REPORT | インテリア
2016.09.25 16:01
住まいと暮らしの新たな創造を大阪から発信する住空間・インテリア関連産業見本市「LIVING & DESIGN」が、いよいよ10月12日(水)からスタートします。感性の高い暮らしの実現と住空間ビジネスの拡大を目指して始まったイベントも今回で8回目。今年は、「テクノロジーが創り出す次世代のリアルデザイン」をテーマに、人々のライフスタイルに応じた提案やそれらを彩る商材を広く提案します。
LIVING & DESIGN 2016の見所を出展者にフォーカスしていち早く紹介する連載の第1回は、「間仕切による空間価値の向上」を掲げて、ふすまや木製建具、アルミ製建具の製造販売を行う谷元フスマ工飾(大阪・八尾市)です。年々加速する和室離れに対し、 IT業界から転職して家業を継いだ谷元 亨社長が目指すのは、新しいテクノロジーを積極的に導入し、現代の暮らしに合ったモダンなデザインの提供です。異業種との連携にも乗り出し、ふすま紙を使った照明器具の製造にも挑戦する三代目社長は、「ふすまを通してもう一度 『和』に触れ合うきっかけをつくれれば」と出展への意気込みを語ります。
▲大阪・八尾市でふすまや障子などの製造販売を70年以上にわたり手がける谷元フスマ工飾。
需要の低下をバネに、インテリア分野へ
——祖父の代から70年以上続く会社を率いていますが、家業を継ぐ意志は以前から強かったのですか?
正直、想像もしていませんでした。本当は弁護士になりたかったんです。いろいろあってIT業界に就職し、東京でサラリーマン生活を送っていましたが、大きなプロジェクトにも参加でき満足していました。ただ、いつかは自分で事業を興したいという気持ちは強かった。普通なら独立してベンチャーになる道を選択するのでしょうが、「あれ? 待てよ。家業があるじゃないか!」ということに気づいて(笑)。それまではわからなかったのですが、家業に携わるようになって初めて建設業界の“すごさ”を実感しました。
——和室需要が減るなかで、ふすまや建具には厳しい時代が続いています。
確かにそうですね。今でこそ「和」を見直す動きがありますが、家業を継いだ当時は、「これまでと同じことをしていてはダメだ」という意識がすごく強かった。既存の商売以外に新しい道を切り開いていかないといけない。そのためにもエンドユーザーと近いところでつながれるインテリア分野に活路を求め、新たな商材の開発に乗り出し、東京のインテリア関連見本市などに参加するようになりました。
——どんなアイデアを提案したのでしょう。
大判のインクジェットプリンターを使ってふすまの柄を自分たちで自由につくれないかというのがスタートです。絵師が手がけるようなふすま紙はどうしても高価になってしまうので、購買層が広がらない。illustratorソフトの解説書を読みあさり、見よう見まねでデザインしていました。当然、いいものなんてできないですよね。反応はさっぱりでした。
▲風神雷神図をフィルムでプリントし、社内の間仕切りガラスに貼り込み、新たな和空間を提案しています。左は、障子を現代風にアレンジして気配を感じることのできる間仕切の数奇戸。
いかにして付加価値をつくるか
——LIVING & DESIGNには、2009年の第1回から参加しています。
自社ブースに加え、ふすま組合の青年部の一員としても参加しました。「ふすま絵デザインコンペティション」の入賞作品などを展示した組合ブースのほうはそこそこ反響があったのですが、自社のほうは最初の2、3回は厳しかったですね。状況が好転したのは、「華引手」という商品を展示してからです。それまで引手といえば黒や茶色の無地がほとんどでした。そこにビビッドな色使いの個性的な和柄を取り入れ、ワンポイントのアクセントとしてふすまに彩りを与えるようにした。図柄も市松や鹿の子絞りなど日本の古典柄を中心に100種類以上を用意し、選べる楽しさも提案しました。そこがウケたんだと思います。
▲長年ふすまの製造を手がけてきた同社が初めて引手を商品化し、2012年から発売する華引手。銀、黒、茶の3色の枠と、105種類の柄の組み合わせで新たなふすまの楽しみ方を提案。
▲華引手の構造を解説する谷元 亨社長。伝統的な和柄模様について谷元社長は「70年以上ふすまの製造を手がけてきた私たちのアイデンティティであり、コンピテンシー」と話します。
——着想のきっかけはどこから?
