REPORT | サイエンス
2016.07.14 19:23
忍者の秘密を解き明かす体感型の展覧会「The NINJA -忍者ってナンジャ!?-」が日本科学未来館で開催中だ。一子相伝とされてきた忍者の秘術や「心・技・体」を忍術書や科学的アプローチを手がかりに分析する内容で、これまでにない忍者展となっている。
小説や漫画、映画などを通じて日本だけでなく世界中の人々を魅了してきた忍者の世界。近年、空前の忍者ブームといわれる一方で、「実在した」ことを知らない人も少なからずいるようだ。本展では、一般的に親しまれているファンタジーとしての忍者ではなく、全国各地で活躍した実際の忍者の姿に迫っている。
監修は忍者研究者であり、国立三重大学人文学部の山田雄司教授。同大学では2012年から本格的な忍者研究をスタートさせており、歴史、文学、医学、薬学、体育学、食品科学といった多分野のプロが集まり、実態解明に取り組んでいる。
▲ 1676年に伊賀忍者とされる藤林長門守(ふじばやし ながとのかみ)の子孫、藤林左武次保武(さむじやすたけ)が記した忍術書『万川集海(まんせんしゅうかい)』の写本(伊賀流忍者博物館蔵)
会場は「忍者道場」という設えのもと、来場者自身が「修行者」として忍者の知識や知恵を学びながら、訓練に挑戦するという趣向だ。
▲ エントランスの映像で呼吸法を学ぶ
「心・技・体」のエリアに分かれた最初の「体」では、忍者の動きや走り方、知覚に迫る。忍者の動きの三原則と呼ばれる「抜き動作」(無駄な力を省いて運動効率を高める)、「井桁動作」(複数の関節を連動させ素早く動く)、「気合」(叫んで気合を入れると通常より強い力が発揮される)、「なんば歩き」(左右交互に2つの軸を取りながら前に進む)という長距離の歩行技術などを紹介。パネルの解説にしがたって実際にやってみると、これがなかなか難しい。生まれつき超人ではない人間が日々の訓練とこうした伝承技術の習得によって「忍者」となっていったプロセスが体感できるような気がする。
▲「体」エリアでは忍者のさまざまな運動能力を紹介
▲ 忍者は状況把握のために五感を鍛えており、例えばロウソクの炎を見て視力を養い、集中力を高めた
続く「技」エリアでは忍者が使用していたとされる武器や道具の展示、また自然のなかで生き延びるための知恵や味方同士の情報伝達術などを紹介。最後の「心」エリアでは、印を結ぶことによって得られる精神のコントロール術、忍者の「心・技・体」を通じて最も重要な呼吸法などを明らかにする。印を結んだり、呼吸を整えるといったことならすぐにも実践できそうだ。
▲ 忍者が使っていたとされる道具や武器も展示されている
▲「心」のコーナーでは滝に打たれて修行するインタラクティブな仕掛けも
各エリアには手裏剣打ちや跳躍コーナーなど、子どもが体験して楽しめるアトラクションが用意されている。もちろんすべての展示には『万川集海』など忍術書の史料研究と、スポーツ科学の実験結果などからの科学的な解説や根拠が添えられ、子どもも大人も忍者の秘密を楽しく学ぶことができるだろう。
▲ 子どもが喜ぶ手裏剣打ちのコーナー
▲ ひまわりを跳び越えて跳躍力を高めるコーナー
「訓練」を終える頃には、当初抱いていた憧れや神秘の対象としての忍者のイメージが少し変わっているかもしれない。戦国の時代に生まれ、主君に仕えて働きながら生き抜くために自らさまざまな術を総合的に身につけた人、それが忍者の姿だ。その技や精神は、私たちが現代を力強く生きるためのヒントにもなるのではないだろうか。(文・写真/今村玲子)
企画展「The NINJA -忍者ってナンジャ!?-」
会期 2016年7月2日(土)〜10月10日(月祝)
会場 日本科学未来館
今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。