「ソレイユ・ノワール/ローラン・グラッソ」展

2008年にマルセル・デュシャン賞を受賞したフランス人アーティスト、ローラン・グラッソの日本初となる個展が銀座メゾンエルメス 「フォーラム」で開催中だ。

©Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2015
Photo by Nacása & Partners Inc. /Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès, Edouard Mallingue Gallery, Hong Kong


ソレイユ・ノワール/黒い太陽2015
ネオン 80×500×35mm


人はなぜ神話や迷信を信じ、言い伝えてきたのだろう。ローラン・グラッソは人が信じてきた神秘的な事象に関心を寄せる。そんな彼の作品には、19世紀のポンペイの遺跡を捉えた写真に2つの太陽と日食現象が写っていたり、天文学がまだ発達していなかった15世紀ヨーロッパの絵画と思しき絵の中に彗星やオーロラのような天文現象が描かれていたりする。あるいは兵庫県高砂市に現在も存在し、1300年ほど前の風土記の中に描写されている不思議な巨岩を驚きのまなざしで眺める人たちを描いた絵画もある。

ポンペイの黒い太陽 1817(右)
フレッソン・プリント、アルミにマウント、額装(胡桃)
古の鏡(左)
水銀、ガラス、真鍮 530×8mm


太陽と月が地球から見て同じ軌道上に重なる日食は、今では希少な現象として多くの人がその機会を一目見ようと待ち構える。しかし、地球が太陽の周りを周回していることすら考えられなかった時代の人々にすれば、太陽が月の影に隠れて見えなくなるのは、凶事の兆しとされた。同じ現象に対する受け止め方の違いは、何に依拠するのだろう。グラッソ氏は真実と自身によるフィクションを、絵や写真の中の世界で混在させることで見る者を異次元の世界に引き込んでいく。ここではないどこかへ。

過去についてのスタディ
木に油彩 470×340×57mm
過去の巨匠の手法を使ったこの作品は馬に乗った騎士が空に現れた未確認物体のような存在が放つ光に捉えられているように見える


はたして2つの太陽など存在するのだろうか。いや、そんな奇妙なこと、説明できるものか、という声が聞こえてきそうだが、実は、銀座メゾンエルメスのフォーラムは冬の晴れた日の午後の一時だけ、2つの太陽光が差し込む奇蹟的な環境を生み出す。

「そう、時に現実はフィクションよりも奇妙なものかもしれません」とグラッソ氏。

目で確かめないと現実と認めることができない、それが人間なのだろうか。(文/長谷川香苗)

空間を仕切る日本の屏風からヒントを得て、展覧会の会場構成も自ら行ったローラン・グラッソ氏。2枚の衝立で作品と向き合う空間をつくる手法は、洛中洛外図2枚の屏風を突き合わせて置くことで、その間に立つと360度が京都全体に囲まれるという16世紀の空間構成に通じるものがある
All images courtesy of Fondation d’entreprise Hermès, Edouard Mallingue Gallery, Hong Kong


「ソレイユ・ノワール(黒い太陽)/ローラン・グラッソ」展

会 期:2015年11月11日(水)~2016年1月31日(日)

会 場:銀座メゾンエルメス フォーラム

開館時間:月~土 11:00~20:00(最終入場は19:30まで)
     日   11:00~19:00(最終入場は18:30まで)

休館日:12月31日(木)~ 2016年1月2日(土)

入場料:無料

詳 細:http://www.maisonhermes.jp/ginza/gallery/