REPORT | ソーシャル
2017.05.26 22:41
▲ 富山県美術館の外観。
8月26日に全面開館する富山県美術館の英語表記は「Toyama Prefectural Museum of Art and Design(TAD)」。日本の公共美術館が「アート&デザイン」を看板に掲げたのは初めて。同館が誇る20世紀美術、約240脚の椅子や約1万3000点に及ぶポスターのコレクションを指して「アート&デザイン」を標榜する一方、近年はアートとデザインがクロスオーバーするような表現活動が増えている。開館後の活動について、TADはどのような展望を描いているのか尋ねた。
▲ TADのロゴマークは、1981年の富山県近代美術館の開館以来、全企画展のグラフィックデザインを手がけてきた永井一正氏によるもの。ユニフォームデザインは三宅一生氏、ホールの椅子のデザインは川上元美氏。
▲ 開館告知ポスターを担当したのは、グラフィックデザイナーの佐藤 卓氏。「TADってすごく楽しい美術館だよね、と言ってもらいたくて、『なんだここは』『いったいどんな美術館なんだ』とわからなさを含んだようなビジュアルにしたかった」(開催中の「実録 ありえない美術館ができるまで展」の映像より)。
「TADにおけるアート&デザインの原点は、前身である富山県立近代美術館の時代にまで遡ると理解しています」と語るのは、桐山登士樹副館長だ。同氏は20年近くにわたって富山県の産業デザインの促進に取り組み、現在は富山県総合デザインセンターの所長も兼任している。TADでは主にデザイン展のディレクションを担うという。「富山県立近代美術館にとって同県出身の瀧口修造(美術評論家・詩人)の存在は大きい。瀧口によるマクロ&ミクロの視点はアートやデザインといった分野を超えており、『世界ポスタートリエンナーレトヤマ』などの取り組みの原点にもなっています。私の役割は、前身のDNAを受け継ぎながら、TADとして今後何をしていくべきかを考えることです」。
▲ 錆び鉄板で覆われた瀧口修造の展示室は、建物の“心臓部”にあたる。「建築の中に異物を差し込む。瀧口さんが生きていたら最も喜ぶ方法ではないかと考えた」と建築家の内藤 廣氏。
▲ 瀧口修造コレクション展示室には、富山県近代美術館時代に寄贈された瀧口修造の作品や資料が展示される予定だ。壁の色は、インクの色に見立てたダークネイビー。
初回のデザイン展は「素材」がテーマ
デザインの領域がモノからコトまで大きく広がるなか、TADとしてどの部分をカバーしていくのか。桐山副館長は「すてきなデザインのものが山のように並んでいる美術館は全くイメージしていない」ときっぱり。「それよりもデザインを考えるうえで大切な着眼点やプロセス、クリエイティビティを重視したい」。
「デザインを感性や機能の側面のみから語るとマイノリティの世界に閉じてしまいます。公共の美術館がやらなければならないのは、各時代で起きていることをとらえ、人間がどこに着眼し、創造性によってどう対峙し、そこから何が生まれて社会とどうつながったか、ほかの分野にどう影響を及ぼしたかを伝えること。そうして初めてデザインをマジョリティの世界に変えていくことができるのではないでしょうか」。
▲ 建物3階にあるデザインコレクション用の展示室。テーマを変えながら、所蔵品を紹介していくという。
▲ TADが所蔵するポスターのコレクションのうち、約3,000点のデータを表示するポスタータッチパネル。常時、600点ずつランダムに表示し、検索も可能。チームラボと凸版印刷が協働で制作。
▲ 1985年から開催する「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」は2018年に12回目を迎える。トリエンナーレの作品など約1万3000点のポスターを所蔵する。コレクションは現在も続く。
そのうえで準備を進めているのが、全面開館後の初のデザイン展「素材と対話するアートとデザイン」(2017年11月16日〜2018年1月8日)だ。「素材」をテーマに、暮らしや産業のなかにあるデザインや技術を見せていくという。
「富山は素材県なんです。400年の銅器の歴史があり、金属や木、プラスチック、繊維までのあらゆる素材が富山の産業と結びついている。素材の持つ力をとらえ直し、身近な暮らしと産業のデザインとの接点をあぶり出し、次世代まで可視化できるような展覧会にしたい」と桐山副館長。作家の年齢や国籍を問わず、およそ過去5年に制作された100〜150点の作品をラインアップする予定だ。
▲「素材と対話するアートとデザイン」展より、須藤玲子 ≪たなばた≫ 2004年 Photo by Sue McNab
▲「素材と対話するアートとデザイン」展より、TAKE PROJECT ≪Dye It Yourself≫ 2015年 Photo by Masayuki Hayashi
「アート&デザイン」は答えではなく、問いかけ
とはいえ本展は、「TADが考えるアート&デザインとは何か」というような解答を示すものではないようだ。桐山副館長は「建築、プロダクト、ファッション、ビジュアルコミュニケーション、あるゆる分野のデザインをキュレーションしたいとは思っています。しかしTADのアイデンティティにも関わることなので、時間をかけて議論を重ねていきたい」と話す。
雪山行二館長も、「アート&デザインとは何かとよく聞かれるけれど、最初から明快な定義や枠組みをつくっているわけではない」と語る。「富山はものづくりの土地で、昔から工芸や美術とも縁が深い。いろいろな面からアートとデザインをつなげることとはどういうことなのか、ここでみんなで一緒に考えていこう、というわけです」。
▲ 3階のアトリエ。専門スタッフがプログラムを開発・運営する。
▲ 3階の図書コーナーでは、収蔵作品やデザインを中心とした雑誌や専門書などを閲覧できる。
館名に織り込まれた「アート&デザイン」は答えではなく、むしろ“問いかけ”。そこに、TADの精神的な支えであり、日本にシュルレアリスムを紹介し、前衛芸術表現を問うた美術評論家で詩人の瀧口修造とのつながりを想像するのは強引すぎるだろうか。いずれにしても、さまざまなジャンルの人がさまざまなかたちで関わるなかで、多くの人がアートとデザインに興味を持てるような場を目指していることは間違いなさそうだ。(文・写真/今村玲子)
富山県美術館
- 住所
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〒930-0806 富山県富山市木場町3-20
TEL 076-431-2711 FAX 076-431-2712 - 詳細
- http://tad-toyama.jp/