シンガポールの建築事務所WOHAインタビュー(後編)
「コミュニティを育んでいくことが、僕らの考えるサスティナビリティ」

シンガポールのみならず東南アジアを代表する建築事務所WOHA。名前は知らなくとも、彼らの手がけた緑溢れるホテル「パークロイヤル・オン・ピッカリング」や、インドネシア・バリ島のヴィラ「アリラ・ヴィラズ・ウルワツ」(写真上、Photo by Patrick Bingham-Hall)を目にした人は多いはず。WOHA設立者のウォン・マン・サムとリチャード・ハッセルに聞くインタビュー後編。(前編はこちらへ

インタビュー・文/葛西玲子


2月21日(火)の東京での講演会は、「21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」がテーマです。“サスティナビリティ”は時代のキーワードになっていますが、WOHAの建築の面白さは、エネルギーやエコロジーにどう向き合うかを踏まえながら、それを超えたプログラムをつくることにあるように感じます。ふたりにとってサスティナビリティの定義とはなんでしょうか?

WOHA サスティナビリティというと、一般的には「環境にやさしい、エコロジカルなデザインアプローチ」と定義されることが多いですが、僕たちにとってのサスティナビリティとは、文化的なアクティビティをいかにデザインに取り込むかという意味も持ち合わせています。

つまり、緑を多く取り入れるとか、再生可能なエネルギーを利用するといったエコロジカルなデザインソリューションはあくまでもテクニカルな問題解決であって、大切なのはデザインしたものが社会的にサスティナブルなものであるかどうか、ということ。

例えば、今ではシンガポールですっかり当たり前になった高層住宅棟の屋上や途中の階に設けられる「スカイガーデン」ですが、自分たちが最初に高層住宅棟で屋上ガーデンを提案したときには、緑を設けてエコにすることが目的だったわけではなく、人が集まる空間をつくることがゴールだった。ちょうど公園で、大木の幹のところに人が集まるように、建築を通してどうコミュニティを育んでいくかがサスティナビリティだと考えています。

▲ SkyVille Dawson, 2015(Photo by Patrick Bingham-Hall)


2016年に竣工して、シンガポールプレジデントデザインアワードを受賞した、障がいを持つ人たちの自立を支援するためのコミュニティ施設「Enabling Village」では、都市部とは思えない風通しのいいオアシス的な環境を実現しました。また、今年完成予定の複合的な施設を備えた高齢者にやさしい公共住宅プロジェクト「Kampung Admiralty」など、ふんだんな緑と自然換気を取り入れつつ、コミュニティに根差したプログラムづくりの取り組みがとても興味深いです。今年のアクティビティはどんなことが予定されていますか?

WOHA 3月にメキシコシティで展覧会が開催されます。フランクフルトのBreathing architecture展、新しい書籍とニューヨークの展覧会、これまでに展示してきたことのすべての集大成といえる大きな展覧になる予定です。メキシコシティといえば、大気汚染や人口過密といった都市問題を抱えた街としても知られていて、シンガポールと似たような気候条件にあるので、自分たちの提案が受け入れられやすいのではないかと思い、楽しみです。

また、自分たちの家具コレクションが、9月のパリのメゾン・エ・オブジェで発表されるかもしれません。海外のプロジェクトは、台北の集合住宅がもうすぐ竣工予定です。

▲ Enabling Village, 2016(Photo by Edward Hendricks)

▲ Kampung Admiralty, 2017

▲ Sky Green Taipei, 2017


日本にはどれくらいの頻度で行っていますか?

WOHA 日本が大好きだから本当はもっと行っていてもいいはずだけれど、遊びに行くのは年に一度くらいかな。 

一昨年から、国内需要が減っている日本の伝統工芸を海外とのコラボレーションを通じて再活性化させるというプロジェクトに関わっていて、そのワークショップのために2回、テキスタイルや漆、ヒノキといった制作や素材に携わる工房を訪れました。

日本の伝統工芸の技の極みに触れる体験は素晴らしいことですが、彼らのコラボレーターとしてどんな制作を展開していけるかを模索している最中です。僕たち以外にも数名のシンガポールのデザイナーがこのプロジェクトに関わり、成果は3月のシンガポールデザインウイーク(https://new.designsingapore.org/SDW)で発表される予定です。

ところで、サスティナビリティと言えば、日本こそ温泉を利用した地熱発電をはじめ、サスティナブルな手法の試みがもっと積極的に行われていても良さそうなのに、ずいぶん取り組みが遅れているように見受けられます。それはなぜなんだろうか?


*この続きは、2月21日(火)の東京での講演会をお楽しみに。ライブ配信の詳細は、後日このサイトでお伝えします。



WOHA/ウォン・マン・サム(右、Wong Mun Summ、1962 年シンガポール生まれ)とリチャード・ハッセル(Richard Hassell、1966 年オーストラリア生まれ)が1994 年に設立したシンガポールを拠点とする建築事務所。シンガポール都市再開発機関(URA)やシンガポール陸上交通局のアドバイザーを歴任。建設環境、マスタープラン、建築、ランドスケープ、インテリア、照明、家具などのデザインを幅広く手がける。地域の伝統やコンテクストを読み解き、現代的デザインと融合することで知られる。超高層化が進むシンガポールで、熱帯気候に適した建築をつくり続けていることで国際的に評価され、アガ・カーン建築賞ほか、ヨーン・ウッツォン国際建築賞、RIBA国際建築賞など受賞多数。
http://www.woha.net