今回は、前回で少し触れたベルリンのモダンな商業施設「ビキニ・ベルリン」を紹介する。
ビキニ・ベルリンは、1950年代後半に建てられた建物を改修して2014年に誕生した多目的商業スペースで、戦後の建築当初はビキニ・ハウスと呼ばれていた。その理由は、1978年まで存在していたアーケード階によって視覚的に分離された上下層の構造が、水着のビキニを連想させたからという。
一度、骨組みレベルまで解体されたリノベーションによって外観はより近代的なものに生まれ変わったが、特に1階部分のピロティなどに往時の面影が残っている。
大手のファストファッションのストアなどはあえて出店させず、特色のあるデザイン系のセレクトショップなどで構成された店内は、オープン時に大きな話題となったようだ。ただし、こうしたテナント構成はドイツでは珍しくとも、日本の大都市部の商業施設には少なからず存在するため、そのこと自体に驚く日本人は少ないかもしれない。
また、自動車のミニを無料で貸し出すなどの斬新なサービスを行っている「25アワーズホテル ビキニ・ベルリン」やゴージャスな映画館の「ズーパラスト」とも隣接しており、同じ区画に宿泊からショッピング、エンターテインメントの要素がパックされている。
ビキニ・ベルリンの内部は、自然光を多く採り入れて、明るく開放的な空間になっており、期間限定のポップアップストアが立ち並ぶ1階のフロアは、屋内でありながら散歩気分でショッピングを楽しめるように工夫されている。
その中央のカフェスペースの奥の壁には大きな窓が設けられているのだが、そこから見えているのは、猿山(!)である。実は、ビキニ・ベルリンの裏手には、世界最大級のベルリン動物園があり、その一部が、窓や屋上から見えるようになっているのだ。
これは、元々のビキニ・ハウスが、動物園を核とした戦後の都市再開発プロジェクト「動物園センター」の一部だったことから、ベルリン動物園と隣接しているためで、改修の際にもそれを最大限に生かして特徴の1つとしたのだろう。動物園側としても、ショッピングに来た人たちが、窓から見える様子に興味を持って来園してくれれば嬉しいわけで、この窓はいわばプレビュー的に機能していると考えられる。
上層階へはエレベーターやエスカレーターを使っても移動できるが、緩やかでダイナミックな木の階段が思わず利用したくなる動線となっており、これを登っていくと気持ちの良い低層棟の屋上に出る。
施設案内版は円を基調としており、「ショッピング・セラピーを受けてください」といった購買意欲を誘うコピーがあちこちに点在しているのが面白い。
屋上スペースは、思い思いにテイクアウトしたランチを食べたり、猿山を上から見下ろして過ごせるようになっていて、特殊なベンチも置かれていた。このベンチは背もたれが可動式で、座る向きを変えることができる。
ドイツ語の注意書きには、怪我をする危険があるので、子どもには操作させないことと書かれているのだが、おそらく日本ではクレームを、アメリカでは訴訟を恐れて設置できないような製品だ。その点はあくまで個人の責任として使い手の自由を優先するのが、今のドイツ流の考え方なのかもしれない。