REPORT | 建築
2016.08.05 11:42
「家という切り口から日本の産業の未来を描こう」という原 研哉氏の呼びかけで始まったプロジェクト「HOUSE VISION」。その成果を発表する展覧会「HOUSE VISION 2016 TOKYO EXHIBITION」が、ゆりかもめ「青海」駅前の特設会場で開催されている。
▲ HOUSE VISIONの会場
3年ぶり2回目となる本展のテーマは「CO-DIVIDUAL 分かれてつながる/離れてあつまる」。個に分断された人々や都市、地域、文化などをどのように再集合させるか。多分野の企業や建築家、クリエイターたちが、研究会やシンポジウムを通じて約1年半にわたって議論を重ねた。会場では、その成果として12の提案(原寸大の家)を展示している。
今回注目したいキーワードの1つは「ツーリズム」だ。
「暮らすように旅をしよう。」をコンセプトに、いわゆる「民泊」の世界的な市場を生み出した米国・Airbnb(エアビーアンドビー)は、建築家の長谷川 豪氏とともに「吉野杉の家」をつくった。奈良県吉野町の杉と檜を用いた家は、1階が地域の人に開放されるコミュニティスペース、2階はゲストが宿泊できる空間だ。彼らが提案するのは、「コミュニティがホストとなることで旅行者がより深く地域と付き合う」こと。世界の旅行者人口が約12億人とも言われるノマド時代を見据えた、新たなツーリズムの提案と言えるだろう。会期終了後は吉野町に運ばれたうえでAirbnbに登録され、実際に宿泊できるようになる。
▲「吉野杉の家」(Airbnb ☓ 長谷川 豪)
▲「吉野杉の家」の2階はゲストが宿泊できる空間。布団が敷かれているのは、東に向いた日の出の部屋
また、無印良品とアトリエ・ワンによる「棚田オフィス」も実際の設置を想定したプロジェクト。現在、無印良品では千葉県鴨川市の集落と交流し、田植えや稲刈りの手伝いをしている。そこに今後「棚田オフィス」という拠点を設けることで、都市と農村の二拠点居住を構想しているという。パソコンさえあればどこにいても仕事のできる人たちが、収穫を手伝いながら眺めのいいオフィスで仕事もできるというライフスタイルが実現する。会期終了後は移築され、良品計画のサテライトオフィスとして社員が活用するそうだ。
▲「棚田オフィス」(無印良品 ☓ アトリエ・ワン)
▲「棚田オフィス」2階のオフィス空間からの眺め。跳ね上げ戸によって風がよく抜けて涼しい。備蓄用の種蔵(たねぐら)や岡山市の流店(りゅうてん)といった古来の建物をモデルにしながら「無印良品の家」と同じSE構法で建てられた
今回、少子高齢化や地域の過疎化、災害といった問題、IoTなど複合的なテクノロジーの活用といった現代の私たちの生活を取り巻くさまざまな状況について議論し、リアリティのある提案に結びつけたプロジェクトが印象に残った。
初参加のヤマトホールディングスと、プロダクトデザイナーの柴田文江氏による「冷蔵庫が外から開く家」には、家の外からも内からも扉が開く荷物ボックスが設置されている。日本の高度な物流システムとセキュリティサービスを前提とし、宅配便だけでなく日々の食材や薬、クリーニングといった暮らしのあらゆるものが「もう1つのドア」を介して流通する未来をイメージしている。
▲「冷蔵庫が外から開く家」(ヤマトホールディングス ☓ 柴田文江)
ほかにも、最前線で活躍する建築家たちが企業と組み、さまざまな家のあり方を提案する。
▲「凝縮と開放の家」(LIXIL ☓ 坂 茂)
LIXILは、水回りや照明などをひとまとめにして家のどこにでも配置できるユニットや、大きなガラス窓を跳ね上げたりスライドして収納できる機構を開発。なんとバスタブも壁に立ち上がるようにして収納する。坂氏による強度と軽さを備えた建築と組み合わせることで、設計の自由度が高く開放的な家を提案
▲「賃貸空間タワー」(大東建託 ☓ 藤本壮介)
「シェア・ハウス」の考え方を発展させ、プライベートと共有部分をより明確に切り分けた新しい賃貸住宅の提案。プライベートは最小化され、共用部分の廊下や階段が居住者全員の庭のような空間に
▲「の家」(パナソニック ☓ 永山祐子)
センサーと通信機能を組み合わせたIoT(Internet of Things)が家に浸透した近未来を描く。来場者は、タブレットPCを手にIoTが実現するさまざまな家庭向けサービスのプレゼン映像を視聴する
▲「内と外の間/家具と部屋の間」(TOTO・YKK AP ☓ 五十嵐 淳・藤森泰司)
「窓を壁の開口部と考えるのをやめ、新しい機能を与える」という五十嵐氏の発想から始まったプロジェクト。放射状に配置された厚みのある「窓」に、食べる、くつろぐ、眠るといった、それぞれの生活空間をつくり出した。実際に「窓」の中に佇むと、開口部につながる開放感や、従来にはない内と外のつながりを感じるはずだ
HOUSE VISIONでは家を切り口としながら、ご覧の通りハード(容れ物)としての家というよりは、家電や流通、エネルギーなどあらゆる要素がソフトとして関わっていることが強調されている。家の概念はますます拡張し、地域コミュニティやツーリズムといった領域にまで踏み込もうとしているのだ。ここにある原寸大の家を眺め、身を置いてみることで、日本の現状や企業の問題意識を体感することができ、少し先の未来も見えてくる。(文・写真/今村玲子)
HOUSE VISION 2016 TOKYO EXHIBITION
会 期 2016年7月30日(土)〜8月28日(日)
11:00〜20:00 最終入場受付19:30
会 場 臨海副都心J地区
ゆりかもめ「青海」駅前
りんかい線「東京テレポート」徒歩約7分
入場料 一般¥1,800(前売り¥1,500)、学生¥1,500(前売り¥1,300)、それぞれ3回券もあり
*会期中は参加企業や建築家らによるトークセッションを連日開催中。
今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。