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2016.12.13 11:42
PVCデザインアワード2016の結果が発表され、11月27日に記念トークイベントが東京・丸の内の「グッドデザイン丸の内」で開催された。本アワードの主催団体の1つである塩ビ工業・環境協会の関 成孝専務理事、デザイナーの鈴木啓太氏(PRODUCT DESIGN CENTER)、石橋勝利AXIS編集長らによるトークの内容をレポートする。
関 PVCデザインアワードは2011年から6年にわたって毎年開催されています。塩ビ製品について理解をふかめてもらうため、そして新しい製品を出していこうとデザイナーと協働したのがきっかけでした。商品化された受賞作品もあります。ただ、革、紙、布などと違って、PVCはデザイナーが直接扱いにくい素材です。デザイナーが素材のことをよくわからないまま提案し、メーカー側も結局それをつくることができないというケースも少なくありませんでした。そうした状況を変えるために、今年から応募のルールを変えました。デザイナーとメーカーが共同でつくった作品を応募する方法と、メーカーが製品や試作を応募する方法の2つの形式にしたのです。今年はデザイン提案259件のうちマッチングで試作に進んだものが30件、製品応募59件、全部で89件となりました。前者は10件もマッチングできればよいほうだと思っていたので、最終的に30件もマッチングできたのはよかった。
塩ビ工業・環境協会の関 成孝専務理事。
2016年優秀賞「抗ウィルス製品群」/三洋 ✕ ロンシール工業
抗ウイルス効果のあるPVCフィルム(ロンプロテクトLP)を加工し、さまざまな身近な製品を提供。
2016年優秀賞「amenity pocket」/田村 開 ✕ 森松(岩間 正美・橋野 徳明)
倒れず、割れない、粘着性のあるソフトPVCの特性を活かした鏡や窓などフラットな壁面に貼って使えるポケット。
PVCという素材をよく知らなければ難しい
おふたりはPVCデザインアワードについてどう分析していますか。
石橋 初回から審査して感じているのは、応募者がPVCのことをよく理解していないとイノベーティブな作品は出てこないということです。デザイン提案がそのまま商品になるケースはほとんどありません。そのくらいPVCは難しい。われわれ審査員も勝手にスケッチで作品を選んで、それを無理矢理マッチングしてつくろうとするからメーカーも困ってしまうようなことが起きた。回数を重ねながら、審査側も学んできたところがあります。
鈴木 僕は去年から2回目なのでまだ鮮度を持って見ています。PVCってとても身近な素材なのに、一般に認識されていないところがある。それに対してどういうデザインが集まるか、ということに興味があります。切って溶着するのが最もシンプルなつくり方ですが、これをどう面白くするか。木や鉄と違って素材に任せる部分が少ないので、素材をよく知ることで力量の差が出やすいコンテストだと思っています。
審査員の鈴木啓太氏(PRODUCT DESIGN CENTER)。左はファシリテーターの川口真沙美氏。(日本デザイン振興会)
2016年入賞「PuCa PuCa」/小池 峻 ✕ 三洋(鈴木伸也)
風呂でスマートフォンを快適に楽しむための防水カバー。スマホを入れる層と空気を入れる層を分け、画面が見やすい角度に傾いた状態で水面に浮く。
2016年入賞「クリーンオアシス」/アキレスマリン
遮熱フィルムを使用したエアー自立式のパラソル。支柱の一部に水を入れて安定性を高め、倒れても壊れにくいエアーチューブ構造となっている。
2016年入賞「Yジャイロ」/鈴木化工 ✕ 山口情報芸術センター
空気入りビニル製品とスマートフォンのアプリとの融合で、揺れや衝撃と連動した新しい遊びを開発。
今年のテーマについてはいかがですか。
関 テーマは、主催者側で議論しながら決めています。家具、建材、雑貨など製品、分野の幅が広いので、テーマを選ぶこと自体が難しいんです。今回、昨年から2年続けて「安心・安全・快適」をテーマにしました。この分野に貢献しているのがPVCだという自負がある一方、深掘りすることでもっと違う提案が出てくるのではないかという期待です。
