NEWS | 建築
2017.09.21 15:00
東京国立近代美術館で開催中の「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」展は、日本の建築家56組による75もの日本の住宅建築(家)を、400点を超す模型や図面、写真、映像などで紹介する展覧会だ。日本の家に焦点を当てた展覧会としては国内外含めて最大規模。ポイントは、13のキーワード(系譜)に分類し、さまざまな視点から日本の家のありようを検証していることだ。
保坂健二朗主任研究員によると、本展は、日本とイタリアの外交樹立150周年に際し、東京国立近代美術館がローマのMAXXI国立21世紀美術館に建築展の開催を持ちかけたところから始まった。テーマとして「家」が選ばれたのは、国境を超えて人々に身近な存在としてとらえてもらえるということ、また世界的に高く評価されている日本の建築家たちが家の設計に力を注いできたという特有の状況があるため。諸外国では建築家が戸建て住宅を手がけるケースはあまりないという。
本展に登場する13のキーワードは、「土のようなコンクリート」「遊戯性」「脱市場経済」「家族を批評する」など、一般的な建築史では目にすることのない概念ばかり。これらは建築家の塚本由晴をはじめとする設計者や研究者らとのワークショップを通じて浮かび上がってきたものだ。そもそも時系列ではなく「系譜」という考え方で日本の家を分類することを助言したのは塚本。時系列で紹介すると、実験的・前衛的な家が多数つくられた70年代が目立ってしまい、全体をとらえにくくなるからだと語った。
では、日本の家を系譜的にとらえると何が見えてくるのだろう。それは「根がないこと」だ。「本来、系譜とは一族の親子関係や師弟関係を示すもので、それをたどっていくと母方父方へと根はどんどん拡散していく。日本の住宅建築についても同じことが言える。実はオリジンはバラバラで、さまざまな根があるんだということを受け入れ、そのうえで今何ができるのか。戦後日本の建築家たちはそれを考えてきたのではないか」(保坂)。
会場は、各キーワードにもとづく緩やかなグルーピングのなかで新旧の家々が散らばっているような状況。それらを見比べたり、それぞれの社会的背景について考えたりしながら、鑑賞者が自由に「批評」できる空間となっている。「どんな時代のものを取り寄せて批評しても構わないという文化人類学に近い考え方」(塚本)をそのまま展示空間に落とし込んだかたちだ。
塚本は、「実際に展示を見て、諸外国の建築ではこの系譜が成立していないことに気づいた。今後『日本的なるもの』が改めてフォーカスされるかもしれないときに、歴史的弁証法ではないこうした考え方によって、未来に向けた建築の議論が深まることに期待したい」と話す。
日本の家の特色はこうだ、と何らかの結論を大上段に振りかざす展覧会ではない。13のキーワードは、本展が差し出したヒントにすぎず、ほかにもきっと切り口はあるだろう。考えてみれば、そもそも個人の暮らしやそれを支える家は自由であり、根などない。本展ではその「根などないのだ」という前提を共有することで、各自が日本の家論を展開できる自由と可能性を提示してみせたことが新しい。
日本の家 1945年以降の建築と暮らし
- 会期
- 2017年7月19日(水)〜10月29日(日)
- 休館
- 月曜(10月9日は開館)、10月10日(火)
- 会場
- 東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
- 詳細
- http://www.momat.go.jp/am/exhibition/the-japanese-house/
- プレゼント
- 10組20名様に、鑑賞券をプレゼントいたします。件名に「鑑賞券プレゼント 日本の家」と明記のうえ、お名前、ご職業、ご住所とともに、axismag@axisinc.co.jpまでお申し込みください。締切は2017年9月25日(月)。応募多数の場合は抽選のうえ、当選者の発表はチケットの発送をもってかえさせていただきます。