ふすまの工場を見学した際、枠に板をはめ込む引手の製造工程を見て、これだったら「板に模様をプリントできるのでは」と思ったのが最初です。
ふすまはかつては量産品だったんです。100戸のマンションがあれば、そこには必ず100の和室があり、500枚のふすま需要がありました。そこでは品質を均一にし、メンテナンス性が高く、かつコストをどれだけ抑えるかが重視されました。それが今ではふすまはオプション品。お客さまがあえて和室を選んでいただくことで需要が発生する商材なので、私たちとしてはそこに何らかの付加価値を与えていきたいと思っている。ひとりひとりのお客さまに合わせた提案という点からも、華引手のようなものには可能性があると思っています。
——デザイナーに柄を提供してもらうかたちのコラボレーションも選択肢としてありそうですね。
ぜひやりたいですね。「ミナ・ペルホネン」などと組んで、印刷ではなく、生地をそのまま貼り込むようなこともやってみたい。
▲完成したばかりの照明器具のプロトタイプは、海外の方にも手軽にふすま文化を楽しんでもらいたいと考案。フレーム内にLEDを組み込み、行灯のような使い方を想定。ベッドサイドやデスクに置いて、陰翳を楽しんでほしいと、谷元社長は言います。LIVING & DESIGNの会場でも展示される予定です。
ふすまの感覚、現代の暮らしへ
——今回の展示で最もアピールしたい点は?
ホテルやデザイン系リノベーションに対応した間仕切です。なかでも伝統的な和を現代様式にアレンジしたものを見ていただきたい。
——今年のテーマである「テクノロジーが創り出す次世代のリアルデザイン」から、どのようなことを発想しますか?
機能や意匠において、今までは技術の制限上できなかったことが、新たなテクノロジーを用いることで可能となり、その結果としてクリエイターのイメージする住空間の実現性が高まったり、クリエイターの想像を掻き立てることにつながっていくのではないかと思っています。弊社の事業で考えると、特に、伝統的な和の「気配」や「文様」などを新しい技術を用いて現代風にアレンジし、ふすまの感覚を生かしたモダンな空間づくりに寄与したいと思っています。
——ふすまの感覚とはなんでしょうか。
光と影がつくりだす「気配」のようなものだと思います。西洋の間仕切りが密閉性を高める目的のものであるのに対し、ふすまはゆるく空間を仕切ると同時に隣の部屋の気配を感じることができる。そういう暮らしの楽しみ方を、新しいテクノロジーや発想を取り入れながら、世界に向けて発信していきたいですね。
——新しい「ふすまライフ」の提案を期待しています。(インタビュー・文/編集部・上條昌宏)
▲屏風パーテーションや華引手などが並んだ昨年出展時のブースの様子。今年も和柄から派生したさまざまなデザインの数寄戸、華引手、カッティングパネルなどがブースに並ぶ予定です。
LIVING & DESIGN 2016 住まいと暮らしのリノベーション TOTAL INTERIOR
会期:2016年10月12日(水)~14日(金)
時間:10:00~18:00 (最終日は17:00まで)
会場:大阪南港ATCホール(大阪市住之江区南港北2-1-10)
入場料:1,000円(招待状持参者、事前登録者は無料)
主催:LIVING & DESIGN 2016実行委員会
総合プロデューサー:喜多俊之
会場構成ディレクター:間宮吉彦
コーディネーター:川上玲子
問い合わせ先:LIVING & DESIGN 実行委員会 事務局
info@living-and-design.com
谷元フスマ工飾のブースは、カフェゾーンを正面に、右手35番コーナーになります。