1990年代以降のデザインリサーチの歴史
デザインリサーチは、体験戦略の実践からfrogImpactプロジェクトに至るまで、frogのDNAともいうべき本質に欠かせない要素に成長しました。当社のデザインリサーチメソッドでは、問題を分析し、人間の経験から学び、協力して知識とアイデアを具体化し、創造する……そしてそれをスピーディーに繰り返すことで、今をデザインします。
この方法はどのように進化してきたのでしょう? なぜそれが、このデジタル時代の思考、計画、創造の手段となったのでしょうか? 1990年代初頭から、インターネットバブル、ニューエコノミー、Web 2.0、デザイン思考、社会起業家の台頭の時期をたどってみると、デザインリサーチの歴史には主に3つの時代があることがわかります。
それぞれの時代は、ネットワーク化が進むグローバルなライフスタイルの中で人間性が果たす役割に対する考え方の変化、そして新しいデザインメソッドによる「体験」の再構築を明らかにしています。これらの動向を通じて蓄積された深く、広いデザインの効果と成長は、現在および次世代のビジネスリーダーの教育に多大な影響を与えました。それは変化のある製品を創造したり、企業文化の方向転換をしたり、測定可能なソーシャルインパクトを生み出したり、あるいはその3つすべてを達成するためのユーザー共感を重視した、水平思考やプロトタイピングです。
第1の時代:デジタル化(1990年代)
中間技術(ボイスメールやコンピューターなど)がようやくオフィスに普及してまもなく、インターネットが誕生しました。そして電子メールが、ローカルにおいてもグローバルにおいても、対人コミュニケーションを変えました。スピーディーなデジタル環境は人間の行動と予測を変え、生活と仕事に使用する新しいツールのアイデアを生みました。
このようなツールのデザインは、それらのツールをどう使うかを理解する新しい方法を必要とし、基本的な理論や実例のない従来のデザイン分野にプレッシャーを及ぼしました。そしてエスノグラフィ調査などの新しい方法は、風変わりとされていましたが、デザイナーやその種の産業界から支持されるようになりました。
第2の時代:システムの構築(2000年代の前~中期)
「ニューエコノミー」が発達するにつれ、グローバルコミュニケーション/コマースを支える最初の包括的なデジタルインフラの領域ができました。「プラットフォーム」と「エコシステム」が製品/サービス戦略の必須要素となり、技術、パートナー、競合企業、補完企業、顧客、ユーザーが一緒に具体的な価値を持つ体験を形づくるようになりました。そしてインフォメーションアーキテクチャ、インタラクションデザイン、デザインリサーチ、デザインプランニング、エクスペリエンスデザインを含む新しいデザイン分野が生まれました。
ユーザー体験の定性的な基準——「便利ですか?」「使いやすいですか?」「魅力がありますか?」「それはどの程度ですか?」——が、ユーザーエクスペリエンスを評価する形式的な役割を果たしました。デザイナーは、収集したこれらの定性的なデータをどのように理解すべきかの理論を文書化し、公開しはじめました。これには、広く受け入れられはじめていた社会科学から引用した方法が用いられました。
第3の時代:デザイナー的指向性(2000年代後半から2010年代)
2000年代後半の大不況の間、ほとんどの企業のプロジェクト目標はイノベーションで、創造力を使い、深い穴から這い上がろうとしていました。たいていの既存のソリューションは社会のすみずみにまでシステム化され根深く浸透していて、イノベーションを実行しようとする企業には、新しいデザインオリエンテッドのスキルセットが必要でした。
これに注目したビジネススクールは、イノベーションを重視したカリキュラムを作成し、分析への依存性を緩めつつ、水平思考を取り入れました。大企業はデザイン部門を復活または新設し、大手の戦略コンサルタント会社はデザイン会社を買収してサービスを充実させました。企業の重役や経営陣は、デザインを利用して製品やサービスを手っ取り早く差別化する方法を学ぶ必要があると認識しました。
現在、デザイン思考は、現代ビジネスでイノベーションを実現する新しい理論およびツールキットとして確立されています。デザインとビジネス関連のメディアチャネルから強く支持されました。専門会社やデザイン課程を持つビジネススクール(スタンフォード、ハーバード、ノースウェスタンなど)は、デザインが先進的で独創的な製品やサービスを生み出す正当な方法だというビジネスリーダー教育を開始しました。
来る第4の時代は・・・・・・
将来に目を向け、デザインリサーチの次の時代を予測してみましょう。
● 過去5年間で学んだ技術とデザインの実践を活用する既存市場/新興市場。
● 米国や中国など大国を中心として深刻な高齢化が進む世界人口。
● 新しい教育を受け、デザインについて学び、デザイン言語に精通し、先駆者より不確実さを受け入れる経営者やビジネスリーダーを含む組織。
● 観察、計測、プロトタイピング、人間の行動データと感情的な体験をバランス良く利用した学習による問題の定義と解決。(このようなテクニックにより、把握の難しい生活の一部が見えてきます。)
● 迅速、柔軟で反復的なリサーチによる、より息の長いロングテール現象。(ここで言うリサーチとは、デザインおよび戦略的な意思決定を予想/実現するとともに、製品を永続的なデザイン改善の状態に移行することで、プロトタイププロセスを再構成する。参照記事:Uncommon Sense : The New Role of Sensing in Design Research)
● 高度な実務、分析、解釈、視覚的スキルをあわせ持ち、デザインに情報とアイデアを与える新しい世代のデザイナー。
これらのテクニックはすべて、戦略計画とエンゲージメントモデルを補い、デザイン方式を組織の考え方とプロセスに深く浸透させる必要があります。デザインリサーチ、デザイン思考、そしてデザイナー的行動が信頼され、有用となる正当性を獲得するまでは険しい道のりですが、達成可能なマイルストーンです。
「新しいコンセプトの導入は、曖昧さと不確定性をもたらします(中略)これは理解不足と(個人と企業にとって)マイナスの結果に対する恐怖から生じます」(※1)。 20年以上にわたって準備を重ね、未来を見る目を養ってきたデザインリサーチが、今、次世代の深刻な問題に対処しようとしています。
(※1) Rauth, Carlgren, and Elmquist, “Making It Happen: Legitimizing Design Thinking in Large Organizations(実現しよう:大組織でデザイン思考を正当化するには)”, DMI Journal Volume 9, Number 1, 2014, p47-60.
この連載は、frogが運営するデザインジャーナル「DesignMind」に掲載されたコンテンツを、電通エクスペリエンスデザイン部・岡田憲明氏の監修のもと、トランスメディア・デジタルによる翻訳でお届けします。