4月20日開業の「GINZA SIX」は
デザインとアートのショーケース

4月20日(木)に開業する大型複合商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」https://ginza6.tokyo)。銀座エリア最大の商業施設面積(約47,000㎡)というスケール感や、241店舗のうち半数以上が旗艦店といったプレミアム感が話題だが、ここで着目するのは「クリエイターのショーケース」としての側面。基本設計および外観デザインの谷口吉生、インテリアのグエナエル・ニコラをはじめ、館内の至るところで著名デザイナーやアーティストが活躍している。

▲初期の都市計画と建物の外観設計を担当したのは、東京国立博物館法隆寺宝物館、MoMAの増改築などで知られる建築家・谷口吉生。GINZA SIXは谷口初の商業施設だ。中央通りに面した6ブランドのファサードはそれぞれ付け替え可能な「のれん」で統一し、上層階のガラス壁面にはステンレスの「ひさし」を水平に入れることで変わらないアイコンとしている。

▲インテリアは「空間における人の動きをデザインした」と語るグエナエル・ニコラ。開放的な吹き抜け空間は「メディアジェニック」(ニコラ)であり、GINZA SIXのアイコンとなるはず。トップライトの自然光が和紙を透過して空間の隅々まで行き渡る。

▲4,000㎡の屋上庭園「GINZA SIXガーデン」は「江戸の庭園文化」がテーマ。ランドスケープアーキテクトの宮城俊作がセレクトしたのは「日本初の街路樹」と言われる桜やカエデ、松といった20種類以上のすべて在来種の低木。大きな水盤は水の音が涼感を誘い、イベントに応じて水を止めることも可能。

館内に点在する芸術空間

GINZA SIXにおいてアートは重要なテーマ。国内外で数多くの美術館を設計してきた谷口吉生による外観に呼応するように、森美術館の南條史生館長がキュレーションするパブリックアートをはじめ、伝統芸能などさまざまな芸術を内包する空間となっている。

▲地下3階に入る渋谷・松濤から移転した「観世能楽堂」(480席)。檜舞台や松の絵が描かれた鏡板をそのまま移築した。目付け柱などは取り外すことができ、能楽以外の用途にも使用できる。災害発生時には一時滞在スペースとしても使われる。

▲草間彌生作品は2018年2月25日までの展示。その後、吹き抜け空間のあーと作品は不定期で入れ替わる。

▲6階はアートのフロア。CCCの増田宗昭社長が「世界一のアート書店を目指す」と意気込む「銀座 蔦屋書店」には約6万冊のアート関連書籍のほか、貴重な古書や日本刀なども販売する。吹き抜けのイベントスペース「T-GALLERIA」では杉本博司、名和晃平、蜷川実花の作品を展示し(5月末まで)、今後トークイベントなども開くそう。書店内にアートギャラリー「THE CLUB」も併設し、現代アートや東洋の古美術を取り扱う。

▲館内2カ所に設けられた高さ12mの壁面にアート2作品を展示。ひとつはチームラボのデジタルインスタレーション「リビングウォール」。もうひとつのパトリック・ブランの作品と対になっている。

▲植物学者でありアーティストのパトリック・ブランによるバーチカルガーデン「リビングキャニオン」。「日本の自生種を含めて75種類の植物を組み合わせた。花の色のグラデーションを楽しんでほしい」。ちなみにチームラボの「リビングウォール」の映像内には、パトリック・ブランがセレクトした植物が描かれている。

素材が織りなす極上のラウンジ

GINZA SIXの特別な顧客だけが利用できるラウンジ「LOUNGE SIX(ラウンジシックス)」は、現代美術家の杉本博司と建築家の榊田倫之が主宰する新素材研究所が空間デザインを担当した。用いられた素材の成り立ちやその希少性ばかりに目が行ってしまうが、全体に落ち着いた居心地のよい空間だ。

▲横幅10mに及ぶ黒漆喰の壁が存在感を放つ。

▲自動扉は大正時代の看板建築に倣い、ブリキを曲げて貼り込み、酸で洗いをかけて仕上げている。

▲レセプションスペースの床には、1912年〜78年まで京都を走っていた市電の敷石を敷いた。東西の古き良き時代が蘇るようだ。石は杉本博司のコレクションとのこと。壁には同氏の写真作品。

▲ラウンジのためにデザインされた「ヘリコイドソファ」。ソファの脚はふすまの引き手などに使われる「宣徳メッキ」が施された。

▲個室との境には、黒部(ネズコ)を手で割いたへぎ板を茶室などで使う胡麻竹で押さえた引き戸。へぎ板を扱える職人はほとんど残っていないそう。

▲個室に続く通路には、東大寺の瓦を焼く奈良の職人による「低焼成瓦」を敷いている。

店舗もエクスクルーシブ

5階にはライフスタイル関連の店舗が並び、それぞれフラッグシップならではのストアデザインや限定商品に力を入れる。

▲ドラフトが手がけるプロダクトブランド「D-BROSS」の旗艦店では、木組みや継ぎ手を取り入れたストアデザインに、「現代の伝統工芸」をテーマにした商品展開。目玉は、2万点に及ぶ現存する家紋の中から厳選した350点を5人のグラフィックデザイナーが手で描き起こした「家紋本 特装本」(限定50冊)。福井の越前和紙を和綴じしたその価格は50万円(税抜)。

▲中川政七商店は既存の商品ラインアップに加えて、GINZA SIXの限定アイテムが並ぶ「高級工芸ゾーン」を併設。九谷焼の急須(60,000円)と湯呑(15,000円)は、上出長右衛門窯の限定商品。

▲新潟・燕三条で200年の歴史を持つ鎚起銅器の玉川堂。東京で2店舗目となるこちらでは、21人の職人が力を注いだ全体に槌目を施したインテリアが印象的。設計はダイケイミルズ。職人が鎚で銅板を叩く音をBGMに使うほどのこだわり。現代のライフスタイルに合わせた銅器のポットやドリッパーなども。

コンビニと観光案内所が合体

1年間に銀座を訪れる外国人は948万に上り、どの商業施設にとっても観光案内は必須だ。1階の観光バス乗降所に面した「TERMINAL GINZA」は、コンビニと観光案内所が1つになったサービスセンター。コンビニ、観光案内所、手荷物預かり、外貨両替、免税手続きといった観光客にとって便利な機能を集約する。本施設のディレクションとブランディングは、BAGNの坂口修一郎。単に機能性を高めるだけでなく、銀座や地域のことを知ってもらうための仕掛けも満載だ。

▲店舗設計はダイケイミルズの中村圭祐。観光案内のカウンターはヒノキ。壁と床が鉄のパネルの黒一色の空間にコンビニの商品が浮かび上がる。銀座の銘店と製作した観光客向けの土産なども。MDを担当したのはメソッドの山田 遊。

▲「TERMINAL GINZA」。ロゴや店内グラフィックを担当したグルーヴィジョンズよるオリジナル観光マップ。

このほか、館内にはトラフ建築設計事務所(イソップ)、田根 剛(クレ・ド・ボーテ)、マルセル・ワンダース(メゾン・デコルテ)、片山正通(ウールリッチ)らが内装を手がけた店舗や、パブリックアートが数多く点在する。広々とした館内を散策しながら、第一線のクリエイターたちの「仕事」を探してみてはいかがだろうか。

(文・写真/今村玲子)