INTERVIEW | プロダクト
2017.11.08 10:19
AXIS169号(2014年6・7月号)からオリジナルのシリーズ広告を連載している富士フイルム。181号からの現在のシリーズでは製品を分解して見せる「デザイン標本」を展開しています。真っ白な背景に部品や質感の精細さが際だち、社内では「自分たちの製品が美しい」との声があがるほど。「毎回異なるデザインの視点を見せたい」と話すデザインセンター長の堀切和久さんに、シリーズ広告のこだわりについて聞きました。
デザインセンターの象徴として
——デザインセンターのスタジオの壁面に、シリーズ広告を掲示されているんですね。
はい。先日、内視鏡のエンジニアがこのビジュアルを見ながら、「内視鏡ってこんなにも美しいんですね」としみじみ言ってくれて。カメラのようなコンシューマ向けの製品ではなく、こうしたプロシューマ向けの製品で「美しい」なんて、嬉しかったです。
内視鏡などの医療機器はデザイナーだけではつくれない領域なので、医師やエンジニアと一緒に開発します。医師にとっても日々の仕事の道具なので、できれば美しいものを使いたいと思っている。シリーズ広告を通じてこうした社内の人たちがモノの美しさを見直してくれたので、広告を制作してよかったなと思います。
——こうして並べると見ごたえがあります。
当社の活動は、写真だけでなく、今やいろいろな分野に広がっていて、そのすべてにデザインが関わっています。あらゆる製品のデザインをやっているからこそ、それぞれの見せ所がわかる。今の富士フィルムにおけるデザインセンターの役割を象徴していると思います。
——現在の広告シリーズのテーマを教えてください。
テーマは「デザインの標本」。モノの美しさと所作の美しさを引き出すことをテーマにしています。カメラ、インスタントカメラ、化粧品、内視鏡と連作になっていて、それぞれ組み立てる前のプラモデルのようなわくわくした感じのビジュアルになっています。
毎回異なる視点を見せたい
——なぜ、「分解」したのですか。
プロダクトには部品ごとに意味があります。例えばスキンケアの「ASTALIFT」にはリフィル(詰め替え)を交換して使うという特徴的な機能があり、専用のスパチュラ(へら)にはゼリー状の中身をすくうという役割があります。このように分解して標本化すると、製品がどのようなエレメント(所作や機能)で構成されているかをわかりやすく伝えることができる。
——分解の仕方が毎回違いますね。
分解の法則があるわけではなく、毎回異なる視点を見せていきたいと思っています。例えばカメラ「GFX 50S」の見せ場は縦位置にグリップがあることだったり、ファインダーを取り外せることなので、そうした所作をパーツとして見せていく。また最新のハイブリッドインスタントカメラ「instax SQUARE SQ10」はGUIが実におもしろいんです。撮影すると液晶画面が動いてリアルのプリントになって出てくるので、その動きを何とか誌面で見せようと苦労しました。
デジタルX線画像診断システム「CALNEO ACRO」では、X線をデジタル信号に変換するFPD(フラットパネルディテクター)をあえて背面側から見せて、X線を撮る原理や仕組みを表現しています。
それからこれはCTやMRIなどによる断層画像から高精度な3次元画像を描く画像解析システム「VINCENT」です。臓器の画像からガンの部分だけを消してデータ化するという技術があって、手術の前に医師がシミュレーションするために使います。このシステムをどうやって1枚のビジュアルで説明するか悩んだ末、画像解析のステップを見せることにしました。
——背景の白に製品が映えています。
富士フイルムのデザインセンターとして以前から大事にしているビジュアルコンセプトがあります。白いお皿の上だと料理や食材が映えるように、「飾りのない白い背景に製品を盛りつけて、デザインの精神性(美しさ)を見せる」という考え方です。デザインセンターの広告、ウェブ、リクルート用の冊子で、この「白い皿」のコンセプトを展開しています。
——製品の画像は写真ですか、イラストですか。
あえて写真なのかイラストなのかわからないところを目指しました。実際にはこの広告のために3Dデータをおこしてそれを平面でキャプチャするという、贅沢なつくり方をしています。質感にはこだわっていて、回によってはかなりつくり込みます。
——見開きページをあえて縦向きに使っている点も斬新ですね。
「これはなんだろう?」とページを繰る手を止めてほしくて、初期から縦向きにしています。一方で驚きはあっても「AXIS」のトーンを崩したくないと思っています。この余白のきれいな誌面に対して良い意味での違和感があってもいいけれど、不自然な感じにならないように気をつけています。
「美しく見せたい」という一心で
——あえて背面を見せるなど、製品カタログや通常の広告ではできない表現にチャレンジされています。
プロダクトデザインでは、時間のかけ方でいえば6:4から7:3くらいの割合で、製品の顔(正面)を大切にします。そのぶん背面への力が抜けた、バックシャンなデザインがけっこうあります。それらを知っているから、広告を専門にしている人たちとは視点が違うのかもしれません。やはり創作者だからこその純粋性と、「美しくに見せたい」という一心でやっています。
——社内の反応は。
社内にもAXISの読者がいて、「こういう表現はデザインセンターだからこそできる」とすごく好意的です。富士フイルムは研究者が多い会社なので、人がやらないようなことやデザインのアーティスティックな面をリスペクトしてくれる風土があると思います。だからこそ僕らも「美しく見せる」ことを外さないように、製品カタログ以上に気を使って制作しています。
——会社のなかでデザインセンターが信頼されているからできるんですね。
「さすがデザイン」と信頼されているからこそ裏切れない。ある時期このシリーズ広告は僕にとっていちばん大変な仕事になっていたときもあります(笑)。ユーザーの気持ちになってデザインすることはとても大切なのですが、一方で誰も考えないような突拍子もないアイデアを出したり、それを美しい形で表現することも僕らデザイナーの役割。わかりやすさだけでなく「ちょっと考えさせる」ことも必要かなと思っているので、どこかでまた違う切り口を見つけて挑戦していきたいです。
——今後のシリーズも楽しみにしています。ありがとうございました。
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「やりたいことをやる。そのための環境づくり」
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