▲「ball bag, gold」(2016年春)
ともとかなこさんはバッグをつくるクリエイターだが、バッグを自分とはかけ離れた存在と感じ、毎回、いかに接点を持てるかといろいろな手法でアプローチを試みている。けれども、なかなか距離が縮まらないという。
▲ いろいろな色と模様の組み合わせがあるパッチワークのバッグ「Triangle & Stripe」(2016年秋)
進んできた道の先に今がある
進んできた道の先に今がある
普段、嗅覚が反応して引き寄せられるように人と出会うことが多いが、ともとさんもそのひとり。洗練されたデザインの丁寧なつくりのバッグはとても魅力的で、考えや思いを聞けば聞くほど興味深く感じられた。
ともとさんは「バッグのことがわからない」と言う。
毎回、新作をつくったときは、何となくその存在に歩み寄れたような気になるが、展示を終えたときにはまた「やっぱりバッグのことがわからない」「まったく距離が縮まっていない」「もう、つくるのをやめよう」と思う。しばらくすると、もう一度挑戦してみようという気持ちになるそうだ。
もともとバッグが大好きというわけではなく、バッグのクリエイターになりたいと思っていたのでもない。目の前に開かれた道に、ただひたすら進んできて今があるという。
▲ 製作で使用しているアトリエのミシン。
きっかけは大橋 歩さんとの出会い
きっかけは大橋 歩さんとの出会い
2003年から妹と「DOOR AND BOOK」というユニット名で、バッグやTシャツ、がま口といった布製の小物を製作・販売してきた。共同作業ではなく、それぞれがひとつの製品を最初から最後までつくるというスタイルだ。
転機が訪れたのは、2005年。知人を通じて、イラストレーターの大橋 歩さんに作品を見てもらう機会を得た。それがきっかけとなって、「Arne(アルネ)」⑬(イオグラフィック発行)にふたりのことが紹介された。さらに、その年に当時の大橋さんの事務所の一角にあったギャラリースペースで、「DOOR AND BOOK」としてバッグの展示会をさせてもらった。
ふたりはバッグのクリエイターとして認知され、全国各地のギャラリーやショップから声がかかるようになり、以降、展示の開催やショップに卸すためのバッグづくりに勤しむ多忙な日々が続いた。2011年に妹の結婚・出産を機に、ともとさんは個人での活動を開始した。
▲「KanakoTomoto Bag Exhibition」(2016年秋、ギャラリー モーネコンピス)
社会と触れ合うことを目指して
社会と触れ合うことを目指して
大学ではテキスタイルデザインを学んだ。立体物をつくるのが実は苦手で、絵や写真、グラフィックなど2次元のものづくりのほうが好き、空間演出やディスプレイデザインにも興味を持っていた。
その思いは今も変わらず、バッグをつくるときは必ず展示空間も考える。空間の中でバッグはオブジェのような存在であり、会場を構成するひとつの素材として見る。とはいえ、アートピースとは考えていない。
「来ていただいた方には、空間全体を味わって、そのときの感情の記憶をバッグとともに持ち帰ってもらえたらと思っています。そして、そのバッグを持って街を歩いていて誰かが反応してくれたときが、ようやく自分のバッグが社会と触れ合うことができたときだと思います。私はいつもそこに到達するまでを目標にしてつくっています」。
▲ 定期入れや名刺ケースを入れるのに便利な内ポケットが付いている。「Ball bag, yellow stripe」(2013年)
平和を感じる、丸い形
平和を感じる、丸い形
バッグの形は、自身が好きだという丸型が多い。アーモンド型のパターンをいくつか貼り合わせて縫製した、紙風船のような形もある。丸形が好きな理由は、「平和を感じる」からだそうだ。
製作ではミシンを使い、ときには手刺繍を施すなどして、すべて自分で縫っている。ほぼすべてのバッグに内ポケットが付き、取っ手は手に持ったときと肩にかけたときと、いずれもほどよい長さだ。見た目以上にたくさんの物が入り、内側は生地を二重にして縫い合わせているので丈夫で耐久性がある。
また、ストライプ柄と格子柄というように異なる柄を組み合わせて、持ち替えると違う表情が楽しめるという遊び心のあるものも多い。
▲ 2色のシンプルな模様が目を引く。「placard circle」(2015年秋)
日々の生活のなかでの考えや思いを題材に
日々の生活のなかでの考えや思いを題材に
製作にあたっては、遠い存在に感じるバッグにどうしたら近づけるかを考え、毎回、いろいろな素材や形、手法を駆使してさまざまにアプローチする。素材は、コットン、革、合皮、サイザルという麻の繊維を使ったこともある。
