楽しみながら理解する土木の世界、
「土木展」

21_21 DESIGN SIGHTで「土木展」が開催中だ。「土木」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。道路や鉄道、上下水道、災害への備えなど。本展は、私たちの日常生活を支えている土木の専門知識をできるだけわかりやすく、楽しく伝えることを目的とした展覧会である。

本展のディレクターを務める建築家の西村 浩さんは土木工学科出身、現在は駅舎や橋梁の設計、まちづくりにも関わっている土木の専門家だ。「私たちは土木の空間で生きていると言えるほど、暮らしのすべてに土木が関わっています。皆さんに認識されないことが土木の価値ではあるが、本展をきっかけにもっと身近に感じてもらいたい」と話す。

導入として、エントランスホールでは私たちが見慣れた都市風景のいったいどこに土木があるのかを知るため、ふたりの作家による緻密な俯瞰図を展示する。建築家の田中智之さんは新宿駅、渋谷駅、東京駅周辺の精細な解体図を描いた。きっかけは「1日数百万人をさばくメカニズムを知りたかった」から。これまで駅周辺の人の流れを可視化したデータはなかったそうだ。

▲「新宿駅解体」田中智之, 2005


続くメインギャラリーでは、土木の概念を「つなぐ、ほる、ためる、つむ」といった行為に分解し、それらを参加作家たちが自由に表現した。多くの作家は土木の専門家ではないものの、独自の解釈や表現でその世界観や雰囲気をわかりやすく伝えている。インタラクティブな作品が多く、大人も子どもも楽しめる内容だ。

▲ 土木の行為“つむ”「ライト・アーチ・ヴォリューム」
403architecture[dejiba], 2016
ビニールのピースを並べて壁に押し付け、持ち上げることでアーチ構造をつくってみる体験型の作品

▲ 土木の行為“まもる”「キミのためにボクがいる。」
WOW, 2016
消波ブロックや河川敷のコンクリートブロックが、私たちの生活と自然環境を災害から守っていることを伝える映像


会場で特に印象に残ったのが「土木愛」ともいうべき、土木およびそこに関わる人々に対する作家たちの熱いまなざしだ。例えば壁3面を使った迫力ある映像インスタレーション「土木オーケストラ」は、高度経済成長期以降の記録映像と、今の渋谷駅の開発現場の音と映像をコラージュした作品。ラヴェル「ボレロ」が響き渡るなか、通常は仕切りの向こうにあって見ることのできない現場の人々のヒロイックな姿が映し出される。「たくさんの人が汗水を流し、土木の社会がどのようにつくられていったかを映像で伝えたかったのです」(西村さん)。

▲「土木オーケストラ」ドローイングアンドマニュアル, 2016

▲「土木の道具」
ワークビジョンズ/西村浩 林 隆青, 2016
西村さんらが全国から集めてきた農耕や炭鉱などの道具が展示されている。昔は土木用の道具などなく、既存のものを使って工事していたという


また土木写真家の西山芳一さんによる作品は、土木ならではの迫力を伝えている。西山さんは30年にわたって橋などの土木遺産やトンネルの工事現場を撮り続けてきた。今回は、土木のスケール感、美しさ、そしてかっこよさを表現する4点を選んだ。「タウシュベツ川橋梁」(北海道上土幌町)は西山さんにとって思い入れのある作品。ダム建設によって人工湖に沈んだアーチ橋は、水位によって全体が見られるときがあるという。「橋は水に浸かり風化して年々やせ細っているが、この橋を看取りたい」と西山さんは話す。

▲ 左の写真は「タウシュベツ川橋梁」西山芳一, 2002
手前は「渋谷駅(2013)構内模型」田村圭介+昭和女子大学環境デザイン学科 田村研究室, 2013


本展の企画協力として関わった建築家の内藤 廣さんは、「このように土木にはものすごいエネルギーとダイナミズム、先端な技術、そしてナイーブな世界が詰まっている。そんな世界をデザインの力を借りて楽しく理解してもらえたら」と話す。

この夏は、身近ながら未知だった土木の世界に踏み込んでみてはいかがだろうか。見慣れた景色の見え方が少し変わるかもしれない。(文・写真/今村玲子)


21_21 DESIGN SIGHT 企画展「土木展」

会期 2016年6月24日(金)〜9月25日(日)

会場 21_21 DESIGN SIGHT

詳細 http://www.2121designsight.jp/



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。