「ゲームチェンジャー・カタパルト」の展示では、食に関わる家電製品分野での提案も目立った。高齢化が進む社会において食の安全や健康意識が高まっていることとも無関係ではなく、キッチンという伝統的な家電分野と最新のセンサー技術などの組み合わせで、新たなビジネスチャンスを見出そうとする試みと言えた。今回は、食分野での3点の新機軸を紹介する。
まず、ステンレスタンクのような外観を持つ「デリソフナー」は、年齢を重ねて食べ物を飲み込むことが困難となる嚥下(えんげ)障がいを患った家族を持つ企画担当者が、その問題を解決すべく取り組んだプロジェクトだ。
一般に嚥下障がいでも流動食であれば食物は摂取しやすいが、心理的には通常の食事のような満足感が得られず、家族と同じものが食べられないことによって自尊心が損なわれることもある。
そこで、野菜や肉といった素材の形や色合いなどを保ったまま、口の中でホロホロと解けていくような食感を実現する技術を開発。飲み込みやすさを流動食と同等にすることで、食生活の質を維持できることを目指した。
▲「デリソフナー」
実際に「デリソフナー」で調理したブロッコリーを試食したところ、見た目は単に茹でたものと変わらないにもかかわらず、繊維質が全く感じられない柔らかさ。旨味も凝縮された印象で、何もつけなくとも美味しく食べることができた。
現在も開発中のため技術の詳細は明かされなかったが、プロトタイプの外観や構造から、無水の圧力鍋と電子レンジを組み合わせたような仕組みになっているものと推測される。いずれにしても、嚥下障がい者に限らず食や味覚の世界を広げる可能性を持った新調理器具へと発展する可能性を感じたプロジェクトだった。
また、「ザ・ファーメント」は、近頃トレンドとなっている甘酒やヨーグルトはもちろん、さまざまな発酵食品を使った調理ができる、食材とスマートレシピ(発酵工程)、デバイス(発酵機)を組み合わせた家庭用システムだ。
▲「ザ・ファーメント」
想定されるサービス内容は、毎月、シェフが監修した発酵食品の食材が宅配され、その発酵過程をコントロールするレシピ情報がスマートフォンに届く。食材を発酵器にセットし、専用アプリで時間や温度の管理を行うことで最良の状態に仕上げるというものだ。
こうした製品が世に出れば、世界各地にも発酵食の文化はあるが、日本の豊かな発酵食材の味覚を広めていくうえで大きな意味を持つだろう。
▲「ザ・ファーメント」
最後の「カロリエコ」は、調理済みの初期品をプレートごと入れるだけでカロリーや三大栄養素の含有量が測定され、健康管理や糖尿病患者などの食事管理が簡単に行えるデバイス。
独自の近赤外線を利用した非破壊的な分析法で専門家並みの検知精度が実現されていると言い、毎食の記録と分析が行われることで、変化のあるレシピの提案といったサービス展開までを想定している。
価格設定にもよるが、正確なカロリー計算は煩雑なだけに、こうした機器が家庭に入ると、長期的には医療費の低減につながるなど、さまざまなメリットが生まれそうだ。(3に続く)
▲「カロリエコ」
*5月19日(金)、伊勢丹新宿店メンズ館1階=プロモーションで開催中の「ミライデジタルボックス」にて、「ゲームチェンジャー・カタパルト」の一部の作品が展示されています。