vol.78 シンガポール・チャンギ国際空港のアメニティ&エコロジカルデザイン(前編)

シンガポールのチャンギ空港といえば、東南アジアのみならず世界のハブエアポートとして知られ、国際空港協議会が選ぶアジア地区のエアポート・サービス・クオリティ・アワードでも長年にわたり上位にランクインしている。おそらく読者の皆さんの中にも、目的地あるいはトランジット的な利用で、この空港のお世話になった方は多いのではないだろうか。

かくいう筆者もそのひとりだが、たいていの場合、乗り換え時間などの関係で空港自体に止まることは少なかった。しかし、先日、チャンギ空港を経由地とした際に4時間近く空き時間があり、施設を見て回る余裕があったので、そのときに気ニナッタ、アメニティとエコロジー関連のデザインを2回に分けて紹介したい。



まず、驚いたのは、空港内(ターミナル3)に小さいながらも植物園があり、そこが蝶の飼育施設にもなっていることだ。

蝶は地球上におよそ2万5千種が存在するとされるが、シンガポールとマレーシア半島だけでその約5%にあたる1,250種が生息しているという。興味深いのは都市部でのみ見られる種もあるという点で、チャンギ空港では47種が飼育されていた。

施設は、ターミナルビルの2階と3階をつなぐように立体的につくられ、内部には亜熱帯の植物はもちろん人工的な滝もあって、その中を多数の蝶が飛び回っている。

また、日本人の感覚では、温室というとガラス張り、もしくはビニールハウスのように外気と遮断された環境を想像するが、ここでは粗めの鉄骨フレームに網が張られているだけで、外気がそのまま流入する構造だ。シンガポールの気候を考えれば当たり前のことだが、それによって空調コストが低く抑えられ、植物園の運営費も比較的安価で済むものと推測される。


施設内のエマージェンス・ケージ(蝶が成虫になるまで保護する円筒状のカゴ)では、卵の孵化から幼虫のサナギ化、脱皮したての成虫までの各段階を目の当たりにすることができ、パイナップルの輪切りなどを置いた餌場もある。なにより蝶が人間を全く恐れておらず、カメラを10cm以下の距離に近づけても逃げようとしないのだが、こうした体験が空港の待ち時間にできることは本当に意外だった。

後編では、さらに旅行者を楽しませる仕掛けや、テクノロジーを駆使したゴミ箱のシステムに触れる予定だ。