医療法人社団アドベント 鼻のクリニック東京(東京・京橋)は、主に慢性鼻炎、慢性副鼻腔炎など鼻に特化した全身麻酔下日帰り手術を行う施設である。身体への負担の少ない手術方法により、小児でも安全に日帰り手術が行える施設として連日多くの患者が訪れている。同クリニックが施設を拡張リニューアルしたのが2014年7月のこと。近未来をイメージした空間に合わせ、施設内のサイン計画にはAXISフォントが採用された。同クリニックのコーディネーター、梁 順喜(やん・すに)さんと、サイン計画を担当したアートディレクター/グラフィックデザイナー、高野美緒子さん、インテリアデザインを担当した空間デザイナー、朱 宇煥(しゅ・うかん)さんに話を聞いた。
子供に優しい空間に
鼻のクリニック東京は2014年7月にこれまでの1フロアから3フロアに拡張して大規模なリニューアルを完了しました。プロジェクトのいきさつを教えていただけますか。
梁 順喜さん もともと浜松を拠点とする耳鼻咽喉科の専門病院が08年に東京に分院を設立し、そこから11年に現在の場所に移りました。当時はワンフロアだったため待合スペースにゆとりがなく、快適な環境ではなかったことから、黄川田 徹院長(理事長)が「もう少し明るい気持ちになるような病院にできないだろうか」と考えたのがリニューアル計画のはじまりです。院長が開発した画期的な手術システムや治療のコンセプトに見合った先進的な空間にしたい、という想いもあったようです。
空間デザインを担当した朱 宇煥さん。
設計に際し、院長からはどのような要望があったのでしょう。
朱 宇煥さん 院長の第一声は「子供に優しい空間にしたい」でした。それから1年以上にわたって綿密な打ち合わせを重ねていきましたが、最も苦労したのが動線のプランニングです。それまで1フロアで完結していた院内のオペレーションを3フロアに展開するとどうなるのか。ベッド数が変わればスタッフや患者の動きも変わるため、それらを丁寧に検証して設計へ落とし込むのに大変時間がかかりました。
ちょうどその頃、同じビルの階下(3、4階)が空くことになり、手狭になっていたスペースを広げ、さらに子供向けの診察室と待合室を新設するというアイデアにもチャレンジすることになりました。
インテリアについては「先進的でありながらリラックスできる空間」であることが求められ、両者のバランスをとるのがひじょうに難しかったですね。先進性や近未来感を押し出しすぎれば緊張感につながってしまう。そこでクリニック全体を1つの「宇宙船」と見立て、それぞれのエリアにテーマ性を与えることにしました。例えば、受付は「宇宙船のラウンジで地球の自然を懐かしむ場所」、診察室に続く通路は「宇宙船の表面が見えて旅立ちへの期待感が高まる場所」といったストーリーを設けたのです。
3階の受付から各診察室へと続く通路はまさに宇宙船のイメージ。
3階の奥には子供たちのための遊び場のような待合スペースが広がっている。樹木に鳥の巣があるイメージでつくられた家具はほぼすべてオリジナル。
4階の手術フロアには曲面の青いガラス壁が連なる。
5階の待合スペースは「惑星に着陸したイメージ」。壁には月面をイメージする特殊塗装が施されている。
空間を活かすサイン計画とは
一方、グラフィックデザイナーの高野さんはどのタイミングからリニューアルプロジェクトに参加したのですか。
高野美緒子さん 私がサイン計画を担当することになったのは竣工の約半年前です。以前から同クリニックの封筒や名刺、院内で配布する冊子「はなのたより」などのデザインを手がけていました。これまで小さな診療室のサインをデザインしたことはありましたが、ここまで規模が大きく、きちんとシステムを考えなければいけないプロジェクトははじめてでした。
学生の頃から『AXIS』を愛読していたという高野さん。「AXISフォントは和文、英文ともにグレートーンが揃って品があり、先進性を感じる書体」と話してくれた。
サイン計画の書体選びについてはどのようなことを意識されたのでしょう。
高野 院長と朱さんが大切につくってきた宇宙船のような空間を生かすサインにしたかったので、なるべくシンプルなものがよいと考えました。通常の総合病院ですと看板や受付の文字は大きく、科ごとにはっきり色分けもされています。でもこのクリニックは専門病院であるうえ、患者がひとりで動くことはほとんどありません。受付を済ませた後もスタッフが患者の前に立ってきちんとナビゲーションしてくれます。ホスピタリティのある空間なので、大きくて目立つサインでなくてもよいのです。