鈴木 アワードのテーマは2つの方向性があると思うんです。1つは表現。もう1つは社会に対する問題提起です。「安心・安全・快適」は後者ですね。去年のアワードで大賞を受賞した「日立ラップ ブルータイプ」はラップを青くするというシンプルなアイデアですが、混入した異物を発見しやすいと いうことでみんなが納得しました。ただ、このテーマを継続していくのであれば、今すぐ商品化できるアイデアだけでなく、これまでにない新しい構造や、建築のスケールで考えられたプロダクトなど、未来への可能性を感じさせる、夢のある、スケールの大きな提案があっても良いと感じました。
2015年大賞「日立ラップ ブルータイプ」/渡邉敬嘉 ✕ 日立化成
伸縮性・強度・粘着性などのPVCラップの特徴はそのまま生かし、ラップを青色にして食の安全性をサポート。 万が一食材へラップ片が混入しても見つけやすい。
関 プロのデザイナーがアワードに参加してくださることはひじょうに嬉しく思っています。面白いものもありますが、やはり素材を知らない人の提案がほとんど。素材を知ってもらう機会をどうつくっていくかが、今後の課題です。
2016年入賞「Maru Maru Necklace」/肥田 安世
PVCの軽さを利用して制作したボリュームのあるネックレス。手づくりアクセサリーのパーツとして展開することもできる。
2016年入賞「skeletonkachi」/京都精華大学 寺井 良曜
安心して使うことができる安全な工具をテーマに考えたトンカチ。対象物を傷つけることなく、クリアな見た目で危ない印象を与えない。
2016年入賞「室内用 点字ブロックマット」/鈴村賢司 ✕ 森松(安井浩二) ✕ オギ工業(荻原利貞)
視覚障害者や高齢者を対象とし、新居や宿泊先など慣れない場所に点字ブロックのPVCマットを設置できる。
2016年入賞「SUKIMA MAKER」/ナショナルマリンプラスチック(NDPチームD) ✕ 梶本 博司
自転車ポンプによる空気圧で、対象物を傷つけることなく空気圧で隙間をつくり、重い物を持ち上げる。
石橋 3年連続で大賞を受賞しているチームは、デザイナーとメーカーが密にやり取りをして、試行錯誤のなかでつくり上げています。メーカーはデザイナーとの付き合い方に慣れているし、デザイナーもPVCの素材特性を理解しているからかなり強いですよ。
審査員の石橋勝利(AXIS誌編集長)
2016年大賞「とびだすおふろ POP-UP BATH」
今年大賞となった「とびだすおふろ POP-UP BATH」を開発した、ナショナルマリンプラスチック(NMP)とデザイナーの梶本博司さんです。3年連続の大賞受賞となりましたが、今年はどのようなプロセスで作品をつくっていったのですか。
2016年大賞「とびだすおふろ POP-UP BATH」/ナショナルマリンプラスチック(NDPチームN) ✕ 梶本博司
“飛び出す絵本”のように瞬時に立ち上がるお風呂。軽量でひとりで運べ、さまざまな場所に出かけて温泉を注いで楽しんだり、災害時の避難所や介護などの場面で活用できる。ハニカム板を入れて強化している
梶本 最初、アワードに応募するアイデアがなかったんですよ。8月にナショナルマリンプラスチック(NMP)社内の営業担当者を緊急招集してアイデア会議を行いました。社内に、“ドラえもん”のようにアイデアをたくさん持っている人がいるので、その人を頼ってお風呂の案を出してもらったんです(笑)。NMPのスタンスとしては、「インフラに関わる産業を外さないこと」が前提なんです。入浴は人間の生活にとって最も基本的なことですし、お風呂に入れば気持ちが復活しますよね。その発想でいろいろな領域が考えられる、とみんなで議論しながら深めていきました。
石橋 アイデアが面白いし、仕上げもよくて、これしかないという感じでした。
