インテリアデザインに焦点を当て、
「心地よさ」を提案したメゾン・エ・オブジェ・パリ2017年9月展

例年9月から10月にかけて欧州の各都市でデザインウィークが開かれる。そのトップバッターが、9月8日から始まったパリ・デザインウィークだ。同時に、デザインとライフスタイル分野の見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」もスタート。パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場には、9月12日までの5日間で延べ約8万人に上るリテーラーやバイヤーらが世界各国から訪れた。

▲メゾン・エ・オブジェ・パリでは、今回ホール6の構成を大きく変更。またゾーンごとの見所を集めた「What’s New」を新設した。例えば、Cook & Shareのゾーンでは木製の回転台の上に乗った各社のテーブルウェアが動き、Smart Giftでは観覧車のようなオブジェをしつらえるといった工夫が凝らされていた。

今回のメゾン・エ・オブジェ・パリが掲げたインスピレーションテーマは「コンフォート・ゾーン」。不安定で不確かな社会情勢を反映してか、人々は休息や平穏を求めているという予測から、緊張感を取り除き、安心感を与えるようなインテリアが提案された。

その会場構成を担当したのは、トレンド観測所のメンバーのひとりであるフランソワ・ベルナール。家具やオブジェが浮かび上がるような真っ白な空間によって、ひとつひとつの製品の包み込むようなフォルムや柔らかな質感を浮かび上がらせた。

▲「コンフォートの進化」「コンフォートとスリープ」「オフィス・コンフォート」など10のカテゴリーから展示されたコンフォート・ゾーン。

インスピレーション・スペースと同じホール7「NOW! Design à vivre」からはふたつのブースをピックアップしたい。ひとつはRISING TALENTSに選ばれたENSCI-Les Ateliers(フランス国立工業デザイン学院)の近年の卒業生11名の作品。今夏フランス・イエールで開かれた「デザイン・パレード」でもフィーチャーされたデザイナーなど、コンセプトモデルから製品までが並んだ。

▲ENSCIの作品はテキスタイルから工業製品、オブジェまでさまざま。

もうひとつは、シンガポール発のブランド「industry+」の新作から、ミラノ在住の武内経至のデザインによるスツール「Wimbledon」とパリ在住の安本 淳による「Kei」だ。武内のスツールはその名前の通り、テニスの審判員のハイチェアに着想を得て、繊細なラインながら安定感のある、座面上まで伸びたスチールが取っ手やバッグ掛けのような役目を果たす機能性の高いスツールに仕上げている。安本の曲木の椅子は、流れるようなカーブを描くリラックスできる椅子を追求したという。



▲industry+のブースではほかにシンガポールのStudio Jujuの製品も並んだ。写真上から、武内経至の「Wimbledon」と安本 淳の「Kei」。Photos by Henri Frachon ©industry+

▲ホール7には、グリーンティーから花の映像が溢れ出るようなチームラボのブースも。隣接のmore trees&丸若屋も杉や檜から抽出したお茶を提供して人気を集めていた。

メゾン・エ・オブジェ・パリは1月展と9月展が開かれ、1月展はプロダクトデザインに、9月展は建材を含めたインテリアデザインに焦点が当てられる。1月展のホール8はミラノサローネでもお馴染みの大手家具ブランドが名を連ねたが、9月展はその大半が建材メーカー。紙、石、木といったさまざまな素材のブースが並んだ。

そのなかで目を引いたのがフランスのコンクリートブランドConcrete LCDAのコレクション「Panbeton」。コンクリートと聞くと外壁材や土木などに用いるものと思いがちだが、同社は内装用コンクリートに力を入れ、中国のネリー&フーとフランスのノーマルスタジオによる新作を発表した。陰影をデザインしたかのような、表情豊かなコンクリートだ。

▲Neri&Fu「Yun 云, Shui 水, Shan 山」。
Photo by Jiaxi Yang & Zhu Zhe ©Luxproductions.com

