第6回 家具と部屋の関係を入れ替える、ロバート・ブランワザーとグエナエル・二コラ

家の中における部屋の役割が限定されなくなり、ダイニングやリビングで仕事をすることに違和感のない現代。デザインウィークの展示の中には、部屋の捉え方を見直す今らしい発想も見られた。

▲ ロバート・ブランワザー氏によるリビング。ノックダウン式で支持体となるメタルレールにPalau社のクッションソファを取り付けていくことで、ソファの大きさを調整できる。サイドデスクや引き出しをはめ込むことも可能。フロアランプはランプシェードの下にフックが取り付けられ、ハンガーにもなる。ソフトファブリックで包んで“家具”になった「Homedia」というテレビのコンセプトモデルも展示された。Photo by Stefano Tripodi


オランダのデザイナー、ロバート・ブランワザー氏は、家具と部屋のつくりを反転させたようなアイデアを提案した。一般的には、家の中にダイニングやリビングといった間取りを決めて、その後に家具を入れていくものだが、彼の考え方は逆。人が集う、寝る、食べる、風呂に入る、といった日々の営みを起点に、まず最低限の家具から要素をどんどん足して空間を広げていき、それぞれの行為の周辺に必要とあらばポータブルな間仕切りで壁をつくるというアプローチだ。

例えば、人が集まる居間は、もはや座って会話をしたり、テレビを見るという行為だけではなく、ラップトップを前に仕事をする場にもなる。こうした暮らしにあわせて、ブランワザー氏はソファを中心に必要に応じて機能を足していった。

▲ 入浴のシーン。オランダのクレオパトラ社のバスシステム「Wellpool」をバスタブにし、向きを変えられるシャワーやシンクを装着。日本ならば、入浴中に本を読んだり、ラジオを聴いたりするためのサイドテーブルなどが加わるのかもしれない。Photo by Stefano Tripodi


ベッドも、同じように寝るためだけの場所ではなくなっている。本を読んだり、DVDを観たり、音楽を聴いたりすることができるように、ベッドマットに背もたれ、サイドテーブル、照明を装着。それは大きなソファと言えるかもしれないし、リビングと捉えることも可能な機能だ。

家族の数が増えるにしたがって、家を増築していくイメージに近い提案かもしれない。

▲ ベッドマットに見える間仕切り「Pillow Space」は吸音機能を備え、壁がなくても周囲の音が気にならないオランダのカスカンド社の製品。張地を変えることで寝室やリビング、オフィスなど、空間に合わせた間仕切りとなる。Photo by Stefano Tripodi


またグエナエル・二コラ氏は、これからの家具と部屋の関係を探り、それを独自の洗練された手法で見せた。

会場は、19世紀建造の邸宅を利用したバガッティ・ヴァルセッキ・ミュージアム。個展タイトルは「モンド・パラレル」である。ネオルネッサンス様式の室内には、幅約60cm、高さ3m近いパネルが直立。空間に足を踏み入れた来場者が、壮麗な室内と何ら違和感なく立つパネルボードの間を歩きながら、どこが展示会場なのだろうか、と辺りを見渡す光景が見られた。

しかし、パネルボードを手動で水平にすると、ソファやコンソールテーブルに変わる仕掛けで、機能のなかった空間が舞台装置のようにリビングに変換した。隣の部屋でも同じように、重厚な空間の中にオークの無垢板が向かい合うように直立。それを横にするとオーク材のダイニングテーブル、ベンチに変わり、ダイニングルームが立ち現れた。

▲ リビング空間になる前のしつらえと、長さ3mほどのパネルを横に倒すことでソファになる仕掛け。クッション材はポリウレタン樹脂とリキッドメタルの混合材で強度を保持。ソファの張地には、和紙に金箔や銀箔を施して裁断した糸を織り込んだ細尾の西陣織が用いられ、薄暗い照明の下で輝くさまはネオルネサンス様式の邸宅にひじょうに合っていた。


二コラ氏のデザインは、使っていないときの家具を部屋に収納するのではなく、照明をオン・オフにするように、家具の存在だけをオフにしたもの。構造的には列車の混雑時などに壁に折り畳むことのできる座席と似ているのだろうが、家具の存在を消したとき、そして家具が存在するときの佇まいをこれほど完璧にまとめ上げるのは簡単ではない。

家具を消すことが可能になると、同じ部屋でも概念上は2倍、3倍の広さに匹敵するに違いない。家具を再定義する姿勢は、デザイナーの間でこれからも増えていく気がする。(文/長谷川香苗)

▲ ダイニング空間になる前のしつらえと、3mのオーク材3枚を横に倒すことでダイニングテーブル、ベンチが現れ、ダイニングになった空間。リテール空間の什器を手かがける施工会社が製作したヒンジは目視できないほどに隠れ、いずれのパネル板も手動で力を入れることなくスムーズに水平に倒すことができる。