NEWS | アート
2017.06.22 19:35
© Palmeraie et désert – France 2 cinéma
20世紀の変革の場には必ず彼がいた。
フランスを代表する写真家のレイモン・ドゥパルドンは日本ではあまり知られていない。
青年時代よりマグナム・フォトに所属し、ベネズエラ・アフリカ・ハイチ・ソ連占領下のチェコなど世界中の紛争地帯でもカメラを止めることなく「カメラで見て・聞く」手法で記録しつづけた写真家だ。その彼と彼の妻であるクローディーヌ・ガレが共同で監督し、人生の旅路を描いたドキュメンタリーが9月より全国で公開される。
それだけではない。映画の公開と合わせ、シャネル・ネクサス・ホールにて日本初となるレイモンの個展の開催が決定している。本人の来日も予定されている2017年秋は「ドゥパルドン・イヤー」となるだろう。来たる秋に備えて、彼の記録の独特さを伝えられたらと思う。
ドゥパルドンが見つめる私たちの知らないフランス
この映画は主にふたつのパートから構成されている。ひとつは現在のドゥパルドンがキャンピングカーで移動しながら8×10の大判カメラを使用してフランス国内を撮影している様子。もうひとつはクローディーヌがドゥパルドンの未発表のフィルムを整理しながらそれを時系列を辿るように編集したもの。映画はこのふたつを交互に見せることで進行していく。
© Palmeraie et désert – France 2 cinéma
ドゥパルドンが記録する領域は国の変革という歴史的な出来事から、フランス国内の大統領選挙や裁判所・精神病院・警察といった国家機関の内部を市民の視点から描くドキュメンタリーの監督にまで到る。カメラの前で言葉を繰り返す患者、司法制度のもと繰り返される尋問、カフェである女性が「心を開くまで」回され続けるカメラ……。
ある意味において変革と同じくらいショッキングであるそのドキュメンタリーはカンヌ映画祭をはじめ国内外で高い評価を受けた。近年はフランスの伝統的な農業を続ける家族を追った作品など決して「ガイドブックに載ることのない」フランスの風景を40年以上に渡って撮影した作品を発表している。
© Palmeraie et désert – France 2 cinéma
「露出が1秒だから、車や歩行者は困るんだ」
劇中で彼が漏らす言葉は、決して多くないのだけど印象的だ。例えば「もう人の話は聞き飽きた」、と言いながら人の気配が被写体から消えるのを待ってシャッターを切る。露出に1秒掛かるので、シャッターを切るのにも緊張感がある。元来の人嫌いなのだろうか、と彼をよく知らない筆者は一瞬考える。けれど、その後に明かされる彼の報道写真家としての記録や、市民の目線でのドキュメンタリーを観てそうではないことを確信する。
© Palmeraie et désert – France 2 cinéma
また写真家としても映像作家としても、彼は「事実の記録」に努めるブレない人だ。不要な心象描写を含まず、事実以上に美しく映ってしまうことを避けたがる。受身に徹しているようだが、そうではない。彼には伝えるべき瞬間を待つ圧倒的な忍耐と感度が備わっているのだ。
世界中を旅したフィルムのかけらが「人生」と「愛」を映す
© Palmeraie et désert – France 2 cinéma
ドゥパルドンのそばで彼の膨大なアウトテイクを掘り起こし、編集するクローディーヌ。ふたりが出会う前のフィルムを整理しながら彼女は彼女で彼の辿ってきた旅路を垣間見たのだろうか。劇中で、ふたりが出会ったばかりの瞬間が撮影されている映像がある。そこだけはスクリーンがとびきり温かい。けれどそれ以外に彼女の心象描写といえるものはない。それが目の前のことの「記録」に人生を捧げてきたドゥパルドンへの、彼女の理解と愛なのかもしれない、と感じた。
「旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス」
2017年9月、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督:レイモン・ドゥパルドン、クローディーヌ・ヌーガレ
製作:クローディーヌ・ヌーガレ
撮影:レイモン・ドゥパルドン
録音:ギヨーム・シアマ、ヨランド・ドゥカルサン、ソフィー・シアポ
編集:シモン・ジャケ
音楽提供:パティ・スミス、アレクサンドル・デスプラ、ジルベール・ベコー、グロリア・ラッソ、アラン・バシュン他
出演:レイモン・ドゥパルドン、クローディ-ヌ・ヌーガレ、アラン・ドロン、ジャン=リュック・ゴダール、エリック・ロメール、ジャン・ルーシュ、ミレーユ・ダルク、マリー・リヴィエール、ミレイユ・マチュー、ジャック・シラク、ネルソン・マンデラ他
上映時間:2012年/フランス/100分
配給:アンプラグド
宣伝協力:プレイタイム
公式HP:tabisuru-shashinka.com
レイモン・ドゥパルドン写真展「DEPARDON/TOKYO 1964-2016」
- 会期
- 2017年9月1日(金)-10月1日(日)12:00-20:00 期間中無休 入場無料
- 会場
- シャネル・ネクサス・ホール(中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4階)
- HP
- chanelnexushall.jp