デザインコンセプトもそのつど変え、世界の出来事についての考えや日々の生活のなかで感じていることなども題材にする。
2015年秋には、上記の写真の直径50cmほどの大きなバッグを製作した。そのデザインを考えるきっかけになったのは、外国でのデモ行進のようなアートパフォーマンス写真をネットで見たことだった。人々が掲げるプラカードには言葉ではなく、ストライプなどの幾何学模様が描かれていた。
「日本ではちょうど安全保障関連法案に対する議論が巻き起こっていたときでした。それらのプラカードにはどのような意味や主張が込められているのかわからなかったのですが、言葉で書かれたものよりも、何か強いメッセージのようなものが伝わってきたんです。バッグも持って街を歩くことで、同じような効果を発揮できるのではないかと考えてデザインしました」。
▲ 街の風景を撮影した写真を取り入れた「scene + yellow circle」(2017年春)
自分の得意とする手法を取り入れて
自分の得意とする手法を取り入れて
2017年4月に西荻窪の「ギャラリーみずのそら」で行った展示では、写真やシルクスクリーンで生地にプリントしたバッグを発表した。シルクスクリーンは大学時代に経験があり、写真もその頃から趣味にしている。どちらもともとさんにとって好きなものづくりの手法だ。
バッグは材料の調達から型紙づくり、裁断、縫製といった長い道のりを経てでき上がるのに対して、写真は街を歩くなかで直感的にいいと感じたものを瞬時に切り取ることができ、シルクスクリーンは描きたいと思ったものを自由に生地に反映できる。
そういう自分の気持ちに近いものをすぐに表現できる手法を取り入れるのも、バッグに近づくためのアプローチのひとつだった。
展示後に感想を聞くと、「初めて少し手応えを感じました」と語り、笑みがこぼれた。日常の何気ない風景を独自の感性と視点で切り取った写真や、手描きの優しい線によるシルクスクリーンの図柄をまとったバッグには、確かにともとさんの人柄や個性がより強く感じられた。
▲ 展示会場の京都のギャラリーモーネコンピスのイメージをもとに製作。ギャラリーでシンボル的に使っている白く丸い輪のマークをモチーフに、白い布を切り抜いてミシンで縫い付けている。「White Circles」(2016年秋)
人の心を動かすものをつくりたい
人の心を動かすものをつくりたい
写真やシルクスクリーン、空間演出のほうが自分の気持ちを素直に表現できて得意であれば、バッグづくりをやめて、それらの道に進もうと思ったことはなかったのだろうか?
「まったく考えたことがない」との答え。ともとさんにとってバッグづくりは、「自分のことを深く掘り下げていき、自分を知り、それによって自分を解放していくこと」であり、「その先にあるものへたどり着くまでの、乗り越えなければいけない壁のようなもの」だという。
「本当はもっと自由にデザインしてもいいのに、といつも自分に思うんです。使い勝手や耐久性、価格のことなどを考えると、結局、最後は常識的で優等生になって、最初の考えや思いがきゅーっと縮こまってしまう。そこが自分のつまらないところ。そこから抜け出して、自分が納得できるものをつくりたい。人の心を動かすものをつくりたいと思っています。それがバッグをつくるなかで、私がいちばん目指しているところです」。
今年、ようやく少し距離が縮まったという手応えを感じ、新しい境地に至った。次はどういう展開を見せてくれるのだろうか。次回の個展は11月に開催予定だ。
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個展開催のお知らせ
- 会期
- 2017年11月3日〜20日(火、水、木は休み)12:00〜19:00
- 会場
- circle gallery & books 東京都国立市谷保5119 やぼろじ内
- 詳細
- http://www.circle-d.me/
東京・国立市のギャラリー・書店スペース「circle gallery & books」で、個展を開催予定。詳細が決まり次第、ウェブで案内予定です。
ともとかなこ/東京都生まれ。2001年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科テキスタイル専攻卒業。2003年、妹とともに「DOOR AND BOOK」というユニット名で布小物を製作、販売。2011年より「ともとかなこ」として個展を中心に活動を開始し、現在に至る。
http://www.kanakotomoto.com