富山・高岡の二上、鋳物工場にできたリビングのようなショールーム

▲ 2016年に設けた工場2階のショールーム兼ミーティングスペース。

1897年創業の「二上(ふたがみ)」は鋳造の産地である富山県高岡市にある。粒子の細かい砂型に溶かした金属を流し入れる繊細な装飾を得意とし、長く輪灯(りんとう)などの仏具を手がけてきた。2009年には生活用品の自社ブランド「FUTAGAMI」を展開。砂目の柔らかさを生かした独特の肌合いと経年変化の味わいが人気を集め、今やその売上が8割以上を占めるという。

▲ 二上は金属鋳造の企業が集積する工業団地(高岡銅器アルミ協同組合)のなかにある。Photo by Lennaert Ruinen

▲ 鋳込みの工程。真鍮を約800℃前後で融解したものを砂型に流し込む。Photo by Lennaert Ruinen

▲ 仕上げ工程をショールームから眺める。Photo by Lennaert Ruinen

そんな同社が2016年9月、工場内にショールームを設けた。2棟ある工場のうちの古い建物の2階で、かつては物置として使われていた。ショールームにはミーティングスペースとオフィスも含まれ、2015年に立ち上げた新ライン「MATUREWARE(マチュアウェア)by FUTAGAMI」の製品も並ぶ。

「最初はショールームではなく直営店をつくりたいと思っていたんです」と語るのは、同社4代目の二上利博社長。「でも簡単なことではないと周囲から反対されて断念しかけていた。ちょうどその頃、MATUREWAREがスタートして、ウェブから直接エンドユーザーのオーダーを受けるようになったんです。なかには『実物を見たい』という方もいて、ショールームをつくることにしました」。

▲ 工場の2階にあるショールーム。

▲ ショールーム内オフィススペースにて二上利博社長。1日の仕事を終えると趣味のオーディオをいじりながらくつろぐことも。

商品も現場も正直に見せたい

FUTAGAMIの知名度があがるにつれて、自社製品の延長線上にあるようなOEM・ODMの依頼が増えたが、「フェイクのようなものをつくりたくない」とそのほとんどを断ってきた。一方でそれらに応えられるものを自社でできないかと考えたのが、「建築金物のセミオーダー」というモデル。それがMATUREWAREだ。顧客はウェブや展示会を通じて、ネームプレートやドアレバーなどのパーツやフォントを自由に組み合わせてオーダーする。

▲「MATUREWARE(マチュアウェア)by FUTAGAMI」にはネームプレート、ドアレバー、棚受け、スイッチプレート、あおり止め、コンセントカバーなどがある。同ラインのディレクションを手がけるのは二上の元職人でデザイナーの山崎義樹。

これらのサンプルが実際に使われているショールームでは、動きや手触りなどを試すことが可能だ。無垢の真鍮は酸化して色などが変化するため、遠方からも多くの人がオーダーを前提に見に来るそうだ。新しく家を建てる人が建築家を伴って訪れることも。「ここならすべての商品に触れてもらえる。下(工場)でこんなふうにつくっていると説明できるし、興味のある人には近くで作業を見てもらえます」。

こだわったのは「商品とつくる現場を切り離さない」こと。「ショールームはきれいな部分だけを見せがちです。そうではなく、商品も現場も一緒に正直なところを見せたい」と二上社長は説明する。

▲ 真鍮の素材感が生きる照明器具。

▲ ショールームのスイッチプレートにはMATUREWAREが使われている。人の手がよく触れる部分は色が変化し、味わいを増している。

リビングのようなショールーム&オフィス

ショールームづくりをサポートしたのは、FUTAGAMIのディレクター兼デザイナーであるOji & Designの大治将典。二上社長とは富山県総合デザインセンターのワークショップで出会い、二人三脚でブランドを育ててきた、いわば身内のような仲間だ。それゆえ「ショールームというよりは、家族のリビングみたいな場所をつくりたい」というパーソナルな想いで臨んだという。

Oji & Designを主宰するデザイナーの大治将典。二上のほか全国8カ所以上の産地でブランディングや製品デザインを手がけている。

富山の建築設計事務所51%(五割一分)に建築工事を依頼し、インテリアとオリジナル家具のデザインは大治と木工家の橋本 裕が協働し、それらを橋本が製作した。「いいものをつくることも大事だが、それを置く台も大事」と厳選したナラ材を使ったテーブルや椅子は、手鉋(てがんな)をかけて丁寧に仕上げられた。真鍮の製品を置くと色味や鋳肌(いはだ、鋳造したままの鋳物の表面)が映え、温かみが増して見えてくる。

▲ 家具や什器はStudio Yutakaの橋本 裕が製作。

▲ ショールームには実際に使うことのできるキッチンも併設。

オフィススペースのコーヒーテーブルやラウンジソファなどもすべてオリジナル。少し暗めのライティングの効果もあり、工場の一角とは思えないほど居心地の良い空間だ。

ブランディングではなく「一緒に生きる」

ショールームの見学は通常予約制だが、不定期ながら一般にも開放している。SNSで告知する程度でも多くの人がやってくる。もともとFUTAGAMIは積極的なプロモーションを行わず、共感した人の口コミで広がってきたブランドという印象がある。「最初は僕と社長だけですべてをやっていましたから、宣伝に力を入れることは物理的に無理だった。でも人って、『自分が見つけた』と思うほうが長く気に入ってくださるんですよね」と大治。そのため、あえて強くアピールせず、見つけてもらえるように情報を“放流”してきたという。

▲「FUTAGAMI」ブランドの製品から。

▲「MATUREWARE by FUTAGAMI」ブランドの製品。

一方で、今後は商品の背景やものづくりについてもう少し丁寧に説明していきたいと語る。「僕らがやっていることはどうしてもマス向けにはならない。そもそも数をつくることができないし、真鍮鋳物のクセもあるから、使い手が工夫して使わないといけない。だからこそ、より密な関係性のなかで伝えていきたいのです」(大治)。

今後の展望を尋ねると、ふたりとも口を揃えて「工場でバーベキューをやりたい」と答えた。顧客とじっくりコミュニケーションできる機会があれば、職人もフィードバックが受けられる。一生懸命つくったものがどう受け止められているかを知ることはつくり手として大事だ。

「僕らはそれをブランディングとは呼ばない。一緒に生きる、と言っているんです。つくり手も、デザイナーも、使い手も皆がイコールの存在で、どれが欠けてもうまくいかない」と大治。

かつては企業の強力なブランディングにユーザーが感化されるようにして、ひとつの価値観が形づくられていった感があるが、今はつくり手だけが引っ張っていくのではなく、みんなが一緒に動いていくなかで自然と中心軸が生まれるような時代だ。工場が外に向かって開かれれば、そこにいろいろな人が集まって理想の関係を築けるのではないか。二上のショールームは、そんな可能性を探るための場所である。(文・写真/今村玲子)End

株式会社二上

住所
〒933-0951 富山県高岡市長慶寺1000
Tel: 0766-23-8531 Fax: 0766-26-5614
詳細
http://www.futagami-imono.co.jp
追記
「FUTAGAMI 解放日」と題した工場やショールーム見学会、製品展示会は、同社ウェブで適宜告知しています。