E&Yの設立30周年記念展覧会
「evergreen」開催中

設立30周年を迎えたE&Yの展覧会「evergreen」がアクシスギャラリーで開催中だ。E&Yは東京を拠点に国内外のデザイナーたちと協働しながら家具や小物の製作と販売を手がけるファニチャーレーベル。今回の展覧会では、これまでのコレクション約70点から代表的な作品を振り返ると同時に、2010年にスタートしたマルチプル(量産化されたアート作品)のコレクションである「edition HORIZONTAL multiple collection line」の新作5点、およびファニチャーラインの新作2点を紹介している。

目指すのは「新しい時代を感じさせる」ものづくり

E&Yのコーポレートカラーであるグリーンのフィルムで仕切られた空間には、これまで同レーベルが30年の間に多数のデザイナーたちと共に手がけてきた家具や照明、約40点が並ぶ。まだ「レーベル」というコンセプトが浸透していなかった頃から、所属デザイナーを擁さず、“編集”という視点で製品をプロデュースしてきた。これまでにトム・ディクソン(94年)やマイケル・ヤング(95年)、クリストフ・ピエ(97年)といった気鋭のデザイナーにスポットをあて、ユニークなコレクションを精力的に発表してきた。

グリーンのカーテンの向こうに並ぶ過去のコレクションも1つずつその時代を象徴する材料や技術、そしてコンセプトを反映してきた。

E&Yが目指すのは常に「新しい時代を感じさせる」ものづくりだ。世の中のニーズを拾ってそれに応えるのではなく、同時代を生きるデザイナーが何を考え、何をつくりたがっているのかを掘り下げる。そしてそれをかたちにし、量産体制を整えていくことがレーベルとしての開発業務だ。製品化されてからは、デザイナーの言葉や製品のことを顧客に伝えていくことも重要な役割となる。

デザイナーを発掘する際には、「強烈なパーソナリティを持ち、新しいことにチャレンジしているか」が重要なポイントとなる。E&Yでは製品を“作品”と呼んでおり、作家性やオリジナリティを持つ人が選ばれる。今回、ファニチャーラインから新作「TOKONOMA」シリーズを発表したロンドン在住のマックス・ラム氏は、RCAの学生時代に見出された。日本のものづくりと文化にも大変興味を抱いているというラム氏は「床の間」からインスピレーションを受けて製作した小物のシリーズを発表。鋳造やマット製造といった量産のプロセスに自ら入り込み、そこにラム氏独自のルール(規則)を組み込むことで逆に個体差やランダムな柄が生まれるという、ものづくりの根本を問い直すようなコンセプチュアルな取り組みとなっている。

マックス・ラムの「TOKONOMA」シリーズは、VASE(ガラス)、STOOL(木)、MAT(繊維)、DISH(ブロンズ)からなる。


蝋を溶かして型を取るロストワックス鋳造という技法を使ったブロンズの皿。蝋をバーナーで溶かして成形し、型を取る。量産プロセスに則りながら、即興的で一点物のようなものづくりを行ってみせる。

また同じくファニチャーラインからは中坊壮介氏も新作を発表している。太い脚を部材を組みあわせた構造体に薄くて軽やかな座面を載せたスツール「MOON」は月面に降り立つ宇宙船のイメージとのこと。脚と天板のアンバランスな重量感や構造が、スツールのキャラクターとして強く印象に残る作品だ。

中坊壮介「MOON」

マルチプルのコレクションラインも新作を日本初展示

E&Yでは、デザイナーの作品に表れる個性や特徴をできるだけかたちにしたいと考えている。2010年には、家具ではなく機能が欠落したものをと、デザイナーやアーティストの断片を集める取り組みとして、「edition HORIZONTAL multiple collection line」をスタートさせた。マルチプルと呼ばれる量産可能なオブジェのコレクションは、デザイナーやアーティストが持っているピュアなアイデアを議論しながら抽出し、編集側であるE&Yの開発チームと二人三脚で純度を落とさないようにかたちにしていく。そうしてできたものはデザイナーの断片と言ってもよいだろう。機能を前提にしていないコレクションラインのため、一見何に使われるものなのかわからない物もあるが、その答えはむしろ手に取る人の想像力に委ねられている

新作の1つ「rule book」は、アートディレクターの尾原史和氏によるもの。仕事で常に紙と向き合い、紙の歴史にも詳しい尾原氏はかねてより「紙をテーマにつくりたい」と考え、本のような体裁のオブジェを提案した。このオブジェは本の製作工程に対して、エラーを連続で起こさせるような手法で製作されている。中身は空白で1枚ずつポケット状に折られているので、何か書き込むなり、名刺やカードをしまうなり使い方は人それぞれだ。あえて「扱いづらいであろうオブジェクト」(尾原氏)としてただ置いておき、独特の存在感を味わうのもよい。

尾原史和「rule book」

またアーティストのスズキユウリ氏は試験管を製造する工場との協働による水笛「pied piper」を発表した。ロウトとフラスコの一部分を切って溶着させたもの。大変繊細で、吹き口や底面の僅かな違いで音が出なくなることから試行錯誤を重ねた。

スズキユウリ「pied piper」

開発する際にはそのアイデアが今までにないものかどうかを徹底的に調べる。E&Yにとって「個性」ともう1つ「新しいこと」が何よりも優先されるからだ。世の中の人が何を求めているかというよりは、「今の時代には誰の何を発表しておくべきなのか、この先何をつくったらよいのか」を追求する。今のデザイナーが考えるものは時代を反映しているため、アイデアはもちろん、技術や材料も含めて今しかできないデザインでもある。同時代そして少し先の未来を映し出す鏡として、そのエッセンスをかたちにするというE&Yの取り組みを、ぜひ会場でご覧になっていただきたい。(文/今村玲子)

E&Y 30th Anniversary Exhibition 「evergreen」

会期 2015年12月12日(土)-2015年12月20日(日)
時間 11:00〜19:00
会場 アクシスギャラリー 東京都港区六本木5-17-1 AXISビル 4F
入場料 無料

会期最終日の12月20日(日)16:00~18:00には、トークイベントも開催。さまざまな年代のデザイナーやジャーナリストらが参加し、これからのデザインについて考える内容になるとのこと。詳細はAXISギャラリーのFacebookでご確認ください。

関連トークイベント「Design Matters」
日時 12月20日(日)16:00~18:00(開場15:30)
開場 シンポジア(アクシス地下1F)
参加無料

E&Yのホームページはこちら