今話題の“カツ横流し”事件って何?

今回は、今話題の“カツ横流し”事件についてです。

カツの横流しは、廃棄物処理法違反で捜査されています。そして、ナカダイが運営するモノ:ファクトリーでは、廃棄物を素材として販売しています。しかし、横流しでもなければ、廃棄物処理法違反でもありません。賞味期限切れのカツを横流しするなんて‼という感情論ではなく、法律的に何が違反なのかのを理解したいと思います。そして、私が思う業界の姿を提案したいと思います。

一部、説明を簡潔にするために、厳密には法解釈と若干違う部分があることをご理解いただいたうえで、お読みいただけると幸いです。詳しく知りたい方はぜひ、お問い合わせください。

廃棄物を扱うには、廃棄物の処理および清掃に関する法律、つまり廃棄物処理法に従わなければなりません。クルマを運転するのに、道路交通法が存在するのと同じです。そして、廃棄物処理法では、企業の廃棄物はそれを出す企業自身が、個人の廃棄物は自治体が責任を持って処理しなければならないとされています。

今回は、企業に絞って書きます。企業の廃棄物は企業自身が責任を持って処分しなくてはならない、つまり、今回名前の出ている企業は、そもそも自分たちで処理をしなくてはいけないのが法律の基本前提。廃棄物を出す企業自身で!です。ほかの会社に任せてはいけないのです。しかし、各企業が、自社の分だけの廃棄物を飼料化したり、チップ化、燃料化したりする施設をそれぞれで整備するのは現実的ではありません。大量に廃棄物が出る場合は良いかもしれませんが、少量の場合は非効率でもあり、管理も大変です。

ということで、廃棄物処理法では、もし自社でできない場合は、許可を持った業者にお願いしてもいいですよ、ただし、適正に処理されたかは必ず自分たちの責任で確認をしなさい、と規定されています。現実では、この部分を利用して、ほとんどの産業廃棄物は廃棄物業者に委託されます。

今回の事件を考える際、廃棄物処理法上、ここが出発点です。本来は、自社で処理しなくてはいけないものを、自社の責任で業者に委託することと法律では決められているものの、現実的に責任とれと言われても、きちんと処理されたかはどうやって確認するのか?

廃棄物を産廃業者に委託する際に、必ず、一緒に発行しなければいけないマニフェスト伝票です。7枚つづりの伝票で、企業の廃棄物を、いつ、だれが、どこに運んで、どういう処理をして、最後どうなったか、すべて記載しなくてはならない伝票です。運びました、処理しましたなど、廃棄物が動くたびに、1枚ずつ、伝票を切って、郵送で返却しなくてはならない仕組みで、排出した企業は、この伝票を見れば、廃棄物の動きが手に取るようにわかるようになっています。そして、最終処理が完了されたら、7枚つづりの最後の伝票が郵送されてくるので、適正に完了したというのも確認できます。

今回の事件の場合でも、この伝票の処理の欄におそらく“飼料化”または、“破砕”など、飼料にするための“処理の行為”が書かれていたはずです。まさか、“他社に売却”など書くはずもありません。まずここで、廃棄物処理法上のマニフェスト伝票虚偽記載が疑われます。

もう1つ、伝票の中段に、「委託契約書通り」という表記があります。廃棄物を誰かに委託する場合、委託契約書というものを結ばなくてはなりません。たくさんの項目が書かれている契約書ですが、「御社の廃棄物は、この産廃業者が、ここに運んで、こういう処理をいくらでします」と記載されています。なので、ここに書かれている業者以外が運んだり、別の処理をしたりすると、これも廃棄物処理法上の委託契約書違反です。

間違いなく、転売(横流し)することを前提とした委託契約書は結ばれていないし、転売先の業者名も書かれていないはず。廃棄物を委託する際の約束した業者以外を使い、それを隠すために伝票に嘘を書いた、という廃棄物処理法違反です。

契約書をしっかり結び、マニフェスト伝票をしっかり確認していれば、結果的には、不正はできない仕組みになっています。しかし、“仕組み”というのは、定常では機能しますが、故意に、または悪意を持って、運用された場合、その不正を未然に発見することは難しく、不正が発覚するときは、今回のように、取り返しがつかないような騒ぎになってしまうことが多いのです。

建築の構造計算の不正の場合も、マンションの手すりがずれているのに気づいてはじめて発覚したのと同じで、結果が出てから表面化するのが普通です。

話はそれますが。モノ:ファクトリーの新設の棚です。贅沢に、ヒノキの棒でつくりました。ヒノキの部は、都内の美術館の企画展で使用されたものを使っています。そこには、たくさんのマテリアルがマテリアルライブラリーとして陳列され、販売されています。廃棄物を素材として利用すること、有価物化することは良いことです。しかし、それは廃棄する企業との合意があってこそです。企業の機密情報や特許技術などがあるかもしれません。それらを除去して、“仕組みをつくる技術”が必要だと思います。これは、技術改革とか先進的な技術でなくて、どちらかというと、運用技術です。

現在、廃棄物をどの業者に委託するかは廃棄する企業の担当者が決めています。しかし、先ほど書いたように、現在の廃棄物処理法の仕組みでは、企業の担当者レベルでチェック可能な運用はすべて法律で決められており、これ以上何もできないというところまで整備されています。だったら、書類ベースではなく、実態として、本当にその廃棄物業者は契約書に書かれている処理を行っている形跡があるか?

トラックの荷卸しや使っている容器、機械を見たときに、それだけの処理量をこなすことが可能か?などは、経験を積んだ専門家の目であれば見抜くことができるかもしれません。少なくとも、抑止効果はあります。

その専門家が完全に排出事業者としての立場であればなおさらです。廃棄物の処理を業者に委託するという関係ではなく、自社の廃棄物に関する運用を業者とともに行うという感覚が必要な時代になってきたと思います。そして、廃棄物業者自身も、廃棄物を委託される業者ではなく、企業と一緒に企業の廃棄物対策を行うパートナーであるべき。本気で企業の廃棄物を減らす提案ができるパートナーであるべきだと思います。

きれいなまとめっぽいですが、企業の廃棄物を減らすための、廃棄物の新しい使い方を創造する毎年恒例のイベント「第6回産廃サミット」の出展者の募集開始です。素材として使う人が増えれば、その事例が増えれば、企業は廃棄物として捨てる前に、素材としての有効利用を模索するようになるはずです。完成度を競うわけではありません。廃棄物を自分なりにどう変化させたかを表現する展覧会です。廃棄物として捨てない選択肢を模索する展覧会です。社会の仕組みとして運用されるよう、一緒に頑張りましょう! (文/株式会社ナカダイ 中台澄之)

この連載は株式会社ナカダイ常務取締役・中台澄之さんに産業廃棄物に関するさまざまな話題を提供していただきます。