NEWS | アート
2017.05.24 21:51
©️Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon
「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」で注目を集め、現在も全国で上映が広まり続けているトム・ムーア監督のデビュー作にして、アカデミー賞最優秀長編アニメ賞にいきなりノミネートされ、世界中を驚かせた本作がこの夏全国で公開となる。
ソング・オブ・ザ・シーでは壮大なケルト文様でアイルランド神話を基にした幼い兄弟の物語を描き、その美しさで感動の渦を巻き起こしたが、本作も舞台は9世紀のアイルランド。前作が青を基調とするならば、この作品はアイルランド・カラーである緑で満たされている。
©️Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon
本作は世界一美しい本と称されるアイルランドの国宝「ケルズの書」を巡る物語だ。主人公ブレンダンはケルズの書を完成させるために危険を冒し、不思議な生き物が隠れ住む魔法の森へと出かけていく。その本には隠された知恵と力が秘められていた。森では妖精アシュリンの助けを得て無事に目的を果たすも、ブレンダンの暮らすケルズ修道院に恐ろしいバイキングの襲来が迫っていた……。
©️Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon
ケルト美術の最高峰と言われるこのケルト文様の描かれ方が観るものを魅了してやまない。アニメーションはごく一部のシーンを除き、伝統的な2Dの手描き手法で制作され、舞台である中世の絵画に倣って現代的な遠近法を排し描かれている。この説明だけでは平面的な印象を与えかねないが、実際に観ると細部まで描かれた手描きならではの手法に味わい深い奥行きが感じられる。
何より万華鏡が回るように生き生きと紡がれるケルト文様が圧巻だ。ブリュノ・クレとアイルランドを代表する音楽グループ、KiLAが手掛けたアイルランドの音楽とともにスクリーンを埋めるケルト文様を眺めていると、あっという間に神話の中へと迷い込んでしまうよう。
©️Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon
監督は巧みにアイルランドの伝説やフェアリー・テールを作品に取り入れつつも、ヴィジュアルやロケーションは膨大なリサーチを行い、史実に基づいて制作したそうだ。冒険の物語である一方でアイルランド文化や歴史、ケルト美術への深い理解を通して見える、困難な時代に立ち向かう人々の普遍的なテーマを盛り込んでいる。
また、本作を観て美しくてどこか妖しいケルト文様に惹かれた方には「ケルト 装飾的思考」鶴岡真弓 著(筑摩書房)を読んでみてほしい。
ケルズの書をはじめ、ケルト福音書写本についてやそこに描かれているモチーフについて写真資料とともに詳細に知ることができる。ケルト文様がなぜ縄のように描かれ、途切れることがなく、宇宙のような広がりを持つのか。見た目にも美しい文様の意味を知るとき、世界の秘密をひとつ知ったようなときめきを感じるだろう。
アイルランド発のこのアニメーションが、大人も子どもも楽しめるものであることは間違いない。夏の公開が待ちきれない。
©️Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon
「ブレンダンとケルズの秘密」
2017年夏YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
監督:トム・ムーア
共同監督:ノラ・トゥーミー
原案:トム・ムーア
脚本:ファブリス・ジョルコウスキー
アートディテクター:ロス・スチュアート
音楽:ブリュノ・クレ、KiLA
上映時間:2009年/フランス・ベルギー・アイルランド合作/75分
配給:チャイルド・フィルム
公式HP:http://secretofkells.com