もう1つは、ロゴマークとのバランスですね。グッドデザインカンパニーの水野 学さんがデザインしたクリニックのロゴは細めのゴシック系ですっきりとしています。ゴシック系でウェイト(文字の細さ・太さ)のバリエーションがあるもの、かつそこに優しさや誠実さ、気持ちを支えてくれるような要素がある書体を考え、たどりついたのがAXISフォントでした。
壁にシルク印刷されたサイン。ウェイトはライト、エクストラライトを使い分け、色は光沢感のあるシルバーを使うなど、近未来的なインテリアに合わせている。
英文フォントとの組み合わせ
サインの和文にはAXISフォントを採用し、英数字にはフーツラ(Futura)とアべニール(Avenir)を使っています。この組み合わせの理由は。
高野 クリニックの名刺は和文、英文ともAXISフォントで揃えていますが、サイン計画の場合はきれいに揃えることよりも、空間とグラフィックのバランスを重視しました。個人的な感覚なのですがフーツラもアベニールも「未来」という意味があり、AXISフォントの先進性や未来的なイメージにも合ってしっくりきたのです。見やすさと美しさを備えているところがAXISフォントと似ていて相性が良いと思いました。
苦労した点はありましたか。
高野 クリニックのサイン計画では、内装のマテリアルに応じてさまざまな加工を施しているのです。壁には直接シルク印刷でプリントし、ドアにはカッティングシートで切り抜き、ガラス壁にはフロス加工で文字を表示し、休憩室のカーテン生地には部屋番号を刺繍するなど。土台となるマテリアルとの組み合わせによって文字の見え方も変わるため、何度も実物のサンプルを用意してフォントサイズや太さを調整するなど、試行錯誤を重ねました。
今回完成したサイン計画の感想をお願いします。
朱 空間のプランニングをしながら頭のなかでなんとなくイメージするサインがあったのですが、高野さんからの提案を見たときにまさに自分がやりたいものだったので嬉しかったです。クライアントである院長も快諾し、サイン計画についてはほとんど修正が入らずに無事進行することができました。サイン計画も含め、全体的にとても幸せなプロジェクトでしたよ。
高野 今回に関しては文字があまり目立つのではなく、空間に溶け込むようなサインを追求しました。専門の病院であることと、スタッフによるナビゲーションが確立されているからこそ可能なサイン計画だと思います。
ありがとうございました。
先進的な専門クリニックであることに加え、スタッフのホスピタリティや高度なオペレーションを前提とした空間づくりとサイン計画の融合に、内外からの評価も高いようだ。文字を目立たせて情報を押しつけることなく、必要に応じて患者をサポートし、かつその心を軽くさせるもの。環境に応じたフォントの役割について参考になる事例ではないだろうか。
鼻のクリニック東京/1991年静岡県浜松市において全身麻酔での耳鼻科手術を1~2泊の入院のなかで行う短期入院手術施設として「浜松耳鼻咽喉科サージセンター」を開設。2008年には慢性鼻炎や慢性副鼻腔炎など鼻に特化した日帰り手術施設として「サージクリニック東京」を設立し、2012年「鼻のクリニック東京」に名称を変更。内視鏡を使った革新的な手術システムを開発し、これまで患者が強いられてきた負担を大幅に軽減。全国から数多くの患者が来院している。
http://nose-clinic.jp
朱 宇煥/2005年台湾中原大学デザイン学部建築デザイン学科卒業。10年前田慶史建築士事務所(日本) 、11年 アシハラヒロコデザイン事務所(日本)、12年MS Partnerに入社、現在に至る。 http://www.ms-partners.co.jp
高野美緒子/1979年東京生まれ、静岡育ち。 2002年 武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。 株式会社日本デザインセンターを経て、2009年に渡仏。 現在はフリーランスとして東京を拠点に活動中。
AXISフォントは和文フォントとしてはじめて、EL(エキストラライト)、UL(ウルトラライト)、というウェイト(文字の細さ)を展開しました。ウエィトの充実化とともに、視認性が高くクセがない、明快でスマートな表現を可能にします。
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