1週間程前からサンフランシスコに来ている。Casperという会社との仕事で8月いっぱいこちらに滞在する。Casperは3年前に創業したばかりの若い会社だが、2017年のThe Wolrd’s Most Innovative Companies(Fast company誌)のリテール部門でAmazonについで2位に入るなど、欧米で注目を集める会社である。高品質なマットレスを小さく圧縮し流通効率を高め、100日間の返品保証付きでオンライン販売するという革新的なモデルと、シンプルなデザイン、ユニークなマーケティングで一躍業界の寵児となった。現在ではマットレスだけでなく、家具からIoTまで「眠り」に関するあらゆるプロダクトの開発を始めている。
創業者のひとりがIDEOの元同僚だったというつながりで、創業前からこの会社のプロダクトデザインに関わっている。3年前、創業者たちとサウスカロライナ州の縫製工場に出かけて、ああでもないこうでもないと試作を重ねたり、工場から帰るレンタカーの中でロゴのデザインやブランディングをどうするか議論したことを懐かしく思い出す。当時の出張では、皆で夕方に安くなったホテルを探して宿泊費を浮かせていたが、今ではサンフランシスコの中心部に広いアパートを1カ月ほど取ってもらって、家族と一緒に滞在しながら仕事をしている。数名だったメンバーも現在は300名程に増え、企業価値は1,000億円に届こうとしている。わずか数年でここまで勢いのあるブランドに成長するとは、誰も夢にも思わなかった。開放的でクリエイティブな社風がアップルのエンジニアやハイブランドのファッションデザイナーなど、世界でもトップクラスの優秀な人材を引き寄せ、力強いコミュニティをつくりはじめている。
サンフランシスコは毎日空が高く、湾から吹く風がユーカリの葉を揺らし、会社までの10分ほどの道のりが楽しみになるくらい清々しい。サンフランシスコの気候とCasperの社風はどこかつながっている。創業当時から近くで見ていると、社風なんていうものがいつどこから生まれるのか不思議だが、社風が文字通り会社に吹く風だとしたら、周囲の風と連続していてもおかしくない。次代を開く会社に伴走し、成長をともにできることは、デザイナーとして本当に幸運なことだと思う。