マルニ木工「MARUNI COLLECTION」の新作は「異素材の調和」に注目。
ジャスパー・モリソンさんに聞く「T&O」シリーズの魅力。

▲Photo by Junya Igarashi

マルニ木工が展開するブランド「MARUNI COLLECTION」に参加して6年目となるジャスパー・モリソンさん。軽やかさを追求した「Lightwood」を含む4つのシリーズに加え、昨年からは木の素材感とカラースチールの組み合わせをテーマにした「T&O」シリーズを展開中。4月にミラノサローネで発表した新作のテーブルやマルニ木工でのデザインについて話を聞いた。

※MARUNI COLLECTION:マルニ木工がつくるべきもの、その原点を探るため、2008年に立ち上げたブランド。2010年に深澤直人をアートディレクターに迎え、2011年からジャスパー・モリソンが参加し、「100 年経っても「世界の定番」として認められる木工家具をつくり続ける」ことを打ち出している。

T&Oシリーズの新作で挑戦したことを教えてください。

去年発表した椅子「T」のファミリーを増やすため、サイズや形の異なるテーブルをつくりました。

▲「T1チェア」(2016年発表)。無垢材を3次元に削り出した座面と背もたれを、弾力性のあるカラースチールでつなげている。

▲「T&O ダイニングテーブル240(突板)」
デザイン:ジャスパー・モリソン
素材・仕上げ・色:メープル ウレタン仕上げ ナチュラルクリア;スチール レッド

▲「T&O ラウンドテーブル63(突板)」
デザイン:ジャスパー・モリソン
素材・仕上げ・色:メープル ウレタン樹脂塗装 ナチュラルクリア;スチール ブラック

素材の樹種について、従来のメープルに加えて、アッシュを追加したのはなぜでしょう。

メープルはいわゆる木らしい木。どちらかというとコントラストの少ないピュアな表情をしています。一方、アッシュは木目のコントラストがあって個性がはっきりしている。生き生きとした豊かな表情があるので、私にとってはとても魅力的な素材なのです。またカラースチールとの相性もよいため、アッシュを加えました。

木、金属、布といった異素材の組み合わせについてはどのように考えていますか。

ノーマルな木の椅子をスチールと組み合わせることによって、双方の素材が引き立つ関係性をつくることができます。特に粉体塗装を施したカラースチールは、木の表情をリッチにすると同時に、とても新鮮なイメージを生み出します。

ジャスパーさんにとって、マルニ木工はどのような印象の会社でしょうか。

マルニ木工はヨーロッパの企業と比べるととてもよくオーガナイズされています。通常、毎年6月前後には翌年に発表するためのデザインを終わらせて、それから試作をつくり、写真撮影など、すべてがきちんとスケジュールされています。イタリアは全く逆。ミラノサローネの1カ月前に連絡があって、「何かやることはありますか?」と聞いてくる(笑)。でも、どちらのやり方も好きですよ。

MARUNI COLLECTIONのシリーズを手がける際、深澤さんのデザインを意識することはありますか。

かつて「Lightwood」シリーズをデザインしたとき、「既に市場で成功しているHIROSHIMAとは違うことをやろう」と考えたことはあります。HIROSHIMAとは真逆の「軽さ」を表現することをコンセプトに、軽やかなメープルを採用し、価格も安くなるよう目指しました。しかしT&Oシリーズではまったく意識していませんし、新しいデザインについて深澤さんに相談することもありません。

新たなシリーズを生み出すことと、そのファミリーを増やすことはどちらが大変でしょうか。

私にとっていちばん大変なのは新作の名前を考えること(笑)。それは冗談ですが、おそらくシリーズ最初に出したモデルがいちばんいいものなんだと思います。そこに「やりたいこと」をすべて注ぎ込むから。でもファミリーを増やしていくセカンドステップもなかなかいいものだと思うのです。そこでは「やるべきこと」に取り組むことができますからね。このふたつは私にとって全く違う取り組みなので、大変さの内容も違います。今まさにそのセカンドステップ、T&Oの新作について考えているところですが、たぶんマルニ木工は私のアイデアに簡単に「うん」とは言わないと思うので、どうしようかな(笑)。

ところで、4月に新しい本「The Hard Life」を出版されました。これはどういう経緯で生まれたのでしょうか。

2012年にポルトガルのリスボンにある国立民俗博物館をたまたま訪れて、中世の人々が使っていた道具や器など素晴らしいコレクションに目を見張りました。そこはとても寂れていて、誰も行かないそうなのですが、私にとっては新鮮でまさに「発見」という感じ。帰り際には既に「本をつくりたい」とぼんやり思っていました。そして翌年、本を出版するために再訪したのです。

なぜ、その所蔵品に惹かれたのでしょう。

意図してデザインされたものではないにもかかわらず、とても力強いデザインを感じる製品というものがあります。道具はまさにその典型です。タイトルの「The Hard Life」は決して悪い意味ではありません。人々の生活は、たくさんの肉体的な労働によって成り立っています。私が本のなかで取り上げたオブジェクトは、ポルトガルの村を支えるタフな労働や必要性から生まれたローカルな道具。そこには人が意図的にデザインしたものとは違う美しさがあると思うのです。

▲「The Hard Life」。主にポルトガルのローカルな村で使われていた道具を中心に紹介している。おそらく地元で採れる木(コルク)や土でできたものが多く、素朴な力強さがある。

ジャスパーさんがその博物館で惹かれた「力強いデザイン」は、T&Oシリーズのアッシュと粉体塗装のカラースチールという、個性的なテクスチャーをもつ素材の組み合わせにも通じるものがあると感じます。どうもありがとうございました。End