ビストロ下水道。なかなかインパクトがあるネーミングですよね。下水道からの隠れた資源を有効利用する取り組みのひとつです。日本で暮らす私たちの生活を支える当たり前のインフラとして、電気、ガス、水道があります。そして、私の専門である廃棄物同様、あまり知られていない魅力的な資源が存在する世界、それが、下水道です。
8月1日~4日まで、東京ビッグサイトで第30回下水道展が開催されました。下水道を維持管理する仕組みや、その最新の技術を見ることができます。都内で下水道の整備が開始されて約100年だそうです。現在は、東京23区では100%の整備状況ですが、私の住む群馬県では、浄化槽が設置されていて、下水道がない地域もたくさんあります。簡単に言うと、たくさんの人が密集した地域では、個別で汚水を処理する浄化槽ではなく、まとめて下水道という手段を使って回収し、下水道処理施設で処理するのが効率的ということです。
当たり前に使って、当たり前に流す水。ひとりあたり1日220リットルだそうです。当たり前にモノが手に入り、ゴミ箱に捨てれば、当たり前になくなる廃棄物と同様、流した水はどこを通って、どんな仕組みできれいにされているのか知っていますか?
日本の下水道は、トータル約42万kmで、地球10周分、地球から月までの距離38万kmよりも長いのです。下水管は、網の目のように地下に張り巡らされていて、汚水を運ぶ手段は、基本的には自由落下。傾斜を流れていき、ある地点でポンプによって高い位置に組み上げられ、また、自由落下を繰り返し、下水処理場に運ばれています。当然、下水管も汚れてきます。掃除もするし、古くなれば、新しいモノに交換もしなくてはなりません。
私たちがイメージする下水管の交換は、夜間、めちゃくちゃ明るくライトアップされた道路工事現場で、大きな新しい下水管をクレーンが釣り上げて……というモノではないでしょうか?
ところが、今では、マンホールから入れられた自走式のマシンが、古くなった下水管の内側に更生管を巻き付きながら進み、新しい下水管に生まれ変わらせます。このマシンは作業後回収するので、メンテナンスにも最適です。自走式のマシンはカメラを使って、数キロ先まで施工可能。今までは、点検の人が歩いて破損場所を見つけなければならなかったのですが、今では一元管理が可能なシステムが存在するのです。技術もすごいですが、これによる環境負荷低減はひじょうに大きいのです。掘削しないことによるエネルギーの削減、地面を掘らないので土砂がでないことによる廃棄物削減、渋滞を起こさないことによるCO2削減などなど。
そして、42万kmの下水道と、そこを流れる汚水、汚物は私たち人間の貴重な資産であり、資源です。下水管の中は、冬でも16度程度で、その熱を利用して温水や空調などに再利用するビジネスが存在します。私たちの足元には、莫大な量の16度の空気が存在しているということです。そして、下水処理場で処理された生活汚泥には、リンや窒素といった植物の成長に欠かせない要素がかなり含まれています。これらの下水道資源を使って作物を栽培することこそ、ビストロ下水道です。
下水道の世界は、汚いものを流すくらいことしか知識のない私たちにとって、目からうろこの連続です。私は、職業柄、水資源をはじめ、下水道を事業として取り組む人たちとも話をします。その人が、言った一言。「中台さんの廃棄物の話以上に水はシビアです。どれだけのエネルギーをかけて、汚水や雨水を飲み水にしているか。その労力は、蛇口をひねって排水溝までの数秒で終わり、ほとんどの水資源は地下で過ごすことになる」。モノを大事に使いましょうとかいう次元ではない、使い捨て文化なのです。
そして、下水道事業は、完全に環境ビジネスとしてとらえることができます。廃棄物を知ることで、世の中の産業の構造を知ることができると私はよく話をします。下水道も、前回のレタスも、私たちが意識しない、目に見えないたくさんの貴重な資源が身近に存在します。もしかしたら、全産業共通で貴重な資源が存在するのかもしれません。画期的な技術や斬新なアイデアも大事ですが、もう一度、自分の生活や業務を見直すことこそ、今の私たちには必要なことなのかもしれません。