家具を主体としたライフスタイルを提案するインテリアメーカー、アルフレックスジャパンが、2016年9月にオリジナルの照明器具 LIGHT CONEを発表しました。
ライティングアーキテクト、豊久将三氏が監修として参加し、ファインセラミックスの技術ではトップクラスの京セラとの共同開発によって生まれた照明プロダクト。照明メーカーではない、アルフレックスジャパンがオリジナルの照明を開発するには理由がありました。
LIGHT CONEのデザインは、アルフレックスジャパン創業者の保科 正氏が設立したデザインチーム、C.O.D によるもの。C.O.Dのプロダクトデザイナー、藤戸琢也氏は「機能が最大限に生きるよう、飽きのこないデザインを目指した」と言います。長年、アルフレックスジャパンのために製品デザインを手がけ、時代が移り変わっても大切に使われるものを創造するというセオリーに基づいて、LIGHT CONEもデザインされました。
特徴の1つは、採用された紫色LED。保科氏はこの紫色LEDがつくる光の質の良さに驚いたそうです。「上質なライフスタイルを提案する際に、最も大事な要素は照明」という保科氏。この紫色LEDの光の質感ならば、自身が思い描いていた光環境ができるのではないかと確信したのです。
アルフレックスジャパンを創設する前から、イタリアをはじめとするヨーロッパ各国の生活文化に数多く触れてきた保科氏が感じていたことは、空間に対する上質な明かりと照明の使い方のセンスの重要性。空間を一様に明るくするのではなく、必要なところに必要なだけの明かりを、そして美しい光によって空間に陰影を生み出すことで、日本の生活文化の向上に貢献したいという想いが、LIGHT CONEの開発へと繋っていきます。
以前から交流のあった豊久氏を監修に迎え、開発がスタート。豊久氏は、「生活文化としての光をつくろうとしている保科さんは、光の質に対して専門家以上の感覚を持たれており、とても理解しあえた」と言います。国内外の美術館、博物館の照明計画で世界的に評価の高い豊久氏が常に求める光は、知識や技術にとらわれない美しい光です。
「照明は過ごしやすい空間のためにあるべきもの。家具やテーブルウェアとカテゴリーが違うだけで、目指すものは同じ」と豊久氏。開発を進めるうえで、紫色LED特有の性質のため、形状を工夫することもありました。「紫色LEDは青色LEDよりも放熱のために大きなヒートシンク(放熱板)が必要でした。そして、白熱灯のフィラメントとは違い、調光機能の難しさも実感しました」とC.O.Dの藤戸氏。LIGHT CONEはアルフレックスジャバンが提唱するバウンスライト 、いわゆる間接照明によって、より心地よく過ごせる空間をつくるため、機能と形を融合させたデザインに努めたといいます。ランプシェードのガラス部分に光が当たり、視覚的にきらめきをつくり、光は天井または壁に反射し空間全体に柔らかくソフトな光が広がります。
豊久氏は、もともと保科氏が提案する住空間には、日々の暮らしの中から出てくるリアリティを感じると話します。その保科氏の目指す、質の高い心地よい照明を実現するため、豊久氏は製品が完成するまで、何度も徹底的に、C.O.Dのデザインチームおよびアルフレックスジャパンスタッフと、実際の光でシミュレーションを重ねました。
光源から発する明かりの色を表現する単位、色温度。こちらも的確に確認しながら決めています。最終的に色温度のレンジの幅は、2700k 〜 3500k 。日の出1時間後までと、日の入1時間前までの太陽光の色温度を意識し3色展開とし、より自然光に近い、生活に溶け込む光を実現させました。
紫色LEDにRGB蛍光体技術が合わさることにより、青色LEDの再現性以上の透明感で雑味のない光をつくることができたのも、画期的なこと。自然光と人工の光が美しく共存して豊かなライフスタイルをつくることを目指したLIGHT CONEは4年以上の開発期間を経て、その第一弾が完成しました。
「光は、空間と空間を構成する要素との関係性をつくる手段」だと豊久氏は言います。そしてその手段である光を設計する上で、基準とされている照度の数値や、光の再現性を評価する演色性の数値にとらわれないようにしているとも話してくれました。「暗くても、その暗さをさわやかに感じられる方法はあり、光がつくり出す明暗や、微妙な陰影が空間と空間の中にレイアウトされる家具などとの関係性を生み出す」と。
まさに、アルフレックスジャパンが目指してきた心地よさを生む上質なライフスタイルに必要な明かりと、豊久氏の照明に対する思想とが合致したといえるでしょう。
アルフレックスジャパンの東京ショールームは、同じく9月に全面リニューアルされました。豊久氏は空間全体の照明計画も手がけ、その内容はレベルの高い、既成概念にとらわれないものとなりました。
ライフスタイルを総合的に提案する空間は、その運営する側にとって唯一無二のものである必要があり、空間全体が一品生産であると考える豊久氏。そのためには、空間に合わせた照明をつくるべきという考えを基本に、各シーンに合わせた照明計画になっています。構成する照明は、すべてオリジナルです。
「空間全体が照明器具」と話す保科氏。家具をデザインし製作していくのと同じ価値観によって照明器具の開発も進めていくとのこと。照明器具のメーカーではなく、ライフスタイルを提案するインテリアメーカーのアルフレックスジャパンが オリジナルの照明器具を発売と聞いたときは驚きましたが、今回開発の基になったストーリーや、保科氏の想いを知ることで納得がいきました。
左から、C.O.D 藤戸琢也氏、 豊久将三氏、保科 正氏。
アルフレックスジャパンがターゲットとする市場は人々が暮らす住空間。日常の生活を豊かに感じられる文化をつくるためには、ライフスタイル全体でとらえる必要があり、クオリティの高いライフスタイルを実現するための重要な要素である照明は、アルフレックスジャパンのようなブランドからこれからも多く生まれることでしょう。今後も、数アイテム開発が進行中とのことで、新たな展開に注目していきたいと思います。(文/谷田宏江、ライティングエディター)
取材協力 : アルフレックスジャパン /株式会社キルトプランニングオフィス