▲Normal Studio「DELICATE」。
Photo by Morgane LeGall ©Luxproductions.com

また、1月展でホール6に出展したニトムズの「HARU stuck-on design;」が再登場。同ブランドのデザインディレクターであるSPREADに加え、ロンドンのグラフィティアーティストAlex Geofferyら計4組のクリエイターがブースを彩り、会期中にライブパフォーマンスも実施した。ホール8は建築家やインテリアデザイナーといったプロが多いと語ったのはSPREADの小林弘和。

▲「HARU stuck-on design;」。右の壁面がアーティストのAlex Geoffreyによるライブパフォーマンス作品。そのほかパリのアーティストAurélie Andrèsとデザインユニッ Nina Chalot & Aki Watanukiの作品も。

大阪デザインセンターの主催による「想像力をかきたてるマテリアル」と題した全国7社の内装資材メーカーも共同で出展。パリ市内のヨウジヤマモトの店舗でも作品を展示した内子和紙の五十崎社中(愛媛)は、網目模様のような透過性の高い和紙や金属箔を用いたものなどを披露。田川産業(福岡)は独自技術で成形した非焼成セラミック「Limix(ライミックス)」をアピールした。


▲田川産業の「Limix(ライミックス)」は、漆喰同様の調湿性能に加え、彩色や異素材の配合、表面テクスチャーが自由に調整できることなどから注目を集めた。

そのほかホール8には、デザイナー・オブ・ザ・イヤーに輝いたインテリアデザイナー、トリスタン・アウアーの特別展示も。クリスチャン・リエーグルやフィリップス・スタルクの下で学び、2002年に自らのスタジオIzeuを立ち上げたアウアーの作品は、量産のための家具というよりもプライベートヴィラやラグジュアリーブランドのための、職人の技を結集したような優雅さが特徴だ。1758年に建てられ、2013年から大規模な改装をして今夏に再オープンしたばかりのホテル・ド・クリヨンでも、建築家Richard Martinetの指揮の下、他のふたりのクリエイターとともに内装を手がけたという実績を持つ。



▲トリスタン・アウアーの特別展示には素材やパーツ、リサーチ資料なども展示された。写真下は、ホテル・ド・クリヨンで開かれたデザイナー・オブ・ザ・イヤー授賞式でのアウアー。

さて、パリ市内では数々のデザインウィークのイベントが開かれていたが、そのうちのひとつ「Now! Le Off」ではラドーデザインプライズの入賞作品の展示や授賞式が開かれ、そのほか若手デザイナーたちの作品が多数並んだ。リテーラーやバイヤーの目に止まるような完成度の高い作品は少なかったが、若手に発表の場ができたことはデザインウィークを盛り立てていくうえでは欠かせない。


▲「Now! Le Off」で開かれたパーティには、1月展のデザイナー・オブ・ザ・イヤーに輝いたピエール・シャルパンや今回9月展のインスピレーションブースを手がけたフランソワ・ベルナールの姿も。©PDW17-Les Docks-Soirée d’Ouverture

また、この時期パリを訪れた人にとって、7月に始まり2018年1月まで開かれている装飾芸術美術館の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展も見逃せなかったはずだ。ブランド誕生70年の節目に歴代のドレスをトルソーで見せるだけではなく、ディオール氏の書簡からイヴ・サンローラン、ジャンフランコ・フェレ、ジャン・ガリアーノら6人の歴代デザイナーのスケッチや生地サンプルといったものまでの創造の軌跡をさまざまな展示手法で見せ圧巻だった。

▲「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展は、2018年1月7日まで。オートクチュールはもちろんこと靴、帽子、バッグ、アクセサリー、香水、コマーシャルフィルムなども網羅する。

さて、次回のメゾン・エ・オブジェ・パリの開催は、2018年1月19日~23日。フランスはもちろんのこと各国から集まるデザイナーたちの新たなクリエイションに注目したい。End