REPORT | ファッション
2016.03.28 19:35
ファッションと写真の関係性を探る展覧会が、東京・銀座のシャネル・ネクサスホールで開催中だ。コンデナスト社の雑誌に掲載された写真のオリジナルプリント、ならびにVogue誌の表紙など約100年に及ぶコンデナスト社のアーカイヴの中から写真史の専門家 ナタリー・ヘルシュドルファー氏が選んだ約80点で構成される。
1909年、Vogue誌を買収したコンデ・ナスト氏は、出版社コンデナストを創業、出版人としてのスタートを切った。実業家であった彼は、雑誌がビジネスとして成り立つためには表紙のヴィジュアルが重要と考えたが、それはまだファッションモデルという職業も存在しなかった時代。そこでナスト氏はファッションを魅力的に伝え、人々の目を引き付けるために、当時、ファッションの挿絵で売れっ子だったフランスのイラストレーター、ジョルジュ・ルパープに表紙画を依頼したという。
▲ 上段、1920年代初期のイラストによる表紙が並ぶ
今、ファッションは写真メディアを通して伝えられるのが一般的だが、イーストマン・コダック社が現像によるカラーフィルムを発売したのが1936年。当時は、モノクロ写真よりもカラフルな色彩を表現できるイラストレーションのほうが、ファッションを伝える手段として有効だった。
ほどなくして、モデルを起用した写真が表紙を飾る。ナスト氏が、イラストで描かれた女性像よりも、生きた女性が衣服を着た姿にこそ、女性たちは自分の理想像を見出すことができるだろうと考えたからだ。ファッションモデルという職業が確立していなかった時代、スカウトされたのはブロードウェイの役者たちだったという。スタイルもよく、カメラマンの要望に応じてポーズを取り、強烈な照明の下でも臆することなく振る舞うことができる役者たちは、ファッションを魅力的に見せるうえでうってつけの存在だった。
表紙で目を引いたのは、写真家ジョン・ローリングスによる1943年のVogue。サスペンス映画のようにただならぬ雰囲気が漂うなか、手紙に目を通す女性。キャッチコピーは「Take a Job! Release a Man to Fight!」とある。いろいろな意味がはらんでいると思うけれど、あえて訳すと「女性よ、職に就いて、男子を戦地へと行かせよう」。一方で、戦後1949年の表紙はエレガンスが匂いたつような写真だ。米国が世界一の大国となった時代が伝わってくる。
▲ 右上2つ目が1943年、その下は1949年の表紙
▲ ノーマン・パーキンソンによる「Glamour」1949年10月号誌面用写真
戦後から1950年代にかけてのファッション写真はスタジオセットではなく、街を闊歩し、仕事に向かう様をイメージさせる女性の姿が多く見られる。そこからファッション写真が、世の女性たちの行動の手本となるイメージメーカーだったことが伝わってくる。現代では、誰もが瞬時にinstagramでスタイリングを投稿でき、パリコレのランウェイが同時配信されるが、20年ほど前までは、最新のファッションをどのように着るのか、テキスタイルの素材は何か、ファッション写真が唯一のメディアだったのだろう。
展覧会を観るうえで、空間の演出が利いている。タイムトンネルをくぐるようにコンデナスト社の100年を辿る構成は、グラフィックデザイナーのおおうちおさむ氏によるもの。シャネル・ネクサスホールは、広さ約180㎡と展示空間としては決して広くはない。そこに80枚の写真を展示し、一定の距離を持たせて鑑賞できるようにするため、長方形の空間に展示壁をジグザグ状に配置して、約120mの壁面長をつくり出した。
▲ おおうちおさむ氏は時代の変遷を色彩のグラデーションを通して表現
写真は1910年代から時系列で展示されているが、空間は薄紫、薄緑、こげ茶と古い時代から現代に近づくにつれて色濃くなっていく。淡い記憶から鮮烈な記憶へと誘われるような感じがした。(文/長谷川香苗)
「Coming into Fashion コンデナスト社のファッション写真でみる100年」
会 期 2016年3月18日(金)〜4月10日(日)12:00~20:00
無休、入場無料
会 場 シャネル・ネクサスホール
http://www.chanel-ginza.com/access/
詳 細 http://www.chanel-ginza.com/nexushall/2016/cif/
*その後、KYOTOGRAPHIE京都国際写真際2016に巡回予定。
会 期 4月23日(土)~5月22日(日)9:00~17:00
月曜休館、入場無料
会 場 京都市美術館別館(京都市左京区岡崎最勝寺町13)