「AXIS」187号では世界最大級のクリエイティブ・ビジネスの祭典、サウス・バイ・サウスウエスト(以下、SXSW)におけるソニーの取り組みを紹介したが、ここでは、その他の話題を数回にわたって採り上げていく。
まず、パナソニックの社内カンパニーであるアプライアンス社が、家電領域を核とする新規事業において社員を対象とした公募制度の運用、および社外との協創によるオープンイノベーションの創出のために立ち上げたアクセラレータプロジェクト「ゲームチェンジャー・カタパルト」の展示に関して、3回に分けて書くことにしよう。
今回、ゲームチェンジャー・カタパルトは、地元の有名レストラン「パークサイド」を借り切って、「パナソニック・ハウス」と呼ぶパビリオンをオープン。計10個の事業アイデアをプロトタイプやモックアップとともに披露した。
例えば、「モンスティール」は、衣服をハンガーにかけた状態で型崩れのないようにウォッシングしたり、帰宅後や出かける前にリフレッシュできる製品のプロトタイプで、縦型のスリムな筐体の中に、衣服を一着のみ装填することができる。
そして、スティック状のシャンプーとイフェクター(湿度やアロマなどを調整して衣類を好みの状態に仕上げるための添加物)を所定のスロットに挿入し、モードを選択すれば、後は自動でトータルケアされる仕組みだ。
既存の洗濯機とは一線を画すフォルムとサイズで、扉を閉めた状態ではちょっとした姿見にも使えるなど、女性ならではの視点が活かされたアイテムと言えた。
▲「モンスティール」
また、「ベントー@ユア・オフィス」は、QRコードの読み取り機能を備えた冷蔵庫と、対応するスマートフォンアプリの組み合わせで構成するシステムで、個々の利用者向けにパーソナライズされ栄養面でバランスのとれたランチをアプリ内のメニューから選択することができる。
するとモバイル決済が瞬時に行われ、画面にQRコードが表示されるので、それを冷蔵庫に読み取らせるとロックが外れ、選んだランチを取り出せるようになる。
わかりやすいように古いたとえを持ち出すならば、これは、使った分だけ支払う富山の置き薬をランチに置き換えて電子化したようなイメージ。業者はインテリジェントな冷蔵庫からの情報をもとに、定期的にクライアント企業に出向いて在庫を補充しておくのである。
展示されていた冷蔵庫は、あくまでもコンセプト説明用のモックアップで実際には機能しないが、一般的なミニ冷蔵庫のようなものもあれば、レゴ製やレザートランク型など既成概念にとらわれないデザインもあり、オフィスの雰囲気に合わせてバラエティを持たせることが想定されていた。
▲「ベントー@ユア・オフィス」
社外との協創という側面からは、ニューヨークのパーソンズ美術大学の学生との共同プロジェクトがあり、その成果のひとつとして睡眠支援グッズ「スリープワイズ」が展示された。
この手のひらサイズのデバイス(現時点ではモックアップ)は、不使用時には磁力によって滑らかな石や貝のような形状に一体化している。そして、利用時には本体とセンサーが分離して3つのパートに分かれ、2個のセンサー部は衣類の布地を挟むようにして吸着させることで固定でき、睡眠時の生体情報を取得して本体に送信するのだ。
本体は、得られた情報を解析し、利用者の眠りが最も良い状態となるように、対応する照明やエアコンなどのさまざまなIoT系家電製品をコントロールする。
パーソンズの学生の発想がユニークなのは、「スリープワイズ」を自宅だけでなく旅先でも使えるように携帯性を重視した点であり、さらには連動する家電製品を含めたエコシステムの構築によって、ホテルの設備など向けに関連製品を販売するところまで考慮されていた。実用化までには、まだ解決すべき課題はあるが、興味深い共創プロジェクトだった。(2に続く)