REPORT | ビジネス
2016.12.28 13:31
建国して45年のドバイは、国自体が“スタートアップ”のようなところがある。2015年に建設されたビルの数は6,399に上り、今も高級ホテルやマンションの大型建設が進むなど、急激に変化している。こうしたなか政府は、アイデアを迅速に事業化へ移すための「フューチャー・アクセラレーター・プログラム(未来推進プログラム)」を立ち上げ、参画者を募集した。
このプログラムでは、政府内の7つの行政セクターに対するプロダクトやサービスの提案を募集し、12週間かけてプロトタイプをつくるなど実証実験を行う。公共事業と企業のマッチングプログラムと言えるが、重要なのは応募者にはアイデアの提案だけでなく、実現するための技術をすでに持っていることが求められる。つまり、0から1を生むようなイノベーションを求めているのではない。イノベーションを起こしたうえで、1から10、100へと商業化を進めるための場としてドバイを提供するということだ。そのために政府は5年にわたって2億7500万ドル(318億円余り)の予算を投じている。
「ドバイでうまくいけば、世界の他の都市でも同様の事業が導入されるかもしれない。ここを世界を変えるための実験場と捉えてもらいたい」と主催者の1つであるドバイ未来財団のマネージングディレクター、モハメド・アル・ゲルガウイ氏(Mohammed Al Gergawi)は期待する。
プログラムでは、ドバイ市、道路交通庁、警視庁、保健庁、知識人材開発庁、水道電力庁、政府持株会社ドバイ・ホールディングスの7つの行政分野において、未来の暮らしをよくするプロダクトおよび事業提案を広く世界に求めた。寄せられたのは、世界73カ国から2,274件。30社の提案が選ばれ、9月18日から12週間という短期間でそれぞれの官庁とともに事業化の可能性を検証した。
▲ 敷設を待つハイパーループ・チューブ
▲ ハイパーループのターミナルおよび管制室のイメージ
例えば、次世代交通システムを開発するアメリカのハイパーループ・ワン社(Hyperloop One)は、道路交通庁と組み、ドバイとアブダビ間の約160kmを従来の90分から12分で結ぶ超高速移動システムの商用化に向け、実証実験を進める。車両が真空状態に近いチューブ内を空中浮上して進むという「ハイパーループ」システムは、2016年初頭より注目されている技術だ。チューブ内は超低圧によって空気抵抗が最小限に保たれ、車両は電磁波で浮上したままチューブに接触することなく移動する。
次世代交通網は、道路交通庁長官と在ドバイ日本領事が「日本の技術を生かせないか」と会談していただけに、日本企業からの応募も欲しかったに違いない。
ドバイ市と組んだのは、過密都市で植物工場を展開する中国のアレスカ・ライフ・テクノロジー社(Alesca Life Technologies)。提案したのは、既存のコンテナを転用した水耕栽培ユニットをオールインワンのプロダクトとして提供し、天候に左右されることなく食糧供給を可能にするというシステムだ。
作物の生育状況は専用アプリで管理し、技術のない人でもすぐ始めることができるのが特徴。収穫量換算にして農地栽培で必要な水の量の5%で済み、人が介在するのは1週間に2時間だけでいいという。水耕栽培ゆえにトマト、葉物野菜など栽培できる作物は限られるが、このシステムが開発途上地域に普及すれば、農家の労働力として駆り出される子どもたちから教育の機会が奪われなくなるかもしれない。ドバイでの実験をきっかけに、必要とされる地域に導入が期待されるシステムの1つだろう。
▲ アレスカ・ライフ・テクノロジー社の水耕栽培システム。ユニットを設置するだけなので、既存スペースの転用が容易。ホテルやオフィスの室内といった空間でも設置できる
▲ 専用アプリで作物の生育状況を把握。左の画面では、発芽状態のもの、苗になったもの、実が付き収穫可能なもの、が一目でわかる。右の画面は水温、湿度、二酸化炭素濃度をモニタリング
これからの建物は土から生まれ、土に還ると提案したのは、オーストラリアのゼオフォーム社(Zeoforrm)。セルロース繊維と水のみでつくる植物性熱可塑性樹脂のゼオフォームは、工業資材として申し分ない強度を持つという。自然サイクルの中でのものづくりが可能となる素材と言える。
▲ ゼオフォームの原料は古紙から抽出したセルロース繊維と水だけ。建物の外装材としても使用が可能だ
▲ 技術は特許取得済み。ゼオフォームで成形したバースツール
12週間のプログラム後、14社が本社機能をドバイに移し、さらなる事業展開へと歩みを進めているという。一般的な公共事業の決断システムと異なり、優れたアイデアであれば外国資本でも受け入れる決断を瞬時に下すドバイ政府の成果主義に感心せざるを得ない。このプログラムは、今後1年に3回実施され、次回の「フューチャー・アクセラレーター・プログラム」への募集が始まっている。主催者は日本企業の提案に期待しているという。日本の技術を世界に試す絶好の機会になるのではないだろうか。(文/長谷川香苗)
「ドバイ・フューチャー・アクセラレーター・プログラム」
https://dubaifutureaccelerators.com/en