REPORT | 建築
2017.03.17 15:50
2016年11月28日〜12月3日に開催された香港の「ビジネス・オブ・デザインウィーク(BODW)」(香港デザインセンター主催)で講演を行った約60人のクリエイターのなかからピックアップしてダイジェストで紹介する。最終回はMVRDVの共同ファウンダー、ウィニー・マース氏。
オランダ・ロッテルダムを拠点とする建築事務所のMVRDVの共同ファウンダー、ウィニー・マース氏は講演の冒頭から、「昨今、グリーンビルディングやグリーンシティといったコンセプトがよく聞かれるけれど、どうもアグリーで退屈なものが多い。建物が宝石みたいに植物をまとえばいいってものじゃない」と、軽妙な語りで辛口コメントを披露。そのうえで、韓国・ソウル市に提案した「ソウル・スカイガーデン」のプランを紹介した。
「Seoul Sky Garden」(2015年〜)©︎MVRDV
これはソウル駅と南大門市場をつないでいた旧高架道路の約1キロ分(約1万平方メートル)をパブリックスペースにするというものだ。そこでMVRDVが提案したのは、韓国に自生する植物のライブラリー(樹木園)をデザインすることだった。「すでに存在する橋の上に、われわれが導入したのは“鉢”というプロダクト」とマース氏。自動車用道路を空中庭園にして固有種の鉢植えで満たし、その間に小規模のコーヒースタンドやフラワーショップ、図書室や温室といった施設を「活性剤」として散りばめる。もちろんそれらの施設もすべて植栽され、“鉢”として見せる。
「Seoul Sky Garden」の俯瞰図。周辺のサテライト庭園とつながるイメージ
MVRDVは中国や台湾、韓国などアジア地域での仕事を数多く手がけており、香港では昨年末、東九龍地区でのリノベーションプロジェクト「133 WAI YIP STREET」が完成したばかりだ。このプロジェクトのテーマは「オープン化」。コンクリートで要塞のように閉じられていた建物の外壁をガラスに置き換えることで都市に対して開いた。ガラスの活用を得意とするMVRDVらしく、オフィス内部は床、壁、テーブルや棚まですべて透明のガラスでできている。
「133 WAI YIP STREET」(2016年)©︎Ossip
マース氏は「今の社会は透明性が高まり、人々は“密室のなかで起きていること”に注意を払うようになっている」と考える。「建物もオープン化していくことで、地域の産業や生活を世代を超えて伝える良きリマインダーとなり得る」というわけだ。実際、現在の香港では大規模なスクラップ・アンド・ビルドが進む一方で、2013年にオープンした「PMQ」(旧既婚警察官寮を文化センターにリノベーション)など、既存の建築を活かした再生プロジェクトも注目されており、今後増えてくる可能性がありそうだ。
香港島・セントラル地区内にある「PMQ」(筆者撮影)
新旧の価値観を取り混ぜながら、大きな変貌を遂げようとしている香港において今後どのような建築が可能なのか。マース氏は1つの事例をヒントとして示した。ロッテルダムの「マーケットホール」は生鮮食品など100もの店舗を擁する市場と、228戸の集合住宅を統合したプロジェクトだ。もともと「市場の隣に集合住宅をつくってほしい」という依頼に対してMVRDVが提案したのは、アーチ状に建設された集合住宅の下に市場を抱え込むというプラン。各住戸の窓から市場の様子を眺めることができ、階下に降りれば買い物や食事ができる。何よりそこには、人々が出会い交流するコミュニティが培われている。
「Market Hall」(2004〜2014)©︎Daria Scagliola and Stijn brakkee
「過密都市の解決策は摩天楼だけではない」とマース氏。「ローカルのボキャブラリーや振る舞いを読み解き、適切なテクノロジーを用いること。そうすれば、そこで生活やビジネスを営む人が一緒になって場所の質を高めていくためのシナリオはいくらでも描ける」と語った。(取材・文/今村玲子)