「クラフト」という言葉がある。もちろん英語のcraftからきているが、1950年代、戦後の復興期を経て、「使うことに重きをおいた工芸」といった意味合いでつけられた、日本独特の言葉だ。
勤めていた会社が、社団法人(現公益社団法人)日本クラフトデザイン協会の主催する「日本クラフト展」に関わっていたため、私も自ずとクラフトを意識し、クラフトマンと関わり合うことになった。クラフトは「地場の素材や手仕事を活かす」という一面を持つ。
すべて、自分ひとりでつくり上げることをクラフトだと思っている人もいるだろうが、デザインしたものを工場と組んで商品化するクラフトデザイナーもいる。地場の工場の規模だからこそできるモノもあるのだ。
1300度を越す融点の鉄を溶かして成型する鉄鋳物というものは、それなりの機材が必要なために複数の職人が在籍する工房や工場の形態をとってつくることが多い。私はこの「人数がいるからできる仕事」というのが好きだ。型があり、機材があり、人との連携プレイが必要なものは、きちんと計画をたてないといけない。その制限のなかでできる端正なかたちに惹かれる。
クラフトデザイナーと名乗る人の多くは、つくる工程も熟知し、自分で手を動かし、作業に加わる。素材を熟知しているからこその銘品をつくっていた小笠原陸兆さんもそのひとり。工房見学が好きでこの仕事に就いた私が、足繁く訪ねている工房が小笠原鋳造所だ。
陸兆さんは、「りくちょう」と呼ばれるが本当の読み仮名は「みつよし」。最初に門戸を叩いたときはこのイカツイ名前に腰が引けたが、電話をかけると至って気さくに応対してくれた。聞けば「吹き(鋳物工房では鋳込むこと)作業」は朝8時から始まるとのこと。
始発の新幹線でも間に合わないならば、と夜行バスで水沢まで行き、タクシーで工房のある陸兆さんのご自宅に向かった。(ちなみに、夏は暑いので朝7時から始まる。鉄を溶かす「こしき」の担当の職人さんは4時ぐらいに作業を始めるのだそう。)
到着するなり陸兆さんの奥様が用意してくださった朝ごはんをいただいた。食事をしているうちにも、どんどん職人さんが集まってくる。みな、早起きだ。
予定通り8時に作業開始。炉から流れ出る溶けた鉄を職人さんが柄杓に受け止め、悠々と砂型に流し込んでいく。鉄の比重は7.85。1リットルでも7キロ以上なのに、実に軽々と持ち歩き、流し込んでいく作業を、ほれぼれしながら、飽きることなく見続けた。
工場一面に準備された砂型にすべて鉄が流し込まれるまで、1時間ほどだっただろうか。終わる頃に奥様が準備してくれた冷たいお茶を飲み、ほっと一息……と思いきや、まだほかほかと湯気の昇る砂型を、どんどん、足で蹴って崩していく。鉄がこんなに早く固まるなんて、知らなかった。鉄を溶かすキューポラは即座に解体されるその姿は、まるでSF映画の宇宙船のようだ。
鋳鉄の工場の面白いところは、「まっさら」から始まり、「まっさら」で終わるところ。陶磁器で型を使う場合、型は複数必要になり、かなりの場所が必要となる。しかし、鉄鋳物は鋳込む部分が空洞になる「プレート」と呼ばれる型を専用の装置に設置し、必要な分だけ砂型を作って、土間に並べていく。
型は砂だから、前述のように足で蹴れば崩れる。鋳込んだ品をよけて(これはこの後バリを取り、塗装をして完成品になる)、砂を片づければ、また元の土間に戻る。この潔さは他の素材ではなかなか味わえない。
さて、この作業を経てでき上がる、陸兆さんのデザインの真髄はどこにあるのか。続きは次回。
《前回のおまけ》
安土草多さんのグラス、照明は、台湾の小器さんにも連れて行った。独特の揺らぎは国境を越えて、見る人の心を揺さぶっていた。
今年も11月11日から、こちらで企画展をさせてもらうことになっている。スタッフは、みな、器が大好き。担当でないスタッフも新しい器を見たくて、自分の休み時間に荷ほどきを手伝ってくれる。
神林學・安土忠久 彫刻・ガラス
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安土草多さんのお父様の忠久さんの2人展が小田原で開かれています。中村好文さん内装のギャラリーはとても気持ち良いです。ぜひ足を運んでみてください。
- 会期
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2017年8月5日(土)〜8月13日(日)
OPEN 11:00 ―18:00 定休日9日(水) - 会場
- うつわ 菜の花(〒250-0013 小田原市南町1-3-12)
- 作家在廊日
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•神林さん在廊日 5日(土). 6日(日). 13日(日)
•安土さん在廊日は未定です。お楽しみに。 - 詳細
- http://utsuwa-nanohana.com/?p=1365