REPORT | 見本市・展示会
2017.10.08 14:05
例年9月から10月にかけて欧州の各都市でデザインウィークが開かれる。そのトップバッターが、9月8日から始まったパリ・デザインウィークだ。同時に、デザインとライフスタイル分野の見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」もスタート。パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場には、9月12日までの5日間で延べ約8万人に上るリテーラーやバイヤーらが世界各国から訪れた。
今回のメゾン・エ・オブジェ・パリが掲げたインスピレーションテーマは「コンフォート・ゾーン」。不安定で不確かな社会情勢を反映してか、人々は休息や平穏を求めているという予測から、緊張感を取り除き、安心感を与えるようなインテリアが提案された。
その会場構成を担当したのは、トレンド観測所のメンバーのひとりであるフランソワ・ベルナール。家具やオブジェが浮かび上がるような真っ白な空間によって、ひとつひとつの製品の包み込むようなフォルムや柔らかな質感を浮かび上がらせた。
インスピレーション・スペースと同じホール7「NOW! Design à vivre」からはふたつのブースをピックアップしたい。ひとつはRISING TALENTSに選ばれたENSCI-Les Ateliers(フランス国立工業デザイン学院)の近年の卒業生11名の作品。今夏フランス・イエールで開かれた「デザイン・パレード」でもフィーチャーされたデザイナーなど、コンセプトモデルから製品までが並んだ。
もうひとつは、シンガポール発のブランド「industry+」の新作から、ミラノ在住の武内経至のデザインによるスツール「Wimbledon」とパリ在住の安本 淳による「Kei」だ。武内のスツールはその名前の通り、テニスの審判員のハイチェアに着想を得て、繊細なラインながら安定感のある、座面上まで伸びたスチールが取っ手やバッグ掛けのような役目を果たす機能性の高いスツールに仕上げている。安本の曲木の椅子は、流れるようなカーブを描くリラックスできる椅子を追求したという。
メゾン・エ・オブジェ・パリは1月展と9月展が開かれ、1月展はプロダクトデザインに、9月展は建材を含めたインテリアデザインに焦点が当てられる。1月展のホール8はミラノサローネでもお馴染みの大手家具ブランドが名を連ねたが、9月展はその大半が建材メーカー。紙、石、木といったさまざまな素材のブースが並んだ。
そのなかで目を引いたのがフランスのコンクリートブランドConcrete LCDAのコレクション「Panbeton」。コンクリートと聞くと外壁材や土木などに用いるものと思いがちだが、同社は内装用コンクリートに力を入れ、中国のネリー&フーとフランスのノーマルスタジオによる新作を発表した。陰影をデザインしたかのような、表情豊かなコンクリートだ。
また、1月展でホール6に出展したニトムズの「HARU stuck-on design;」が再登場。同ブランドのデザインディレクターであるSPREADに加え、ロンドンのグラフィティアーティストAlex Geofferyら計4組のクリエイターがブースを彩り、会期中にライブパフォーマンスも実施した。ホール8は建築家やインテリアデザイナーといったプロが多いと語ったのはSPREADの小林弘和。
大阪デザインセンターの主催による「想像力をかきたてるマテリアル」と題した全国7社の内装資材メーカーも共同で出展。パリ市内のヨウジヤマモトの店舗でも作品を展示した内子和紙の五十崎社中(愛媛)は、網目模様のような透過性の高い和紙や金属箔を用いたものなどを披露。田川産業(福岡)は独自技術で成形した非焼成セラミック「Limix(ライミックス)」をアピールした。
そのほかホール8には、デザイナー・オブ・ザ・イヤーに輝いたインテリアデザイナー、トリスタン・アウアーの特別展示も。クリスチャン・リエーグルやフィリップス・スタルクの下で学び、2002年に自らのスタジオIzeuを立ち上げたアウアーの作品は、量産のための家具というよりもプライベートヴィラやラグジュアリーブランドのための、職人の技を結集したような優雅さが特徴だ。1758年に建てられ、2013年から大規模な改装をして今夏に再オープンしたばかりのホテル・ド・クリヨンでも、建築家Richard Martinetの指揮の下、他のふたりのクリエイターとともに内装を手がけたという実績を持つ。
さて、パリ市内では数々のデザインウィークのイベントが開かれていたが、そのうちのひとつ「Now! Le Off」ではラドーデザインプライズの入賞作品の展示や授賞式が開かれ、そのほか若手デザイナーたちの作品が多数並んだ。リテーラーやバイヤーの目に止まるような完成度の高い作品は少なかったが、若手に発表の場ができたことはデザインウィークを盛り立てていくうえでは欠かせない。
また、この時期パリを訪れた人にとって、7月に始まり2018年1月まで開かれている装飾芸術美術館の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展も見逃せなかったはずだ。ブランド誕生70年の節目に歴代のドレスをトルソーで見せるだけではなく、ディオール氏の書簡からイヴ・サンローラン、ジャンフランコ・フェレ、ジャン・ガリアーノら6人の歴代デザイナーのスケッチや生地サンプルといったものまでの創造の軌跡をさまざまな展示手法で見せ圧巻だった。
さて、次回のメゾン・エ・オブジェ・パリの開催は、2018年1月19日~23日。フランスはもちろんのこと各国から集まるデザイナーたちの新たなクリエイションに注目したい。