

Photo by Kaori Nishida

PVCの概念をいい意味で裏切っていきたい。

ーープレゼンボードのイメージも丁寧につくり込まれています。

室伏 今回、デザインの提案というよりは、その先にある、「このモノを通じてどういった体験ができるか」までを提案したいと思っていました。プレゼン用の写真は自宅近くの河川敷でピクニックの風景をイメージして、単純に保冷するお皿だけでない、見た目の楽しさを演出しました。審査員の方々にもそうした視点を評価していただけてよかったです。

▲プレゼン用のイメージ写真。

鈴木 GOOD DESIGN Marunouchiでの展示会では、とても多くの海外の方が見てくださり、興味をもっていた様子が印象的で、大きな手応えを感じました。今後は、保冷効果を検証しながら、室伏さんと一緒に製品化に向けたプロトタイプをつくっていきたいと思います。1年以内くらいに製品化できればいいですね。

室伏 デザイン面でも、サイズやテクスチャの展開などいろいろできるのではないかと思っています。

▲GOOD DESIGN Marunouchiでの展示の様子。2017年11月16日(木)〜11月26日(日)の期間中、約3,700人の来場者が訪れた。1,000人にアンケートを取ったところ、600人が「リップレート」を高く評価したという。

ーー最後に、おふたりが考えるPVCの可能性について教えてください。

室伏 PVCは本当に何でもできる素材。一方で、素材自体のネガティブなイメージがいまだ根強い。その既存概念をいい意味で裏切るようなデザインに可能性があると思っています。例えば、Ripplateを単に「PVCの保冷剤」として考えたら「重い」という評価になってしまう。でもこれを「ガラスの器」と捉えたら重さは感じないはずです。PVCをPVCと思わせない、ギャップに驚かれるようなアプローチを今後も探っていきたいです。

鈴木 PVCは汎用樹脂としての歴史が長く、古い素材というイメージがあります。部材開発も1970年代くらいまでに一通りやり尽くされているところがある。一方で、現在は3Dプリンターが普及し、個人がDIYできる場所もあります。今だからこそ、新しいアプローチの部材開発ができるような気がしているんです。少人数でちょっと思いついたものをつくってみる。そうしたスピード感のあるものづくりが、PVCであれば可能かもしれません。

ーーありがとうございました。End