INTERVIEW | インテリア
2016.05.10 14:05
2016年4月に開催されたミラノデザインウィーク。市街地のスーパースタジオ・ピウに現れたのは、3Mイタリアのデザイン部門と建築家のステファノ・ボエリがコラボレーションして制作した「アーバン・ツリー・ラウンジ」だ。
毎年、ミラノデザインウィークを視察しているスリーエム ジャパンの黒崎真由デザイナーに、
ダイノックフィルム(http://www.mmm.co.jp/cmd/dinoc/)のデザイン開発について聞いた。
▲ スリーエム ジャパン コーポレートデザイン部 デザイナー 黒崎真由氏
ーーミラノではどういった視察をしているのでしょう。
家具メーカーやデザイン業界のトレンドリサーチです。主には、その年のデザイントレンドの確認と自分たちが立てた将来のトレンド予測の検証ですね。使用される素材のほか、繊細な仕上げの違いなど、なるべく細やかな部分に注目します。
また、過去に予測し定めたコンセプトや柄が実際合っていたかの検証も行います。2014年に「メタリック・クロスヘアライン」を開発したのは、金属の表面に、より意匠性が求められるという当時の予測からでした。ゴールドを使った表現が2014年のミラノで爆発的に見られたのですが、そこから一歩進んでゴールドが単なる素材だけではない用いられ方になると考えました。現在ではそういった仕上げを行った表現が市場に定着しています。
新しい柄の開発の際には、毎年移り変わっていくトレンドを定点観測するため「マスターセグメント」という基軸を作成しています。縦軸と横軸でセグメントをマップ化して、そのトレンドがどの位置にあるのか設定する指標です。
▲ マスターセグメントへの落とし込みは、個人の感覚的な形容詞だけのやり取りに陥らないよう、視察の結果を客観的に共有できるデータに変換する
例えば、ある空間属性の横軸には、「クラシカル」な要素の反対側に「プレイフル」を置いています。縦軸には「エレガント」から「カジュアル」。そこに今年の事例をプロットしていき、昨年と比べて今年はどうだったかを検証したり、グローバルとローカルの両視点から今後のトレンドの予測や、開発の方向性を定めたりしています。
これらは膨大な情報量なので、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)ごとにまとめ上げ、グローバルで共有するコンセプトにします。
ーー展示会以外でもトレンドリサーチは行っていますか?
デザイントレンドはグローバルなチームで連携して設定しますが、日本のデザインチーム単体では、国内で施工された最新のオフィスビルや商業施設とホテルといったリテール系に分けて視察しています。
木目はダイノックフィルムにおける大事な要素なので、CMFに加えて「ウッド」の項目を独立させて見ていきます。
▲ 抽出した素材や質感表現を既存のラインアップと比較。対応できている範囲と足りない範囲、それぞれを明確にする
視察した情報を物件毎に羅列し、CMF+ウッドに分類しながら整理していきます。さらにそれをマッピングします。そこからわかりやすくスタイルコンセプトに展開させていきます。
▲ ダイノックフィルムの新柄と建材を集め、これらの要素をどう空間の中に落とし込んでいくかを提案する「マテリアルボード」と呼ばれる提案資料
ーーダイノックフィルムでは、特殊印刷、光学技術、金属表現、エンボス加工といった技術で、2次元上における奥行きの深さや独特の質感を追求していますが、その背景には綿密なデザインリサーチがあったのですね。
新しい157の柄はその結果として生まれました。それらを5つのデザインコンセプト(インダストリアル・ホワイト、アクア・イーズ、メロー・リッチ、スポーツ・シック、グランド)に分類しています。
ーー見る角度や光の加減で色味が変化する「エフェクト」や、ゴールド・プラチナ・カッパーの「箔」といった新柄は、使用シーンのイメージが広がります。
人気が出そうな柄は、グローバルでトレンドになっている「和」のイメージを表現できるデザインです。私たち日本人にとっては当たり前のコンセプトに感じられますが、それを成立させる要素について、グローバルなチームで分析を試みました。
純日本的な思想である「侘び寂び(わびさび)」から始まり、クラフトマンシップ、ミニマリズム、オリエンタル、ハイブリッドという具合に「和」の適用範囲をグローバルに広げ、世界で通用する「和」の中性的な表現を追求したのです。
▲ 見る角度や光の加減で色調が変化する「エフェクト」(上)と、「箔」(下)
ーー今後、ダイノックフィルムで挑戦してみたいデザインや柄は?
天然木など素材の代替としての使われ方をより普及させたいですが、ダイノックフィルムでしかできない表現が生まれて、1つの部材として選ばれるようになってほしいです。
代表的なのは「焼杉」です。杉板を炭化させて、耐火性や耐光性、耐久性を上げた日本古来の建築部材ですね。製作には火を使うし、コストもかかる。完成後は触ると汚れてしまうから、内壁に使うのは難しい素材でした。その柄や質感を、エンボス加工や印刷などの微妙なバランスでフィルムに再現できました。
▲「ダイノックフィルム FW-1757:焼杉」では、炭化状の色や風化した素材感をそのままに、インテリア空間に和のテイストを取り入れられる
ーー手で触れるとわかりますが、見た目だけでなく、質感まで立体的な再現を試みているんですね。
どんどん技術も進化して、これまで難しかった布地に見えるようなフィルムもつくれるようになりました。ダイノックフィルムの多様さや表現力がマーケットに浸透して、最初に選んでもらえる素材になるのが私たちの夢なのです。(文/神吉弘邦) 完
ーー前編は、こちらをご覧ください。