鈴木 3年連続ってすごいですよね。応募者はNMPと同じようなチームをつくらないと勝てないでしょうね。NMPがPVCアワードにかけるモチベーションっていったい何なんでしょうか。
梶本 NMPの社内に「ノリノリデザインプロジェクト」というのを立ち上げたんです。専務がディレクターとなって、各部署から集まったメンバーが10人ほどいます。プロジェクトの目的は、PVCデザインアワードに挑戦してアイデアを評価してもらい、それをベースに商品化していくこと。アワードは商品開発のための大事なステージだととらえています。
デザイナーの梶本博司氏
会場には、ナショナルマリンプラスチック専務取締役の時田宗弘さんがいらっしゃいます。梶本さんとはどのように合流したのですか。
時田 NMPとしては第1回からPVCデザインアワードに参加し、当時私は美大生と協働して作品を応募していました。一方、梶本さんは個人で「サイクルスキン」を応募していて、事務局から「(サイクルスキンを)つくってくれないか」と話があったのですが、そのときは私ではなく別の社員が対応しました。その後、美大生が卒業したので困って梶本さんに連絡をとったのが最初です。
NMPは産業資材のメーカーですから「デザイン」のことは全くわからなかった。デザインって装飾のことだと思い込んでいて、「それは違う」と梶本さんに教えてもらいました今年の「とびだすおふろ」もシンプルにできていて、ほとんど手を加えていないんですよ。梶本さんも「お風呂ではなくプールをつくれないか」なんて無理難題を言うのですが、そうやってぶつかりながら結果としていいものができました。何より一緒に取り組んでいて勉強になるし、楽しいんですよ。
12年入賞「サイクルスキン」。雨ざらしになっている自転車をカバーするものをPVC素材で提案。
14年準大賞「0 tape(ゼロテープ)」は、PVCそのものの粘着性を活かしている。
ナショナルマリンプラスチック専務取締役 時田宗弘氏
NMPではもともとどんな製品をつくっているのですか。
時田 工事現場や工場の倉庫などで使われる「フレコン(フレキシブルコンテナ)」と呼ばれる産業資材をつくっています。一般の人にはなかなか見られないものなので、できたらいろんな人に知ってもらいし使ってもらいたい。PVCデザインアワードに応募するのもそのためです。
しかし、昨年大賞を受賞した「テトラサーバー」を一般消費者に販売するのは難しいですね。通常我々は500〜10000リットル程度の水槽を従来の得意先に販売しており、テトラサーバは70リットルと小型のためなかなか販売に至りません。そこで、一般消費者をターゲットに新規開拓を進めた所70リットルは大きいという意見が多かった。我々からするとかなり小さいと感じるのですが、ほかの方々からするともっと小さくなくては売れないと言われてしまいました。ただテトラサーバーを20リットルにすると、既存のポリタンクの価格に太刀打ちできない。BtoC市場とのマッチングに悩んでいるところです。
2015年大賞「テトラサーバー」/ナショナルマリンプラスチック ✕ 梶本博司
※「テトラサーバー」についてはこちらをご覧ください。
今後のPVCアワードに期待することは何でしょうか。
鈴木 デザインコンペがなんのために存在しているかと言えば、「挑戦」しかありません。コンペの価値は失敗してもいいこと。こういう場を挑戦の場としてとらえて、真剣に取り組むメーカーが増えてくるといいですね。
また、PVCショップをつくったらおもしろいのでは。いろいろなお店の棚にPVCコーナーができるとか、一般の人が日常的にPVCに触れられる環境があるといいですよね。
石橋 NMPと梶本さんのように、メーカーとデザイナーが密にコミュニケーションを取って提案するチームが増えてくればPVCデザインアワードはもっと面白くなると思います。近年、振り切れたアイデアが出にくくなっているなかで、アワードとしてもPVC素材による「イノベーション」をとるか、あるいはファッションやアートのような「美しさ」をとるか、検討していくことが必要かもしれません。(取材・文/今村玲子)
PVCデザインアワードのウェブサイトはこちらをご覧ください。