ズボラ女のことを「サボテンすら枯らす女」というが、はずかしながら、該当してしまう。出張が多く、留守が多い、ということもあるが、どうも植物の声を聞き取れない。聞き取れないから、水やりのタイミングがわからず、枯れさせてしまう。今までいくつ、犠牲になったか分からない。それもあって私は、緑を育てられる人を尊敬している。
11月11日〜29日まで台北のギャラリー、小器藝廊+gさんで、企画展を開くにあたり、台北のスタッフが10月に参加作家の取材に来てくれた。向かった先は三河安城。土鍋と器を作る野村亜矢さんの工房がある。亜矢さんの工房はお母様が営む、花と器の店に併設されている。訪問は10数年前ぶりだ。
着いて、びっくりした。私は一体、以前訪れたときに何を見ていたのだろう。おそらく器しか見ておらず全く記憶になかったのだが、着いて迎えてくれたのはそこだけ異空間の、緑の園だった。
「花と器」と聞くと、切花を思い浮かべるが、ここの花は「植木」なのだ。土地に植えた植栽は販売しないが、その合間合間に程よく鉢植えが置いてある。ふたつは混然一体として、重なり合い、見事に調和している。緑の高さもあるのだろう。3メートル以上の木も多い。腰丈以下の緑と、背を覆う高さの緑が、植物の森として存在する。
「土地に植わった植栽と、販売用の鉢植えとのバランスは何対何ぐらいでしょう」と、亜矢さんのお母様であり、オーナーの加代子さんに尋ねたが、「どのくらいかしらねぇ」と考え込んで、答えは出なかった。彼女にとって、どうでもいいことなのだろう。この場が美しく、居心地よく配置されていること。それでいいのだから。
植木は、亜矢さんを含めた作家ものは、ちょっと傷が入った鉢などに穴を開けて使っているそうだ。加代子さんが骨董で合うものを探してくることもある。変り種は、陶芸でつかう「サヤ」という、焼成の際、灰がかぶらないようにするための容器まで、洒落た植木鉢として演出に一役買っているところだ。
もともと絵を描いていた加代子さんだが、結婚し、3人の子供の母となった。絵が好きで、人も好きで、おしゃべりも好きだった加代子さんは、子育てが一段落したときに友人2人と店を始めたので、いきなり店をはじめたわけではない。その後、もともとあったこの土地に、亜矢さんの工房を併設して、「花と器」の店を2002年にオープンした。
「建物は借金して建てたから、亜矢と二人で返済していて、あと5年で終わるの」と、にこやかに答えてくれた。返済は加代子さんにとって働くバネのようだ。店内は、アフリカやアジアの骨董と、現代陶芸家の器が程よくまざっている。そこに彩りを添えてくれるのは、亜矢さんの愛猫たち。緑と器と猫がすばらしいバランスだ。
残念ながら、私の腕では「野むら」の素晴らしさは映しきれない。いや、あの加代子さんがつくり出す独特の緑の空間は、体験しなくてはわらかないのだから、映せなくてもいいのかもしれない。
緑は季節季節で変わっていく。訪れた10月初旬はススキが美しかった。次に訪ねるとき、この庭が、どんな風に迎えてくれるか楽しみだ。
一応、加代子さんに緑を生きながらえさせるコツを聞いたのだが、「水をあげて、お日様に当てれば大丈夫よ」とのこと。緑と話ができる人は必ずこう返事をすることを忘れていた。猫とは多少、会話ができると思っているけれど、緑とはまだまだ。しかし、あの素敵な緑の空間へのあこがれが募り、いつかはあんな素敵な緑に囲まれたいと思うようになった。
まずは、緑の声を聞き取れるようにならねば……。
花と器「野むら」
- 所在地
- 愛知県安城市篠目町1丁目5-5
- 連絡先
- 0566-79-0012
- OPEN HOUR
- 10:00-18:00
- 定休日
- 日・月
<前回のおまけ>
第9回でご紹介した長田佳子さんの大好評の「いしころ箸置き」ですが、11月中旬よりリビング・モティーフで販売されます。
工房は白洲次郎・正子夫妻の旧居の「武相荘」から徒歩5分のところにあり、武相荘も一年中、緑と花が楽しめます。
「ごはんとうつわ」神楽坂・フラスコ
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野村亜矢さん、そして長田佳子さんも参加する企画展を開きます。
- 会期
- 11月17日(金)〜21日(火)
- OPEN HOUR
- 12:00-20:00
- 詳細
- http://www.frascokagura.com/schedule/2017/11/post-189.html