TAKT PROJECTの初個展「SUBJECT⇌OBJECT」。
自主研究から見えてくる新しいデザインのかたち

▲会場には7枚のパネルが立ち、表には主題となるサブジェクトが記され、裏にはそこから生まれたオブジェクトを解説する。

2013年にスタジオを立ち上げて以来、既存のプロダクトデザインの方法や慣習にとらわれない発想が評価されているデザインスタジオ「TAKT PROJECT」。彼らの初めての個展が、東京・六本木のアクシスギャラリーで12月3日まで開かれている。初期の作品からデザインマイアミやミラノデザインウィークで発表したもの、さらに最新の自主研究まで、計7つのプロジェクトが一堂に集まっている。

▲TAKT PROJECTの代表を務める吉泉 聡。

問いを可視化するための自主研究プロジェクト

個展のタイトル「SUBJECT⇌OBJECT(サブジェクト−オブジェクト)」について、代表の吉泉 聡はこう説明する。「デザインは、すぐに製品として使えるものをつくるだけでなく、これからの社会で何が必要になるかといった問いをビジュアライズするという重要な役割があると思う。僕らはその問いをサブジェクトと呼び、オブジェクトとして知覚化することで、考えるきっかけをつくり出したい」。

▲「何を量産するのか?」というサブジェクトに対し、提示したオブジェクトは「Dye It Yourself」(2015年)。大量生産を象徴するようなプラスチック製品に、DIY(Do it Yourself)やカスタムという要素を加えることで新しいもののあり方を提案する。

▲「COMPOSITION」(2016年)はミラノサローネで高い評価を得た作品。「数十万円で購入したいと言う人も現れた。機能だけなら100均ショップでも買えるのに、価値が突然に転換することが面白い」(吉泉)。新作3点はコンセプトをより明確にするためキューブにしたという。

▲「均質の価値、不均質の価値」というサブジェクトに展示されたのは、三井化学とコラボレーションした「deposition」(2017年)。金属と樹脂を結合させ、その不均質なテクスチャーを生かした照明を制作。

音楽的に創造する

会場では自主研究プロジェクトを中心に紹介することで、彼ら独自の視点が浮き彫りになる。例えば、「創造の手段を展開する」というサブジェクトに対して、提示したオブジェクトは「3-PRING PROJECT」(2014年)。例えば、既製品のプラスチックケースをスタッキングするために、3Dプリンタでアフターパーツをつくった。吉泉は、「TAKT PROJECT設立後に初めて行った自主研究プロジェクト。当時は『3Dプリンタで誰もがメーカーになれる』といった風潮があったけれど、僕らはもう少し現実的に3Dプリンタの役割をとらえ、実際に人々が使えるものを考えた」と話す。

▲「3-PRING PROJECT」(2014年)。3Dプリンタで彼らがつくったのは、単なるプラスチックケースがスタッキングできるようになるなど、既存の製品に加えるパーツ。

コンセプトのヒントになったのは、音楽だ。オブジェクト名の「3-PRING」を「サンプリング」にかけているように、自分で好きな楽曲をサンプリングしてミックスするという、デジタル時代における音楽の楽しみ方とリンクさせている。「ものづくりの観点からなぜ音楽が面白いかと言うと、形のないものだから。ハードをつくる身からすると、音楽って素材などの制約がないからストレートに創造性を表現することができる。これからのものづくりの参考になると思う」(吉泉)。

▲DJコントローラと同じように、3Dプリンタも既存の素材をミックスするためのツールととらえた。

この「サンプリング」という考えをより実践的なデザイン手法に活用したのが、最新プロジェクトの「Field Recording」(2017年)だ。「音楽的に創造する」というサブジェクトの下、ハンディタイプの3Dスキャナを持って街を歩き、見つけた形体をスキャンして持ち帰り、楽曲をつくるようにCADで即興的に造形した。

