「ストレッチ!展 ―TOREX Primeflex―」
高機能テキスタイルをいかに体感として伝えるか

21_21 DESIGN SIGHTのギャラリー3で、高機能テキスタイルの伸縮性やフィット感を紹介する「ストレッチ!展」が6月4日まで開かれている。これまで繊維業界やB to B向けだった専門的な情報をより多くの人に体感として伝えることが目的だ。

▲ 21_21 DESIGN SIGHTの開館10周年にあわせ、今年3月にオープンした「ギャラリー3」。企業や教育研究機関などと連携した実験的なプログラムを展示する。

空間全体でテキスタイルの特徴を表現

運動会の「大玉ころがし」のような大きな球が、今にも壁から飛び出してきそう。これは高いストレッチ性(伸び縮み)としなやかさを持つ東レのテキスタイル「プライムフレックス(Primeflex)」を使ったインスタレーション。4つのバルーンをサンドイッチしたプライムフレックスの伸びやかさ、しなやかさに目を奪われる。インスタレーションを担当した建築家の寺山紀彦によると、「飛び出すバルーンは、ひじやひざといった身体のまるみを巨大化したイメージ」だ。

▲「STRECH! BALOON」。「直線的な要素が多い空間の中に曲線を入れ込みたかった」と建築家の寺山紀彦。直線と曲線が対峙する緊張感のある空間が生まれた。

向かいの壁には、テキスタイルの特性を表すキーワードが描かれているが、エントランスからは普通の文字に見え、奥に進むにつれて文字が伸びていく。この視覚効果とメインビジュアルを手がけたグラフィックデザイナーの山野英之は、「建物の構造を利用して、テキスタイルの伸縮性を表現しました」と説明する。

▲「ストレッチ!展 ―TOREX Primeflex―」のメインビジュアル。

▲ 伸びる文字をデザインしたのは、メインビジュアルも手がけたグラフィックデザイナーの山野英之。

初めてのB to Cへのアプローチ

プライムフレックスは、東レのテキスタイルブランド。収縮率と性質の異なる2種類のポリマーを合わせて原糸をつくり、それをひじょうに細いスプリング構造にすることで、優れたストレッチ性を持たせている。よく伸びてよく戻るというしなやかな追従性、洗濯に強い、ハリ・コシがあって造形性に優れるなどの特徴があり、スポーツウェアやアウトドア用品でよく用いられている。近年ではスーツ地としても使われているそうだ。

しかし、こうした文章だけではよくわからない。だからこそ、今回のイベントが企画されたのだ。東レはこれまでB to Bの商談会や展示会で素材説明をすることはあっても、より広い人々に向けてアピールする機会はなかった。同社スポーツ・衣料資材事業部の担当者は、「テキスタイルには原料、糸の太さや形状、構造など、目に見えにくいさまざまなデザインが潜んでいます。今回の新しい切り口により、テキスタイルの面白さを一般の人にも感じてもらえたら」と企画意図を語った。

企業展示におけるデザインとは

今回の構成を担当したデザイナーの熊谷彰博は、プライムフレックスから「のびる」「しなやか」「はりこし」「つよい」というキーワードを抽出した。「これらのキーワードをもとにテキスタイルを選び、アートワークやグラフィックという展示のかたちに落とし込んでいった」と説明する。

衣服などの最終製品を展示していないのは、「テキスタイルそのものを体感してもらう、触ってもらう」ことを意図したため。触ればテキスタイルの専門家でなくとも特徴が伝わる。興味を持った人がさらに深く理解できるよう、情報を段階的に展示している。

▲ キーワードに基づいて16種類のテキスタイルを紹介。体感展示には、そのうち8種類を使用。

▲ プライムフレックスの生地にプリントされた展示概要やテキスタイルの説明。

「素材屋が展示すると生地を吊り下げたり、マネキンに着せたりといった発想になる。われわれにはとても考えつかない表現ができた」と東レ担当者。専門的になりがちな素材や技術などをわかりやすく伝える取り組みは、デザインの果たす役割のひとつだろう。(文・写真/今村玲子)End

「ストレッチ!展 ―TOREX Primeflex―」

会期
2017年5月30日(火)〜6月4日(日)10:00〜19:00 無休
会場
21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3 入場無料
主催
東レ株式会社
企画協力
21_21 DESIGN SIGHT
詳細
http://2121designsight.jp/