シャープデザイン オリジナル広告シリーズ
「デザイナーあるある」(前編)

▲AXIS 176号掲載の第1回「そこ、きたか!」

2015年7月発売のデザイン誌「AXIS」176号から10回にわたって掲載されてきたシャープのデザイナーの皆さんによるオリジナルシリーズ広告。そのコンセプトと制作過程について、メンバーの方々にお話をうかがいました。

▲朝井宣美さん(ブランディングデザイン本部)

——AXIS176号から185号まで掲載されたシーズン1のコンセプトについて教えていただけますか。

朝井宣美(ブランディングデザイン本部)
コンセプトとしては、シャープのコーポレート宣言である「Be Original」の下、デザインチームが掲げるデザインフィロソフィー「笑顔の品質」をAXISの読者の皆さんにご理解いただく表現として、デザインの現場での活動を人にフォーカスしつつ、紹介しようと考えました。
 シャープには10のデザインスタジオがあります。このシリーズでは、それぞれのスタジオの特徴を表した「ああ、そんなことあるよね」というアイデアを出しながら、リレー形式で各スタジオにつくってもらいました。われわれのなかでは“デザイナーあるある”と呼んでいます(笑)。

▲AXIS 177号に掲載の第2回「体験を創ること」

——では、最初に177号に掲載の第2回の広告について教えてください。タイトルは「体験を創ること」とあります。

中田裕士(ブランディングデザイン本部 デザイン開発センター UXデザインスタジオ)
これはUXデザイナーがプロトタイプを調整している場面です。UXデザインスタジオは、かつては製品の画面のGUIデザインがメインでした。今でもそれは重要ですが、扱う領域が広がってきています。コミュニケーションロボットのロボホンなど、画面のないもののデザインも手がけるようになってきている。プロトタイピングをするなかにおいても扱う要素が増えてきています。光を使ったり、ロボットであれば動きや音などをどういうタイミングで提供していけばいいか。デザイナー自身が手を動かしてプログラムを書いたり、エンジニア的なこともやったりします。
 ただ、プロのエンジニアではないので、起こってほしくないことが、意外と起こってほしくないときに起こるというのが“デザイナーあるある”(笑)。昨日まで動いていたものが、社の上層部へのプレゼンのときに限って動かないとか。肝心なときにトラブルがあって冷や汗をかく。そんなシーンを切り取りました。

▲中田裕士さん(ブランディングデザイン本部 デザイン開発センター UXデザインスタジオ)

——これはプロトタイプなんですね。

中田 はい、小鳥のような形のデバイスで、人の顔を認識してそちらを向くというものです。UXデザインスタジオでは、若手有志が自由な発想を形にしてプレゼンテーションするUXTEDという勉強会兼プレゼン大会のようなものを開催しています。このモデルはそこでつくっていたものです。

——撮影でのカット割りはどうやって決めていったのですか。

中田 実際に作業しているところを半日以上かけて撮りまくって、みんなで話し合いながら決めていきました。カットが決まったら、最後はスタジオの長がシャッターを押すことになっています。

▲AXIS 178号に掲載の第3回「デザイナーの手」

▲AXIS 179号に掲載の第4回「感動をつくる裏側」

——次はAXIS 179号に掲載の第4回の「感動をつくる裏側」についてです。

藤本英俊(ブランディングデザイン本部 デザイン戦略スタジオ)
われわれデザイン戦略スタジオのミッションは主にシャープ全体のデザイン戦略やデザインフィロフィーを考え、それにまつわるコンセプトモデルなどをつくっていくということです。 
 今までのシャープがどういったものをつくってきたのかと考えたときに、例えば携帯電話の写メールや液晶ビューカムなど、新しい体験を提供することで、お客様を笑顔にしてきた。そこがシャープらしいのところであり、われわれのデザインもそこにベースを置いています。
 ここで写っているのはエアコンのプロトタイプ。このままで製品になるというものではなくて、「笑顔の品質」というデザインフィロソフィーを具現化したビジョンモデルです。エアコンとして、部屋の空気を快適にするという性能や効率だけをいちばんの価値とするのであれば、エアコンの存在自体は見えなくてもいいという考え方があります。しかし、われわれはそれとは違うベクトルを目指したい。AIやIoT技術を入れることで独自の方向性を探れないかと考えています。
 エアコンの動きに着目すれば、硬いプラスチックのルーバーが機械的に動くのではなくて、有機的で柔らかい素材のものが優しく働きかけるとか。インジケーターのチカッとした光ではなくて、やさしいふんわりとした光。音もピッというのはなくて、音色に近い心地よい音。それらを体験として伝えることで、お客様が笑顔になればと考えています。ですから、色や形だけでなく、どうやって動かすかが最近のプロトタイプには求められていて、この広告はそこにスポットを当てたものになっています。

▲藤本英俊さん(ブランディングデザイン本部 デザイン戦略スタジオ)

——女性のデザイナーがプロトタイプの動きを調整している場面ですね。

藤本 社内の会議でプロトタイプをデザイナーに見てもらったら、全員が裏側を覗くんです。みんなどうやって動かしているのかに興味がある(笑)。それをテーマにしました。

——プロトタイプの裏側が丸見えですが、構図もすんなり決まったんでしょうか。

藤本 はい。表と裏の対比で見せていきたいと当初から考えていました。それとちょっとマニアックですが、美女と野獣ではないけれど、メカっぽいとところと可憐な感じ。機械の森に迷い込んだアリスみたいイメージです。ギャップで撮りたいという想いがあったんです。

——コピーはどなたがつくっているのですか。

朝井 この回は、藤本さんのグループ(戦略スタジオ)から提案いただきました。毎回当番のデザインスタジオから3案くらい出してもらい、伝えたい内容をつめていきます。

▲AXIS 180号に掲載の第5回「Adding colors to the message」

▲AXIS 181号に掲載の第6回「Macao mana kale…?(マレーシア語で、こんなの、どう?)」

▲AXIS 182号に掲載の第7回「专注、朝着前方的美(その先の美しさに向かって)」

——つづいて、第7回ですが、いきなり中国語だったので、驚きました。

宮田正志(ブランディングデザイン本部 デザイン開発センター)
中国にあるデザインセンターが担当したものです。中央に写っているのは現地のメンバーで、彼もデザイナー。深圳にある工場で、中国向けテレビのスタンドの仕上げに向けて加工工程の調整をしているところです。
 私が若いころは工場へしょっちゅう行って、職人さんたちに教えてもらいながら、もっとこうできないかとよく話し合ったものです。でも今は工作精度が上がって、工場を訪れることが少なくなりました。デザイナーも現場をあまり知らない。
 中国の仕事の進め方は意外とアメリカ的ですごくセクションに別れていて、そこを超えていくことはありません。デザイナーはこんな汚れ仕事をするものではないという意識が、当初はありましたが、そのギャップがわれわれと共同作業することで埋まっていって、同時に品質も上がっていった。つまり、仲間として距離が近くなっていくことで、品質も上がっていき、お客様も笑顔にできるはずだという想いから、この写真を選んだのです。

▲宮田正志さん(ブランディングデザイン本部 デザイン開発センター)

朝井 その前の第6回ではマレーシアのアジアデザインセンターに担当してもらいました。海外にもデザイン拠点があることはあまり知られていないので、2回続けて海外拠点の「あるある」を、お届けしたのです。End

ーー後編につづきます。