▲音楽のフィールドレコーディングではレコーダーを持って街に出て、撮った音源を素材に楽曲をつくる。「スタジオで音を出して組み合わせるのと違い、世界の見方や関わり方が変わるような行為だと思う」と吉泉。映像は、吉泉が3Dスキャナを持って街を歩いた「Field Recording」の制作プロセス。

それは目の前にある形と純粋に戯れるような感覚らしい。できたものには機能性も目的もないが、吉泉は「新しいやり方や考え方を発見するための活動なので、これがファイナルプロダクトであるかないかは重要ではない」と言う。「工業デザインはツールや慣習に制限されている面がある。新しいプロジェクトを始めると同時にCADを立ち上げて造形をするような時代もあったけれど、それをもう一度考え直すことで、これまでと全く違うアプローチができるのでは」。

▲「Field Recording」(2017年)。駅でボコボコになってしまった配管や、路上に放置されたポリタンク、金属にめり込んでしまった樹木をレコーディングしてつくった形は、意図してはつくれないものばかり。

とりあえずやってみよう

ほかに、UV印刷加工を紙の構造体にする試み「pecopaco」(2016年)や、スワロフスキーとのプロジェクト「Ice Crystal」(2017年)といったクライアントワークも展示している。「自主研究プロジェクトを見て声をかけてくださるクライアントもいます。すでに企画があってファイナルプロダクトだけを求められるよりは、どうなるかわからないような状態からやらせていただくことが多いかもしれません」。

▲「pecopaco」(2016年)は、UV印刷の強度に着目して、それを紙の骨組みとしたもの。光伸プランニングによる、モノにプリントする実験的なプロジェクト「モノプリ」の成果物。

▲「Ice Crystal」(2017年)はスワロフスキーとのプロジェクト。3Dプリントでクリスタルガラスをつくる技術を用い、3Dプリンタ特有の積層痕を生かして霜柱のフラワーベースを制作した。

7つのプロジェクトを通して、彼らは即興性や実践性といった予測不可能な要素をあえてデザインに取り込んでいるように見える。それは既存の方法論や慣習から自らを解き放つためのプラクティスのようだ。

「とりあえずやってみよう、というのは良い態度なのかなと考えています。ものには不思議な力があって、頭で考えた以上のフィードバックがあるんです。『Field Recording』も、立体ができ上がったときに初めて可能性を感じた。プラクティスやワークショップみたいなところからスタートしたものが、だんだん社会の本流になっていくようなことも十分あり得ると思う」。

近年は、さまざまな分野の人と協働することが多くなり、「こちらでの常識があちらでは通用しない」といったギャップや、逆に共通点を発見して面白く感じることもあると言う。だからこそ、領域にとらわれず、ピュアな問いを積み重ねていく。そして、結果が予想できなくても、とりあえずやってみる。問いかけと実践を自在に行き来できることがTAKT PROJRCTの魅力であり、強みと言えるのではないだろうか。彼らの「SUBJECT⇌OBJECT」には、デザインの可能性や方法論を見つめ直すための新しい視点がたくさん散りばめられている。End

TAKT PROJECT/2013年設立。DESIGN THINK + DO TANKを掲げ、デザインを通して「別の可能性をつくる」さまざまなプロジェクトを展開する。実験的な自主研究プロジェクトの成果をミラノサローネ、デザインマイアミ、メゾン・エ・オブジェ・パリ、香港M+といった国内外のイベントや美術館で発表。それらの活動を起点にさまざまなクライアントと協働。デザインの役割を最大化するようなアプローチが特徴。http://www.taktproject.com

TAKT PROJECT「SUBJECT ⇌ OBJECT 」展

会期
2017年11月18日(土)〜12月3日(日)11:00〜20:00(最終日は17:00まで)*入場無料
会場
アクシスギャラリー(東京都港区六本木5-17-1 アクシスビル4F
詳細
http://www.taktproject.com/projects/archives/51