デジタルカメラがスマートフォンに市場を奪われ続ける一方で、富士フイルムの「チェキ」に代表されるアナログのインスタントカメラは若者を中心に盛り上がりを見せている。同様に音楽の分野では、今でもレコードで新譜をリリースするミュージシャンやかつての名盤を復刻販売するレーベルがあり、それを再生するプレーヤーもソニー、パナソニック、ヤマハといった大手企業を含む、いくつかのメーカーから新製品がリリースされるほどになった。
さらに、カセットテープも、特にメタルテープをハイエンドのカセットデッキで再生すれば、それなりの高音質でリスニングできる点などが見直され、インターネット上にカセット専門の通販サイトが立ち上がっているほか、今も録音用のカセットテープの生産を続けているメーカーが残存者利益を得て残っている。
そんななか、デジタル音楽プレーヤーとカセットテープを融合した「ミックステープ」なる製品が現れた。過去にも、音楽プレーヤーの再生を、入力端子を持たないカーオーディオから行うためのカセットテープ型アダプタや、外装がカセットテープそっくりのデジタル音楽プレーヤーというものは存在した。ミックステープも後者の製品の延長にあるが、3種類の再生方法が用意されている点で大きく異なっている。
1つ目の再生方法は、既存の同種の製品と同じく、カセットテープの形をした筐体にイヤフォンを直接差し込んで再生するというもの。2つ目は、ブルートゥース機能を内蔵しているので、ワイヤレスで接続可能なイヤフォンやスピーカーから再生を行うもの。そして、3つ目が画期的な点なのだが、本体をそのままカセットデッキやラジカセに挿入して、あたかもカセットテープそのもののように再生するという方法だ。楽曲は、マイクロSDにコピーしてミックステープのスロットに差し込むか、コンピュータとミックステープをUSBケーブルでつないで転送する。
確かに、最盛期のカセットデッキのデザインが持つメカニカルな雰囲気は、現在の電子機器にはない特徴と言え、同じくラジカセにも一定以上の世代には郷愁を誘い、若い世代にはフィルムカメラと同様のレトロな面白さを感じる部分がある。そうした文化遺産的な製品を死蔵せず、実用として使うための工夫として、ミックステープのような製品が登場してもおかしくはない。
実は、現在80ドルで販売中のミックステープは、Vol.1という位置づけで、付属のマイクロSDカードにインディーズ系の楽曲17曲が収められている。つまり、ミックステープ自体には楽曲販売のためのメディアとしての役割もあり、今後も、収録曲を変えたバリエーションが追加されていくものと思われる。
ニッチではあるが、アナログ時代のデバイスとデジタル技術をブリッジする試みとして、なかなか興味深い製品と感じた。