「空へ、海へ、彼方へ ── 旅するルイ・ヴィトン展」、パリで開催中

1854年の創業に始まるルイ・ヴィトンの歩みを、客船、自動車、飛行機という旅の移動手段の変遷とともに辿る展覧会「Volez, Voguez, Voyagez── Louis Vuitton(空へ、海へ、彼方へ──旅するルイ・ヴィトン)」がパリのグラン・パレで開かれている。

▲ © Grégoire VIEILLE / LOUIS VUITTON MALLETIER

▲ クラシカル・トランクの展示 © Grégoire VIEILLE / LOUIS VUITTON MALLETIER


展覧会は元パリ市立ガリエラ美術館モード&コスチューム博物館の館長、オリヴィエ・サイヤール氏のキュレーション、そして、ロバート・カーセン氏の展示デザインによる9章から成る。トランクをファッショナブルで自慢したい道具に変えたであろう1906年発表のアンティーク・トランクで展覧会は幕を開ける。

創業者のルイ・ヴィトンが16歳でパリにきた19世紀半ば、上流階級層の旅は今のように身軽なものではなく、旅先で待ち受ける不測の事態に備え、考え得るあらゆるものを持参しなければならなかった。加えて、1日のなかで何度も着替えるしきたりに対応するため、ボリュームのある衣服、コルセット、帽子、化粧品といった身支度に必要なものすべてを持ち運ぶことになり、自然と大きなトランクが求められたはずだ。

こうした荷物をコンパクトに収納するためにはプロの荷造り職人が存在し、ルイ・ヴィトンもそうした専門職人のひとりとしてキャリアをスタートさせている。荷造り用木箱の製造から荷物のパッキングまでを行い、自らの経験をもとにトランクにさまざまな改良を加えていったという。

▲ 家具職人のノウハウをつぎ込んで開発したトランク


例えば、19世紀半ばまで乗合馬車の荷台に括りつけられたトランクは、雨水が溜まらないようにアーチ形の蓋だったが、1858年に初めてルイ・ヴィトンは平らな方形の蓋を考案。これによってトランクを積み重ねて効率的に運ぶことが可能になった。

ほかにもトランクの角を衝撃から保護するための真鍮のコーナー金具、盗難防止のための錠前など、長い旅路で大切な荷物を保管するための合理的な工夫を随所に凝らした。また、衣服を湿気と害虫から護るため樟脳の木や紫檀の木を用いるなど、家具職人のノウハウをつぎ込んだトランクを生み出し、洗練させていった。

ルイ・ヴィトン社所蔵のアーカイブからトランクをつくるための木材や道具を展示するとともに、木を製材し、寸法を合わせ、組み立てる様子を捉えた写真といった資料を通して、ルイ・ヴィトンの原点がバッグブランドではなく指物屋にあることを伺わせる。

▲ ルイ・ヴィトン社の広告ポスター


ルイ・ヴィトンは、単にものを荷造りして運ぶための木箱製トランクではなく、家具としての機能を持ち合わせたものを考案し、手荷物の概念を大きく変えることになった。ワードローブトランク、ライブラリートランク、デスクトランクなど、旅先で広げればそのまま洋服ダンス、本棚、書斎になるトランクは、旅という非日常にあっても慣れ親しんだ環境にいたいという顧客の願いを実現させた。こうして従来の無骨な道具に、人に見せびらかしたいアイテムとしての価値を与えることになった。

さらに好評を得た結果、多く出回ることになってしまった模造品対策として、トランクの表面をモノグラムに代表される意匠で差別化し、錠前のデザインの特許を取得するなど、ビジネス戦略のうえでも手腕を発揮した。

▲ 錠前とデザインの特許申請書


ルイ・ヴィトン社のトランクが旅の道具となった時代は、ヨーロッパで交通革命が起こった時代。馬車から列車へ、クルマへという移動手段の変化は、トランクの形にも影響した。列車の路線や時刻に制約されることなく、行き先や目的により自由度が増すと、旅の持ち物も変わってくる。新興富裕層層は御者に手綱を委ねることなく、新しいマシンのハンドルを自ら握り、自由に行き先を決めたことだろう。道すがらでピクニックや狩りがしたいと、自分たちで創造した余暇に合わせてトランクを注文した。

▲ ベッドトランク

▲ スペアタイヤ用トランク

▲ 車のスペースを生かしたフットレストにもなるトランク


また、未だ見ぬ土地への探求心は、人を冒険へと駆り立てた。アンドレ・シトロエンは1924年、アフリカ大陸を探検することを目的に探検用自動車を開発。砂漠の過酷な気象条件に耐えるトランクを発注している。移動先が寝室になるノマドな暮らしをしたいという依頼から、折り畳むとトランクに収めることができるフォーダブルベッドなどが生まれた。こうした従来にない新たなトランクの形は、自ら旅を創造する人々によって誕生したのだ。(文/長谷川香苗)

▲ 長距離列車のキャビンに見立てた空間に20世紀初頭のキャビン・トランク、長旅のために動きやすく素材開発されたファッションを展示。ルイ・ヴィトンのアーカイブから厳選されたオブジェクトやドキュメントと並んでパリ市立ガリエラ美術館のモード&コスチューム博物館から貸与を受けたものも豊富に展示されている © Grégoire VIEILLE / LOUIS VUITTON MALLETIER


「Volez, Voguez, Voyagez── Louis Vuitton」

会 期 2015年12月4日〜2016年2月21日

会 場 GRAND PALAIS, Salon d’Honneur
    Champs-Elysées,Avenue du Général Eisenhower, Paris 8th

開館時間 月、木、日:10:00〜20:00 水、金、土:10:00〜22:00
     火曜休館

入場料 無料

詳 細 http://www.grandpalais.fr