アート×テクノロジー×手仕事で工芸を「前へ」
「工芸ハッカソン」公開プレゼン&審査会が富山・高岡市にてまもなく開催!

伝統工芸に異分野の発想を取り込み、工芸の新たな可能性を探るイベント「工芸ハッカソン」。金属工芸や漆芸が盛んな町として知られる北陸有数の工芸都市、高岡市で初めて開催されている取り組みの公開プレゼンと審査会が、今月16日から富山県美術館などを中心に開かれる富山県主催の「国際工芸サミット」の関連事業の一環として、11月19日(日)に高岡市内で行われる。

直面する工芸の課題と向き合いながら未来につながるアイデアを練るのは、市内で伝統産業に従事する工芸作家や職人と、全国から公募によって選ばれたアーティストやエンジニア、プログラマー、サイエンティストら総勢37名。国家公務員や紳士服のテーラー、英国人プロダクトデザイナーも加わるなど参加者の顔ぶれも多彩だ。

短期間に集中して課題に取り組むハッカソンの趣旨の通り、参加者は9月24日、25日の両日、高岡市内に集合。初日は市内の鋳物メーカーや螺鈿(らでん)細工の工房、クラフト産業の振興に力を入れる県や市のデザインセンターを訪ね、工芸産業を支える技術や魅力に触れた。

▲「工芸ハッカソン」は、伝統産業ツアー&アイデアソンを行った9月23日、24日と、ハッカソン&発表会を行う11月18日、19日の前後半に分かれて実施。写真は銅像や神仏具など大型鋳物の製造を行う「平和合金」を訪ねた際の一コマ。社長の案内で溶けた金属を鋳型に流し込む工程や仕上げ加工などを見学した。

▲参加者は今春オープンした「能作」の新社屋も訪問。11月19日の発表会も同所で行われる。

錆や科学反応によって金属を発色させる光景や、繊細な感性で優しくゆったりとした音色をつくり出す「おりん」の加工など、緻密な職人の仕事ぶりに目を細める参加者たち。一方で、「市場が縮小し、未来がない」「何をつくっていいかわからない」といった職人たちから発せられる辛辣な言葉にも耳を傾けた。伝統工芸が抱える強みと弱み、双方の側面を目の当たりにしたことで、「具体的なアイデアの道筋が明確になった」と参加者のひとりは語った。

▲螺鈿(らでん)細工を行う「武蔵川工房」では、アワビなどの貝を0.1ミリほどの薄さに削り、さまざまな形にカットして漆面に貼り、模様を表現する青貝塗りと呼ばれる繊細な作業と気迫のこもった仕事ぶりに圧倒された。

▲仏具のおりんを製造する鍛金の「シマタニ昇龍工房」も訪問。調和のとれた音色を導き出す秘訣は「職人の勘」という。こうした“勘”を何とか数値化し、技術の継承につなげていけないかなどのアイデアが参加者からあがった。

2日目は会場を国の重要文化財施設に指定される土蔵造りの菅野家住宅に移し、チームビルディングとアイデアソンを実施。「工芸の未来」というテーマに重ねて自らのアイデアを語る参加者のプレゼンテーションは熱気にあふれた。チームに分かれて行われた議論では伝統工芸の魅力となるキーワードを抽出。そこで挙がった「技術力」「偶然性」「造形美」「土着性」などのトピックをもとに、それぞれの要素を掛け合わせたり、個々の魅力を最大限引き出すような商品開発の提案につなげていった。

▲2日目は、木舟町の菅野家住宅にてチームごとに意見交換を行いアイデアを深めた。

もっとも、チームビルディングのプロセスは紆余曲折あった。伝統技術を用いた作品や表現に特化するのであれば、ものづくりの知見を持った人たちの集まりで事足りる。一方、アプリを用いて産業の魅力や継承を促すサービス開発になると、プログラミングやデータ解析などITの知見が不可欠だ。参加者の多様性や特技を生かしたチームができるか否かでアイデアの実現性は大きく変わってくる。チーム編成の過程では、自らのアイデアの実現と自身のチームへの貢献という間で葛藤する参加者の姿も見られた。

▲工芸品の魅力とは何か? について発表を行う参加者たち。

参加者全員の投票によって選ばれたアイデアとそれを実現するために編成された各チームは現在、11月19日の審査会に向け、作品づくりの真っ最中にある。現在のライフスタイルと伝統工芸のギャップを埋めるために工芸の電子化を模索するチーム、職人の技術を後世につなげていくために技のアーカイブ化に取り組むチーム、人の手によって生み出される伝統的なフォルムとAIアルゴリズムを組み合わせて未知の造形に挑むチームなど、最新のテクノロジーを組み合わせた斬新な取り組みがずらり。最優秀チームには30万円、特別賞には10万円の賞金がチームに与えられることもモチベーションになっているようだ。

▲地元の職人らも加わり、工芸の未来につながるアイデアを練る様子。白熱した議論が最後まで続いた。

日本は各地に伝統の手仕事が息づく工芸大国である。同時に、先端技術に寛容な国民性でもある。こうした利点を掛け合わせることで、伝統産業の魅力を伝える従来にない発想が生まれる余地は一気に高まる。「世界に向けて工芸の新たな価値を発信していければ」。その想いは今回のハッカソンの主催者のみならず、参加者の誰もが期待するところだ。「伝統と革新」――伝統工芸の取り組みにおいてたびたび囁かれるこの言葉をまさに地で行くような新たな提案と成果を19日の公開プレゼンで期待したい。

▲「工芸ハッカソン」の発表会は11月19日(日)。来年1月~2月には、富山県高岡市・富山市・魚津市で発表作品を紹介する巡回展も予定されている。

なお、公開プレゼンと審査会の前後には、富山県内の工芸産地を訪ね歩く「とやま工芸の原点・いま・未来をめぐる旅」も実施される。伝統産業を育む土地、自然、人と触れ合いながら、工芸の魅力に触れる貴重な機会になりそうだ。ツアーの開催日は、17日(金)、18日(土)、19日(日)、22日(水)、23日(木祝)の5日間。いずれも日帰りのプログラムとなっている。ツアーの詳細や申し込み方法はこちら(https://www.toyama-kogeitour.jp/)まで。

「工芸ハッカソン」公開プレゼンテーション・審査会

日時
2017年11月19日(日)14:00~17:00(13:30開場予定)
会場
株式会社能作 2Fカンファレンスルーム(富山県高岡市オフィスパーク8-1)
審査員
石橋 素(エンジニア/アーティスト ライゾマティクス取締役)
林 千晶(ロフトワーク共同創業者、代表取締役)
菱川勢一(映像作家 / 写真家 / 演出家 武蔵野美術大学教授)
高川昭良(高岡市デザイン・工芸センター所長)
高橋正樹(高岡市長)
武山良三(富山大学芸術文化学部 学部長)
能作克治(能作代表取締役社長)
その他
※見学の事前申込は不要。来場者数によっては立ち見の可能性あり。