REPORT | ビジネス
2016.12.08 10:00
東京・青山のMaterial ConneXion Tokyoのショールームで、素材メーカーとデザイナーのコラボレーションによる作品展「MATERIAL DESIGN EXHIBITION 2016」が12月22日まで開かれている。
世界中から集めた素材のプラットフォームとして、製品メーカーと素材メーカーをつなぐ役割を果たす同社。素材の用途開発を目的とした作品展は、昨年に続いて2回目となる。今回は5組のマッチングが実現し、意欲的な作品が並んだ。自社の素材を別の視点から捉え直すこの試みを、メーカー側はどのように捉えているのか。各社のコメントを中心に紹介する。
三和化工 ✕ 倉本 仁「APOLLO」
ビート板、靴のインソールに使われている発泡ポリエチレン「サンペルカ L-1400」を独自技術「SPMF(Sanwa Press Mold Foam)」によって熱圧成形し、軽くて柔らかいフルーツボウルを制作。デンマークのクヴァドラ社のテキスタイルで表面を覆い、高級感のある作品になった。
メーカー担当者の声:
「SPMFは発泡体を金型に入れて加熱圧縮する独自の技術です。ビート板、靴のインソール、業務用ビデオカメラの肩パッドなど、立体的な形状のものをつくっています。布とポリエチレンの張り合わせは、技術的にできることはわかっていました。ただ、こうした製品提案をしてこなかったので、今回倉本さんとコラボレーションができてよかった。特に難しさはなかったですが、強いて言うなら試作を繰り返して圧縮した後の発泡体の硬さを微調整したことでしょうか。社内では、ポリエチレンの発泡体でこんなに高級感のあるものができるとは、と驚きの反応がありました」(三和化工株式会社 FDC本部 知財・測定グループ 課長代理 水野洋平)
岐セン ✕ 北川大輔「supple」
織物や編物、不織布の染色加工を行う岐セン。近年は木材加工分野で染色ツキ板(薄くスライスした木材に染色を施した素材)を手がけ、本展には昨年に続き2回目の参加となる。今回は、メープルの染色ツキ板と天然皮革を貼り合わせたバッグを制作した。
メーカー担当者の声:
「去年は家具を提案したので、それとは違う視点で染色ツキ板を見せられたらと考えていました。木材とは思えない色彩と質感、しなやかさに加え、それを縫製できるところが特徴です。もともと布と木材を染色する会社なので、両者を貼り合わせる試作はしていました。それをデザイナーさんに見てもらい、バッグという案が出てきたときに納得できました。耐久性や耐水性などの問題が必ず出てくるため、本当に製品としてつくりきれるか不安でした。ただ、素材の可能性やデザインの考え方を見せる企画だからこそ、冒険して新しいことに取り組めたのでよかったと思っています」(岐セン株式会社 新事業推進課 課長 杉野秀明)
NBCメッシュテック ✕ 吉田真也「ombra」
昭和9年の創業以来、製粉用ふるい網からエアコンのフィルターまでメッシュ技術を追求するNBCメッシュテック。そのポリエステルメッシュクロスを使った照明は、糸の太さや織り方を変えることで光の透過や色のグラデーションを微調整し、軽やかで優しい存在感の作品に仕上げた。
メーカー担当者の声:
「デザイナーの吉田さんは昨年も当社のプレゼンルームに来てくださったのですがマッチングが叶わず、『ぜひ今年は』という意気込みで取り組んでくださいました。素材を理解したうえで、すでに照明のアイデアを温めておられたので、それを実現するための協働となりました。接着部分の幅や、メッシュの厚みなど細かい指定があり、要望に沿えるように手作業で工夫しました。もともとはポリエステルの織物でガソリンのフィルター、空気清浄機やエアコンのフィルターなどに使われていているものですが、この作品を見てファッションやデザイン分野の方々からもお声がけいただくなど、今までにない反響をいただいています」(株式会社NBCメッシュテック 営業本部 市場開発部 産資開発グループ 先山絵理)
エヌシー産業 ✕ 小池和也「points collection」
エヌシー産業が得意とする多軸穴あけ加工は、1分間に約200ホール程度の穴を金属板にあけることができ、しかも6軸同時でスピーディに加工できることが特徴。今回はアルマイトの板材にミシン目やメッシュ状の穴あけを施し、それを立体的に曲げてトレイなどを制作した。
メーカー担当者の声:
「主に工業用部品などをずっと手がけてきたので、加工後に製品として完成するようなものは今回初めてです。小池さんからはアクリルに加工するといった提案もありましたが、最終的には金属の板を曲げやすくしたり、折り目をつけるというコンセプトで穴加工技術を使ってもらいました。見てのとおり色がきれいで華やか。これまで平面の部品という位置づけが多かったので、立体によって新しいイメージや可能性が広がるように感じます。現状では曲げるのが難しく、またかなりの数の穴が必要なためコストがかかります。お客様の声を聞きながら、次のステップにつなげられたらと思っています」(エヌシー産業株式会社 営業本部 TPSグループ グループリーダー 澤村昌尚)
三菱化学 ✕ 橋本崇秀・福嶋賢二「Thread Falls」
三菱化学の製品「DURABIO(デュラビオ)」は、再生可能な植物由来の原料からつくられた透明バイオエンプラ(エンジニアリングプラスチック)。耐衝撃性、耐熱性があり、黄変しにくく、発色性や耐傷付性がよいといった特徴がある。本作は製品提案というよりは素材の美しさや可能性を表現したインスタレーションという位置づけ。
メーカー担当者の声:
「DURABIOは、耐久性があって透明度がひじょうに高いバイオポリマーです。通常は自動車の内装材や電子機器の筐体などに使われていますが、デザイナーのふたりにはまずペレットの状態を見てもらいました。メインの作品は、繊維状に加工したDURABIOをステンレスの板にぐるぐる巻きつけた『糸の滝』。その周囲にペレットを敷きつめて下から照明の光を当てることで、素材の特徴である透明感を強調しています。もう1つの作品は同じくDURABIOの糸を編んで染色したもので、樹脂の光沢がそのまま現れています。水が氷や水蒸気に変わるように、同じ素材でも全く違う表現になることを狙いました」(三菱化学株式会社 マーケティング室 柴田美奈子)
会期中は、通常は会員制で非公開のマテリアルライブラリーも事前予約すれば見学することができる。素材から発想するデザインの可能性に触れてみてはいかがだろうか。(文・写真/今村玲子)
企画展「MATERIAL DESIGN EXHIBITION 2016」
会期:2016年10月26日(水)~12月22日(木)
休館:土・日・祝(10月29日、30日、11月3日は開館)
会場:Material ConneXion Tokyo(東京都港区南青山2-11-16 METLIFE青山ビル4F)
主催:Material ConneXion Tokyo
詳細:http://jp.materialconnexion.com
今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。