REPORT | 見本市・展示会
2016.02.24 18:22
香港ビジネス・オブ・デザイン・ウィーク(BODW)では、香港をベースとするクリエイターたちの活動を目にする機会も多く用意されていた。その1つが香港の建築家、インテリアデザイナー、10組による「10CC 香港スピリット」と題した展示だ。香港とはどんな存在なのか、香港のデザイナーたちが自問し、家具を通して香港の姿を対外的に表現するという試みだった。
ロードアイランド・スクール・オブ・デザインとコロンビア大学建築学部で学んだ後、1986年に香港に戻った建築家のノーマン・チャンは、変わり続ける香港の暮らしを「FLUX(流動)」という家具で表現した。ウォールナットの無垢材で構成された家具は、直立する2枚の無垢材の間に、ほぞ接ぎで水平材が差し込まれている。椅子なのだろうか。スケールが大きくなれば建築物にもなる。人々が使い方を見つけて自分のものにしていく。そんな香港で暮らすうえでのしたたかさとしなやかな発想を表現したという。
ほぞ接ぎ、さね継ぎといった古くからの建築工法を用いた椅子「FLUX」。
ヴェニス建築ビエンナーレでの発表経験もある建築家のウィリアム・リンは、香港の街中で見かける手押しの台車から着想した家具「手押しカート」を発表。自転車さえも入り込めない入り組んだ小道の多い香港では、手押し台車は荷物を運ぶために欠かせない運搬ツール。街中では台車という用途を超えて、移動させてその場で店を広げる商いのためのワゴンとしても使われている。リンは台車のコンパクトで移動が自由、そして使い道が広いという特徴に目をつけ、香港の道と同じく狭い住宅の中で小回りの利く多機能収納ソファをデザインした。
ソファ、収納引き出し、作業台を一つにまとめた「手押しカート」。
飲茶文化を香港のアイコンとして選んだのは英国で、インテリアデザインを学び、香港デザインセンターのディレクターも務めたキニー・チャン。積み重ねられる蒸し器の形から、積み重ねられる座椅子、スツールのデザインを考えた。
点心がクッションになって座り心地も思いのほかよい。
「変わることのみが変わらないこと」と香港を表現するのはアジャックス・ローとバージニア・ラング。One Plus Partnershipを創設し、ドイツのiFやレッドドット、日本のグッドデザインなど世界中のデザイン賞を受賞している。そんな彼らは香港に暮らす人々の柔軟な心持ちを組み立てソファ「PLUS PLUS」で表現。三角ボードの辺同士をファスナーでつなぐことで自由な形をつくることが可能なキットだ。座る姿勢や座る場面に応じて三角ボードを加減するのだそうだ。
組み立てソファ「PLUS PLUS」。
建築は都市を映し出すものだということは理解していたけれど、家具にも都市の姿を見ることができるこの試みは新鮮で、さまざまなヒントに満ちた展示だった。(文・写真/長谷川香苗)
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