久しぶりに長めの休みが取れたので、家族で台湾旅行に出かけた。台北を訪れると決まって迪化街という問屋街に向かう。お茶やキクラゲ、貝柱などの乾物や、見たこともない漢方薬が、時代がかったバロック風のアーケードに所狭しと並び、そこに提灯の赤が重なって異国情緒が漂う。
ここで売られる食品は店頭で袋詰めされたものが多く、店の名前が印刷されただけの簡易的なシールが袋に無造作に貼られている。貼られる箇所はまちまちで、たいてい傾いている。文字も色使いも滅茶苦茶なのだが、破綻だらけのパッケージデザインが不思議と食材を美味しそうに見せている。「餅茶」のパッケージも魅力的だ。丸く成形された茶葉が透けるほど薄い紙で包まれていて、その風情がなんともかわいらしい。褪せた色で素朴に印刷された書もいい。
モダンデザインはあまり美味しそうではない。論理的なノイエグラフィークや機能的なバウハウスのデザインは文句なく美しいが、食欲はそそらない。無駄がなく効率的なことと、美味しそうなこととはどうやら関係がないらしい。整理整頓が得意なモダンデザインは、体温のある雑味やブレを取り入れるのは苦手なのだろう。意図的に加えられた雑味は、わざと歪ませた茶碗のように、作為が滲み、いやらしさが残る。
何かを食べるということは、単に栄養素を摂るということではない。食べ物の周辺にもやもやと存在する記憶や印象も一緒に食べている。迪化街で見かけるパーケージは、生産や流通の簡素さがそのまま形になっていて、それが温かく美味しい記憶とどこかで重なっている。台湾最古の問屋街は、それ自体が熟成乾燥した乾物のようで、訪れるほど味わい深い。