REPORT | ビジネス / 工芸
2017.12.14 15:27
オーストラリアのメルボルンで、12月1日から3日間の会期でクラフトやデザイン性の高いプロダクトなどを気軽に購入できるイベント「Big Design Market」が開催された。会場となったロイヤルエキシビションビルディングは、1880年のメルボルン万博のために建設された歴史的建造物で、世界遺産に登録される観光スポット。あいにくの悪天候にもかかわらず、来訪者で溢れた会場の様子をレポートする。
つくり手の顔が見えるマーケット
2017年の出店募集には800件以上の応募があり、そこから厳選された230組の内訳は、日本から2組、ニュージーランドから1組、それ以外はすべてローカルの出展者。ジャンルは、生活雑貨やフードからファッション、アクセサリー、子ども向けの絵本までと幅広い。
2012年にスタートした同イベントは、あっという間にクリエイティブな街メルボルンに定着し、2016年からはシドニーとメルボルンの2拠点開催へと拡大している。イベントのスタート時からディレクターを務めるSimon Obarzanekさんにイベントを始めた経緯や出展者の選定基準を尋ねると、「いちばんの目的は、メルボルン周辺でものづくりをしているインディペンデントなデザイナーやスモールビジネスを立ち上げたばかりのオーナーが顧客と出会う接点をつくりたかった」。
続けて、「個人規模で活動をしていると良いものをつくっても顧客と出会うことは難しく、店舗を出すにも広告を打つにも費用がかかる。そこで、主催者である私たちがキュレーションを行い、大規模な広告展開をすることで、新しい場を創出できると考えた」と言う。
初年度の来場者は約3万人を数え、2年目以降は約5万人を集客する大イベントに成長。2016年からは「シドニーにも来て欲しい!」というソーシャルメディア上での消費者からの声に応えるかたちで、シドニーにも進出して成功を収めた。
会場を歩いて感じるのは、街中の店舗や百貨店などでは感じられない、つくり手と直接コミュニケーションができる楽しさ。陶芸の作家から、ポスターやアートワークを販売するアーティスト、ピアスなどを所狭しと並べるジュエリー作家らのブースがランダムに並び、モダンなプロダクトから、手仕事の温かみを感じさせるものまで、巨大セレクトショップに来たかのようなバラエティが来訪者を飽きさせない。
出展者の選定については、「デザインの現代性はもちろん、製品の質とオリジナリティ、それに加えて環境配慮といった社会性を厳しくチェックしている」と語る。また、会場内では、公式パートナーのSt. Aliのコーヒーや、Moo Brewのクラフトビールなど地元を代表する味で一息つくこともできる。
デザイナーが自ら立ち上げたブランドも
シドニーを拠点に化粧品のパッケージなどプロダクトデザインを手がけるデザインスタジオ、Containerのメンバーが自ら立ち上げたコスメティックブランド「leif」は、Big Design Marketの常連。
「僕らはデザイナーとして、化粧品ボトルのスタディを繰り返すうちに、オーストラリア原産の植物成分でできたピュアな製品を販売してみよう、というひらめきからleifを2011年に立ち上げたんだ。今もデザイン事務所として活動しているが、leifはただの実験ではなくビジネスとして力を注いでおり、オーストラリア国内での認知は高まってきている。今年は日本語をはじめ数カ国語に翻訳したブランドコンセプトカードをつくってみたところで、海外での展開も視野に入れていきたい」と、Containerの共同代表のひとり、Jonnie Vigarさんは話してくれた。
また、2014年にキックスターターを活用して、デザインエンジニアと会計士のキャリアを持つサウスメルボルンの二人組が立ち上げたウォーターボトルのブランド「memobottle」は、卓上にボトルを置くためのスタンドなど新製品ラインナップを一挙に発表。バッグの中のガジェット類や書類と相性の良いサイズ感のボトルやボトルケースなどは、今や世界で注目を集めている。
メルボルンのデザインに活気があるわけを尋ねると、主催者のSimonらは、「冬はいつも曇っているから室内でデザインに打ち込むくらいしかすることがないんだよ。それが、クリエイティビティの原動力なっている」と冗談混じりに語ったが、インターナショナルな価値観で暮らす都心の消費者と、クリエイターたちの制作拠点が近いことが、エシカル、サスティナビリティといったトレンドを軽やかに反映して小規模チームで製品化までもっていく、メルボルンらしいものづくりの一因となっているのだろう。
また、オランダのデザインアカデミー・アイントホーフェンで学び、今はメルボルン近郊のブランズウィックにアトリエを構えるAlterfactoのふたりのように、さまざまなバックボーンを持つデザイナーが混じり合うことで生まれる独特のカルチャーが街の魅力となっている。