かつて、日本の都市にあれだけ多く設置されていた公衆電話ボックスが、今ではほとんど見かけられなくなったことは、ある年代以上の人にとって隔世の感を抱かせる。
その理由は、言うまでもなく携帯電話やスマートフォンの普及によるものだが、その一方で、例えば外国人観光客が来日した際に自国のデバイスを簡単に使うことができず、Wi-Fiスポットを探し回るという状況も発生している。もちろん、それなりの知識があればローミングするなりSIMカードを買うなりと対処の方法はあるものの、できれば余計な出費をさけて無料で済ませたいというのが、一般的な旅行者の心情だろう。
米国の国債都市であるニューヨークでも、他の先進国と同様に公衆電話の撤去計画が進行中だが、大きく異なる点が1つある。それは、撤去される7,500カ所以上の公衆電話を、すべて超高速のWi-Fiステーションで置き換え、しかも、そのサービスをすべて無料で市民と旅行者に開放するのだ。
「リンクNYC」(http://www.link.nyc)と名付けられたこのプロジェクトでは、それらのWi-Fiステーションを「リンクキオスク」と呼び、個人のデバイスのネット接続以外にも、内蔵されたタブレットによる地図検索や市の情報提供を行うほか、USB充電や緊急通報機能の提供、さらには公衆電話としての役割もIP電話アプリによって再構築される。その費用は、すべて側面の55インチHDディスプレイに表示される広告収入で賄われ、5億ドル以上もの収益をニューヨーク市にもたらすとされている。
向こう4年間に、まず4,550カ所で実現するリンクNYCのWi-Fi通信速度は、現在の多くの公衆無線LANとの比較で最大100倍にも達し、ニューヨークをスマートシティ化するためのインフラとしての役割も担う。
日本でも政府が、「2020年までに全国の観光地など約3万カ所に無料Wi-Fiスポットを設置する」との方針を打ち出してはいるが、現在普及しつつある、アクセスポイントを探すのにネット接続が必要だったり、日本国内ではダウンロードできない(つまり、外国人観光客専用)アプリを使うことが前提では、地元の人間も含めて優れたユーザー体験を与えることは難しいと言わざるを得ない。
東京も、2020年のオリンピックに向けて新国立競技場案やロゴマークの選定をもっとスムーズに済ませ、リンクTOKYO的な全都規模のインフラ整備に知恵と予算を使うべきだったのではないだろうか。