自動車メーカーのルノーが、ティーポットをデザインしたワケ

フランスの大手自動車メーカー、ルノーが黄色いティーポットをデザインした。そのフォルムは、あたかもF1レースカーを思わせるもので、上蓋のツマミはまるでロールバー、フロントに突き出した注ぎ口は、最新マシンのようにスリムな仕上がりだ。

モータースポーツに詳しい方以外は、なぜルノーがティーポットをつくるのか、いぶかしく思うに違いない。トヨタや日産が急須をデザインするようなものだからだ。しかし、これには深いワケがある。

ルノーは、そのモータースポーツ部門がF1レースに参戦して今年で40周年を迎えた。1977年にデビューした同社初のF1カー「RS01」は、世界で初めてF1レースをターボ付きエンジンで戦うという挑戦的なマシンだったが、そのためにエンジントラブルにも悩まされ続けた。

すると、白い煙と汽笛のような音を出しながら走る黄色いRS01を見た当時の有力チーム、ティレルのボス、ケン・ティレルは、そのマシンに「イエロー・ティーポット」というあだ名をつけて揶揄し、それがF1業界に広まっていった。

からかわれたことで発奮したルノーチームは、ターボエンジンと車両の改良を続け、2年後の1979年に「RS10」というマシンが見事にF1のフランス・グランプリで優勝。その後、他のチームもターボエンジンを搭載するようになり、ティレルもルノー製エンジンを搭載する決定を下したのだった。

このエピソードが今もルノーのF1チームの原点にあり、そのことを忘れないためにも、今回のイエロー・ティーポットがデザインされたのである。

もちろん、単なるティーポットではなく、黄色の塗装にはF1の実車と同じ塗料が使われ、持ち手もF1ボディで使われるカーボン素材。上蓋のツマミはRS01のロールバー、スリムな注ぎ口は最新マシンの「RS17」をモチーフに造形された。こうして、大いに意味のあるティーポットが自動車メーカーの手によって完成したというわけだ。

ちなみに、このティーポットは9月からパリのシャンゼリゼ通りにある「アトリエ・ルノー」レストラン内で利用される予定だが、残念ながら市販はないようだ。もしされたとしても、その素材や製法から考えてかなり高額なものとなることは避けられず、実用品というよりもコレクターズアイテムとなるだろう。

それよりも、限られた場所であっても、実際に使われて、その実力を発揮(?)するほうが、ティーポットとしても本分が果たせて幸せに違いない。End