クラフトとデザインを発信する
メルボルン最大のデザインマーケット
「Big Design Market」

▲カールトン庭園内のロイヤルエキシビションビルディングの「Big Design Market」入り口。会期中、唯一の青空が望めた最終日には多くの来訪者で賑わった

オーストラリアのメルボルンで、12月1日から3日間の会期でクラフトやデザイン性の高いプロダクトなどを気軽に購入できるイベント「Big Design Market」が開催された。会場となったロイヤルエキシビションビルディングは、1880年のメルボルン万博のために建設された歴史的建造物で、世界遺産に登録される観光スポット。あいにくの悪天候にもかかわらず、来訪者で溢れた会場の様子をレポートする。

▲館内の大空間には230組のブースが立ち並ぶ。中央のカラフルなオブジェは、ゲストアーティスト、Pete Cromerさんによるインスタレーション

つくり手の顔が見えるマーケット

2017年の出店募集には800件以上の応募があり、そこから厳選された230組の内訳は、日本から2組、ニュージーランドから1組、それ以外はすべてローカルの出展者。ジャンルは、生活雑貨やフードからファッション、アクセサリー、子ども向けの絵本までと幅広い。

▲メルボルンを拠点とするGhost Waresの陶器は薄い仕上げと極細のハンドルが特徴的。高温で焼き上げることでこのフォルムを実現しているという

▲植物からインスピレーションを得たアクセサリーを数多く展開するハンドメイドジュエリーブランド、Shabana Jacobson

2012年にスタートした同イベントは、あっという間にクリエイティブな街メルボルンに定着し、2016年からはシドニーとメルボルンの2拠点開催へと拡大している。イベントのスタート時からディレクターを務めるSimon Obarzanekさんにイベントを始めた経緯や出展者の選定基準を尋ねると、「いちばんの目的は、メルボルン周辺でものづくりをしているインディペンデントなデザイナーやスモールビジネスを立ち上げたばかりのオーナーが顧客と出会う接点をつくりたかった」。

続けて、「個人規模で活動をしていると良いものをつくっても顧客と出会うことは難しく、店舗を出すにも広告を打つにも費用がかかる。そこで、主催者である私たちがキュレーションを行い、大規模な広告展開をすることで、新しい場を創出できると考えた」と言う。

初年度の来場者は約3万人を数え、2年目以降は約5万人を集客する大イベントに成長。2016年からは「シドニーにも来て欲しい!」というソーシャルメディア上での消費者からの声に応えるかたちで、シドニーにも進出して成功を収めた。

▲「今年はバルコニー・バーを新設したから会場を見下ろしながらワインが飲めるよ」とバーのポストカードを手にインタビューに応じてくれたBig Design Marketのディレクター、Simon Obarzanekさん

会場を歩いて感じるのは、街中の店舗や百貨店などでは感じられない、つくり手と直接コミュニケーションができる楽しさ。陶芸の作家から、ポスターやアートワークを販売するアーティスト、ピアスなどを所狭しと並べるジュエリー作家らのブースがランダムに並び、モダンなプロダクトから、手仕事の温かみを感じさせるものまで、巨大セレクトショップに来たかのようなバラエティが来訪者を飽きさせない。

出展者の選定については、「デザインの現代性はもちろん、製品の質とオリジナリティ、それに加えて環境配慮といった社会性を厳しくチェックしている」と語る。また、会場内では、公式パートナーのSt. Aliのコーヒーや、Moo Brewのクラフトビールなど地元を代表する味で一息つくこともできる。

▲2016年にリブランディングした新しいパッケージが好評のLove Teaは、メルボルン発のオーガニックティーブランド

▲蜜蝋の粘着性を利用した、繰り返し使うことのできるラップを製造販売するHoneybee Wrapのオーナー、Sherrie Adamsさん。フルーツや野菜などを包むのに最適で、水洗いすれば1年ほど使うことができる

デザイナーが自ら立ち上げたブランドも

シドニーを拠点に化粧品のパッケージなどプロダクトデザインを手がけるデザインスタジオ、Containerのメンバーが自ら立ち上げたコスメティックブランド「leif」は、Big Design Marketの常連。

「僕らはデザイナーとして、化粧品ボトルのスタディを繰り返すうちに、オーストラリア原産の植物成分でできたピュアな製品を販売してみよう、というひらめきからleifを2011年に立ち上げたんだ。今もデザイン事務所として活動しているが、leifはただの実験ではなくビジネスとして力を注いでおり、オーストラリア国内での認知は高まってきている。今年は日本語をはじめ数カ国語に翻訳したブランドコンセプトカードをつくってみたところで、海外での展開も視野に入れていきたい」と、Containerの共同代表のひとり、Jonnie Vigarさんは話してくれた。

▲プロダクトデザイン事務所、Containerが立ち上げたコスメティックブランドleifのブース

▲細いネックのボトルがアイコニックなleifは、オーストラリア原産の植物エキスにこだわりボディクレンザーやハンドバーム、ヘアケア製品などを展開

また、2014年にキックスターターを活用して、デザインエンジニアと会計士のキャリアを持つサウスメルボルンの二人組が立ち上げたウォーターボトルのブランド「memobottle」は、卓上にボトルを置くためのスタンドなど新製品ラインナップを一挙に発表。バッグの中のガジェット類や書類と相性の良いサイズ感のボトルやボトルケースなどは、今や世界で注目を集めている。

▲memobottleのファウンダーのひとり、Jonathan Byrtさん。サウスメルボルンの海を愛する彼らは、砂浜に捨てられたペットボトルの山から、繰り返し使うことのできるボトルを開発することを決意し、その薄型のボトルでこれまでに世界各国のデザイン賞を受賞している

▲同社の新製品、デスク上で使うためのボトルスタンド。レザーのボトルケースや、各色のボトルキャップなど個性を表現するアイテムも多数展開している

メルボルンのデザインに活気があるわけを尋ねると、主催者のSimonらは、「冬はいつも曇っているから室内でデザインに打ち込むくらいしかすることがないんだよ。それが、クリエイティビティの原動力なっている」と冗談混じりに語ったが、インターナショナルな価値観で暮らす都心の消費者と、クリエイターたちの制作拠点が近いことが、エシカル、サスティナビリティといったトレンドを軽やかに反映して小規模チームで製品化までもっていく、メルボルンらしいものづくりの一因となっているのだろう。

また、オランダのデザインアカデミー・アイントホーフェンで学び、今はメルボルン近郊のブランズウィックにアトリエを構えるAlterfactoのふたりのように、さまざまなバックボーンを持つデザイナーが混じり合うことで生まれる独特のカルチャーが街の魅力となっている。End

▲ブランズウィックにアトリエを持つAlterfactのブースでは、セラミックで造形する独自開発の3Dプリンターによる実演が行われていた

▲3Dプリンターでつくられた、Alterfactによる繊細なフラワーベース

▲メルボルンを拠点に木製のテーブルウエアを展開するSands Madeの木製ペッパーミル。すべてのデザインはRobbie Sandsさんがメルボルンで手がけ、製作は日本の職人とコラボレーションしたものもあるという