ノアイユ邸という“場”が育んだ
「デザイン・パレード」(後編)

南フランスの街イエールで開催されたデザインコンペティション「デザイン・パレード」は、舞台となった会場のノアイユ邸もコンペを語るうえで重要な要素だ。

▲ villa Noailles © Olivier Amsellem, 2013

▲ le salon rose, villa Noailles © Olivier Amsellem, 2008

ノアイユ邸は1920年代、ル・コルビュジエと同時代に活躍した建築家、ロベール・マレ=ステヴァンが、ノアイユ公爵夫妻のために建てたモダニズム建築の邸宅。先進的な考えを持ち、刺激的なクリエイションを好んだノアイユ夫妻は、ジャン・コクトー、マン・レイなどが駆け出しの頃から彼らをサポートし、ノアイユ邸に滞在して創作に打ち込むことを勧めた。

▲ Charles et Marie-Laure de Noailles, Hyères, 1928
  Extrait du film de Jacques Manuel, Biceps et Bijoux CNC, archives du film

15の客室を備えた邸宅は、ノアイユ夫妻が好んだ青い芸術家たちのたまり場となり、夫妻は彼らとともにヨーロッパで初めてと言われる室内プールで泳いだり、ジムでの体操を楽しんだという。こうした環境のなかから実験的なクリエイションが生まれたのであり、若い才能を発見し、その力を伸ばそうというノアイユ夫妻の想いを引き継ぐかたちで「デザイン・パレード」は始まった。

ノアイユ夫妻は莫大な資産を持つ貴族であったにもかかわらず、当時の貴族たちが好んだ豪奢な装飾ではなく、先進的なモダニズム建築と同様、室内装飾にもアヴァンギャルドを求めた。

積み木のように直方体の部屋がいくつも積み重なったロベール・マレ=ステヴァンの建築は、どの部屋も修道院のようにストイックで似たようなつくりのため、ゲストは家の中でしばしば迷子になったという。家具や調度品は暮らすなかで段階的に増やしていったというが、それはさまざまな展示会を訪れ、気に入ったデザイナーに出会うまで、とことんこだわり抜いたからだ。

▲ Villa Noailles Vue du salon rose, 1928
  Photographe : Thérèse Bonney Collection privée

1925年のアールデコ万博で見つけたピエール・シャローのデザインした壁掛けの折り畳み式ベッド、ソニア・デローネのテキスタイルはそうしてノアイユ邸を飾ることになった。ほかにもアイリーン・グレイがデザインしたラグ、シャルロット・ペリアンがデザインしたゲームテーブル、マルセル・ブロイヤーの1920年代のチューブチェア、1930年代フランスのロネオ社が量産したアイアンテーブルなど、いずれもノアイユ夫人のマリー=ロールが自ら選んだものばかりだった。

こうした室内装飾は今も残されており、デザイン・パレードの展示にも興味をそそられるが、邸宅だけでも見る価値がある。ノアイユ邸はイエール市所有の建築としてヴィラ・ノアイユ協会が管理し、一般公開されている。90年近く前に建てられた住宅の傑作を見に訪れるのはいかがだろうか。(文/長谷川香苗)

▲ Villa Noailles Vue des salles à manger, 1928
  Photographe : Thérèse Bonney Collection privée